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3章

容赦のない任務

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 ヴァーリア国内。南方面にあるとある街。

 その一角で、不気味な程真っ赤な火柱が上がる。

 悲鳴を上げ、反乱者達が逃げ惑う。

 その様子を、カグリと仲間の兵士達が建物の屋上から見下ろしていた。


「ホラホラ、さっさと行けー。偉そうな奴か、女を捕まえろ」
 
 カグリの指示を受けた兵士達が建物の屋上を駆け、そして躊躇なく屋上から飛び降りる。


「さーてと」

 カグリは、裏路地へ逃げる一人の反乱者の女性を見つけると、その獲物へ狙いを定めて、屋上から飛び降りた。

 風の魔法で着地の衝撃を和らげ、カグリが地面に降り立つ。

 そして、その風の魔法の形式を変化させると、鋭い風の刃へ変化させ、逃げ惑う反乱者へ向けて発射する。

 放たれた無数の風の斬撃は、反乱者の片足を切断した。
 

「ひっ、ひぃぃ!!! いやぁぁぁ!!!」

 女性の反乱者が、自分の切断された片足を見て悲鳴を上げる。

「おっと、気絶しないでよ? 話がしたいから、殺さないでおいたんだからさぁ」
 
 カグリはひょこひょこと楽しげな足取りで反乱者へと近づく。


「こんな道の真ん中じゃあ、ゆっくりお話しも出来ないでしょ。ちょっとこっちに来てくんないかな?」

 カグリは傍にある建物のドアを蹴りで壊すと、反乱者をゴミの様に引きずって建物の中へと連れていく。

「さて、無駄話しているヒマはないから単刀直入に聞くけどさ、この男知らない?」

 カグリが手にしている紙には、殺人犯であり救世主であるユークリウッドの姿が映っていた。

「ひぃぃ、ぁぁっ、し、知らない、知らない!!!」  

 女性の反乱者は目を見開き、震える声でそう答える。

「ホント? よーく見て? コイツは最近現れた異界人で人殺しなんだけど、知らない?」

 カグリは反乱者の傍に寄り、ユークリウッドが写っている写真を、女性の顔に突き付ける。

「コイツがさぁ、君ら反乱者と仲間だっていうのはもうわかってるから、嘘はつかないでね?」

「いぃぃ、嫌ぁぁぁ!!! 誰かぁぁぁ!!!
   
 反乱者は残っている力を絞り出して、床を這いずり逃げようとする。

「誰か助けっ・・・!!! ぎゃあああ!!!」

 だが、カグリはそんな反乱者の脚、切断された傷口を掴んで、逃げるのを阻止した。


「言っとくけど、アンタはあと少し経ったら出血多量で死ぬ。わかる?」

 カグリは反乱者に近寄ると、野良猫に接する様に優しく頭を撫でた。

 対する反乱者は、目の前の悪魔に恐怖してガクガクと身体を振るわせる。 

「早く傷を手当しないと、アンタは死んじゃうワケ。だから、早く知ってる事を私に話してくれないかなぁ?」

 血の匂いが漂うこの空間とはとても不釣り合いな、楽しそうな笑顔を浮かべるカグリ。 

「あ、ぁぁぁ・・・!」

 弱弱しく声を漏らしながら、女性の反乱者は首を縦に振った。



***


 
「さぁーて、こんなもんかなぁ?」

 カグリは腕を伸ばして一息付く。

 先程の部屋には、幾つもの反乱者達の死体が転がっており、

 兵士達がその処理を始めている。

 死体の中には、カグリが最初にこの部屋で拷問した女性の死体もあった。


「カグリさん、女性を生かして連れてこいと言ったのは何故ですか? 偉い位の者を狙うのは、詳しい情報を知っている為だと分かりますが」

 一人の兵士が、カグリにそう尋ねる。

「そりゃあー、情報を聞き出しやすいからだけど? 女ってさぁ、自分が助かる為なら結構何でも話してくれるんだよねぇ」

「まぁ、錯乱して会話にならない奴もいるんだだけど」と付け足すカグリ。  


「うっ、うぇ・・・」

 そんな中、死体を見て気分を崩したのか、一人の若い兵士がその場で嘔吐する。

「おやおや、どしたの少年」

 カグリはにやにやとした顔で、少年の兵士へと近寄る。
      
「うぐ、すいません。慣れていなくて」

「ほぉー。人間と戦うのは初めてかいな?」

「いえ、何度か反乱者と戦った事はありますが、こんなに酷い場面は初めてで」

「ふーん。あのさぁ、どう思った?」


 カグリの質問に、少年は「えっ?」と声を漏らす。 

「この異界人の死体を見て、どう思ったかって事」

「え、えっと、それは。正直に言いますと、見ていられないです」

「そ。じゃあ、キミは反乱者を殺せる?」

 カグリは相変わらずにやにやと笑っているが、しかし質問された少年は少しも笑う事など出来なかった。
 
 もし、彼女の機嫌を損ねる答えを返してしまったら、どうなるのかが恐ろしかったからだ。

 少年の脚は小刻みに震え出していた。


「め、命令であえば、それに従います」

「そっかそっか。兵士としては、まぁ良い答えだねぇ」
 
「あ、ありがとうございます」

 カグリの返事を聞いて、少年は少し緊張が解れる。


「そうだなぁ、じゃあアンタにはひとつお話をしておこう」
 
 カグリはおもむろに反乱者の死体の一つを、少年へ見せつける様に掴み上げた。

「反乱者、つまり異界人っていうのは。人の物を奪い、人を犯し、社会を蝕む害虫なんだよ」

 そして、それをゴミの様に投げ捨てる。


「想像してみたまえ。キミの大切な人が異界人に犯される姿を」

「大切な人・・・?」

「そう。その人が、身体を痛めつけられ。服を破かれ。犯される姿をね」

 カグリは少年がどんな反応をするのか確かめる様に、一言一言を粘つく体液の様に垂らしていく。
 
「ひ、ぃ・・・」

 少年は、カグリの異様な威圧感に、また身体が震えるのを感じた。 
  
 
「少年、名前は?」

「ミっ、ミナツ、です」 

「そうかい。ミナツくんと言うのか。それじゃあ、私が立派な兵士となれるように訓練してあげるから、私の班に入りたまえ」

「は、はい・・・」 

 カグリは「がんばってねぇ」と、震えている少年の肩を軽く叩いた。

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