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3章

鈍感な勇者とヒロインと飯

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「あれ? 式利はまだ来てないんだな」 

 カノールの店に入ったセンリが、そう呟きながら店内を見渡す。

 店内には2人組の兵士がいるだけで、式利の姿は見当たらない。


「先に出かけると言っていたので、ここに来ているのかと思ったのですけど・・・」

 不安そうな表情を浮かべるフローラ。

 そんな彼女の横を、アルスフォードがすたすたと通り抜ける。

  
「ふん、奴のことはもう良い! 我はお腹が空いてもう我慢できない!」

 アルスフォードが颯爽と席に着くと、仕方ないなとセンリとフローラもそれに続く。

「式利の事だから何も問題は無いとは思うが。でも負傷した後だろ? あまり無理しなければ良いんだが」
 

「式利さんなら、大丈夫ですよ」

 そこへカノールが現れ、不安そうなセンリ達へそう告げる。 

「式利さんなら、先程コハクさんと来店してましたから」

「コハクと一緒に? 珍しいな。あの二人が・・・そんなに仲良かったっけ?」


 うーん、と頭を捻るセンリ。

「も、もしかして、二人ってそういう関係だったりするのか?」

 どうやら、センリは式利とコハクが恋仲なのかと思っているらしい。

「センリさんは、強くてかっこいくてとても頼りになる人です。けど、女の子に対して少し鈍感過ぎます」

 珍しく、不満の有り気な口調でフローラがそう言う。


「えっ!? なんで俺、ちょっと責められてるの!?」

「ですから、式利さんはそう簡単に浮気するような人じゃないって事です!」

「確かに、式利は真面目だし、浮気する様な奴じゃないよな・・・え"っ!? あいつ彼氏いたの!?」

「・・・やっぱりセンリさんは鈍感です。鈍すぎます」

「そんな、フローラがそこまで言う程、俺は鈍かったのか・・・」


 ところで、とセンリが続けてフローラに問いかける。

 「フローラは好きな人とかいるのか?」

「え、え?私ですか? わ、わわわ、私は、その・・・いなくもなくもない、というか?」

 フローラはちらりとセンリの顔を見るが、すぐに下を向いてしまう。 

「って、なんて私にそんな話を振るんですか!?」

 フローラの顔はみるみる赤くなっていく。

「ぶっはははは! すごい顔だなフローラよ! 真っ赤ではないか!!!」

 羞恥で真っ赤になったフローラを見て、アルスフォードは腹を抱えながら笑っている。


「ぐぬぅぅぅ、そういうアルちゃんはどうなんですか!? 好きな人くらいいるんじゃないですか!?」

「飯だろ」

 素早く答えるセンリ。

「飯だ」

 そして、あっさりとそう答えるアルスフォード。

「飯、ですか・・・」

 その返事を聞いて、フローラは火照った顔を覚ましながら、呆れた表情を浮かべるのであった。
 
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