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3章
ヴァーリア人と反乱者 01
しおりを挟む雪妃が反乱者だと判ってから、早一カ月が経とうとしていた。
珍しくコハクは休暇を得ていたが、娯楽の少ないヴァーリアでは、家に籠っていてもすることは少ない。
なので、コハクは街に出ていた。
「・・・なんだろ、騒がしいな」
そうしてコハクが街をふらついていると、妙な人集りが目に入った。
何か事故でもあったのだろうかと気になり、コハクは人の間を抜けてその奥へ向かう。
するとそこでは、一人の若い青年が、数人の男性達に囲まれていた。
青年は恐らく反乱者で、服は汚れており、顔には傷が付き、血が流れている。
喧嘩と言うよりは、一方的に殴られたのだろう。
「あの、何かあったのでしょうか?」
コハクは遠巻きで見ている人に尋ねる。
「なんだか店に反乱者がいたらしくてね。あの男達が、そいつを外に連れ出したらしい」
「・・・あぁ、そういう事ですか」
コハクは反乱者の青年と男性達の様子を伺う。
すると、どこかで「おい、ここにも異界人がいるぞ」と声がする。
コハクはすぐに、その異界人とは自分の事だろうと察した。
面倒事になる予感を察したが、ここで逃げれば、変に怪しまれてしまうだろう
そう考え、コハクはその場で様子を伺った。
すぐに、周りの人々はコハクが異界人である事に気付き始め、人々の視線がコハクへと集まる。
「おい。もしかしてお前、あの反乱者の仲間か?」
一人の男性がコハクへそう問いかけると、周囲のざわめきが大きくなり始める。
が、コハクは冷静に一息吐き、懐から一枚の布紙を取り出す。
「僕は反乱者じゃありません。ヴァーリア軍の兵士です」
コハクが人々に見える様に掲げるその布紙には、自分がヴァーリア国の兵士である事を示す印が描かれている。
それ見て、一瞬の間、人々のざわめきが止む。
「反乱者でしたら、僕が軍へ連行しますが」
人並みを掻き分け、コハクが反乱者の青年へと近寄る。
すると、反乱者を囲んでいた男性の一人が、コハクの前に出る。
華奢なコハクに比べ、男性は大柄でしっかりとした体付きをしている。
見たところ、この男性は兵士でないだろう。
という事は、恐らく鍛冶屋か建築家だろうか? とコハクは推測した。
「おう、兵士さんが到着したぞ」
男性がそう言うと、他の男性達もそれに応じてコハクの方を向く。
「丁度いい。ソイツをこっちに連れてこい」
男性の合図を受けて、ボロボロの反乱者がコハクの前に引っ張り出された。
「おい、兵士の小僧。この反乱者を"処刑"しろ」
そして、男性はコハクへそう命令する。
「・・・え? あの、今なんて言いましたか?」
聞き間違えだろうかと思い、コハクは男性達に問う。
「この反乱者を、処刑しろと言ったんだ」
聞き間違いではなかったらしい。
今度は、はっきりと「処刑」という言葉が聞き取れた。
「えっと、まず話を聞かせてください。その方は何をしたのですか? 僕は、店に反乱者がいたから捕まえたと聞きましたが」
「こいつは物を盗もうと俺の店に入って来たんだ。武器も持っていた。間違いないな」
男性は反乱者の青年から取ったのであろう、魔術器をポケットから取り出す。
「違う、それは護身用だ。私は盗みも強盗もしていないし、するつもりはない!」
反乱者の青年が身を乗り出してそう言うが、男性の一人が反乱者を殴り、黙らせる。
「最近、ヴァーリアの軍が反乱者共の"片づけ"をしていると、新聞に載っているぞ。兵士なら、当然知っているよな? ・・・もっと早くそうするべきだった。俺はそう思う」
「・・・いくら軍とはいえ、窃盗はもちろん強盗であろうと、人をその場で処刑する事は出来ません。殺すのが許されるのは、任務として認められている時だけでー」
「軟弱な奴だな。お前、それでも本当に兵士なのか?」
言いながら、男性はコハクの腰に掛けてある剣を抜く。
「ふむ。剣はホンモノみたいだな」
男性は剣を品定めし終えると「ほら、剣を持て」とコハクへ剣を差し出す。
この剣で、反乱者を斬れ、という事なのだろう。
「処刑はしません。彼は僕が連れて行きますので、みなさんは掃けてください」
コハクは剣を柄に収め、集まった人々に掃ける様に支持を出すが。
しかし。
「おい、本当にこのまま何もしないで連行するだけか!? コイツは犯罪者だぞ!!!」
男性は気迫ある表情で、コハクの両肩を掴む。
「そうか、お前も所詮は異界人。一般人の気持ちが分からないんだな? じゃあ教えてやる。俺の妻はな、反乱者に拉致された挙句、殺されたんだぞ!!! 俺だけじゃない。ここにいる皆、毎日反乱者に怯えて生活してるんだよ!」
男性は興奮した様子で声を上げる。
周囲の人々はこの状況に、どうなるのかと心配そうな様子だが、中には「早く反乱者を殺せ」と野次を飛ばす声も聞こえる。
中には、コハクに同情する者もいるだろうが、行動を起こす程の者はまずいないだろう。
今この場は、間違いなくコハクにとってアウェーな空間であった。
「おい、兵士だったら黙ってないでちゃんと仕事してくれよ!? しかもお前は異界人だろう!? その魔法はなんの為にあるんだ!? 俺たちの安全の為に働くのが使命だろうが!!!」
(異界人のくせに)
コハクの脳裏に、耳触りの悪い、高い声が響く。
(異界人のくせに。何が英雄の力よ。馬鹿みたい。なんも使えないじゃない・・・!!!)
ハルが林の中で吐き捨てた言葉だ。
それがコハクの頭に響く。
「・・・うるさい」
コハクが呟く。
「あぁ、うるさい、うるさい!!!」
そして、肩を掴んでくる男性の腕に魔力を混めて、念力で締め上げる。
「こっ、こいつ何しやがった!? 腕が動かなくっ!?」
コハクは男性の腕を払いのけると、逆に男性の胸倉に掴み掛る。
「貴方の妻を襲ったのは、あの反乱者ですか?」
そう問いかけながら、コハクは反乱者の青年を指す。
しかし、男性は腕をびくびくと震えさせ、念力に抵抗している様であった。
「ぐっ、これは魔法か!? 魔法を使いやがったな!?」
「いいから!!! 答えてください!!!」
コハクが男性へ向かい強く叫ぶ。
怒号が飛んだことで、ざわついていた周囲も一瞬で静まり返った。
「つ、妻の件に、あいつは関係ない。・・・けど、あいつは反乱者だ。このまま何もしないでいたら、何か悪事を働くに決まっているだろうが!」
「じゃあ、あの反乱者はまだ貴方の店で盗みを行った訳でも無いのですね?」
「お、俺は、あいつが何か悪事を働く前に捕まえただけだ」
「へぇ、それはずいぶんと偉いですね。だが、くだらない正義感だ」
「ぐぅっ・・・!」
胸倉を掴むコハクの手の力が強くなる。
「あなた達は、自分らが幸せに暮らせるなら、反乱者や異界人がいくら死のうが関係ないのだろう。
冤罪で誤って反乱者が死のうと、自分らにはなんの責任もないと、そう言うだろう」
人というのは、赤の他人が死んでも、案外なんとも思わないものだ。
それは別におかしい事ではない。
親しい者だったり、共感出来る者が苦しんでいるから、助けたくなる。
それが人間だ。
しかし、だからといって。
自分達の為に犠牲になれというのは、正しい事とは言えない。
「あなたの言うとおり、人々を苦しめる酷い反乱者もいる。けど、今のあなた達の考えは、その反乱者と変わりない」
人々は言う。平和の為に、反乱者を殺せと。
反乱者は言う。生きる為に、人から奪うと。
どちらも、その根本は同じだ。
自分らの幸せの為なら、他人が傷付こうが関係ないのだ。
「あなたの妻を殺した反乱者も。反乱者であるというだけで人の処刑を命じるあなたも。・・・どっちも、ただの自己中心的な悪党だ」
コハクは男性から手を離すと、念力を解いて男性の腕を解放する。
「何の命令を受けていない僕には、ここで彼に罰を下す事は出来ません」
男性は一度コハクを睨みつけたが、先程の様に掴み掛ってくる事はないらしい。
「反乱者の彼を連行します。皆さんは除けてください」
そして、コハクは反乱者へと近寄る。
「ということで、僕と着いてきてください」
「・・・は、はい」
恐る恐る顔を上げる反乱者の青年へ、コハクは手を差し伸べた。
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