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2章

南第4地区 03

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「覚悟はしてた」


 コハクが拘束した反乱者、それは、雪妃彩香であった。

「いつかは誰かと戦う事になるって」



「雪妃さん・・・? どうしてここに・・・?」

 驚愕した顔のコハクに対して、雪妃は落ち着いた様子である。

 それは覚悟を決めて悟っているのか、それとも冷静に逃げる機会を伺っているのか。

 雪妃は、ただ真っ直ぐにコハクを見つめている。



 沈黙する二人。


「コハクさん!!! 後ろです!!!」

 その沈黙を断ったのは、式利であった。

 その声で我に返ったコハクは、素早く後ろへ振り向く。

 式利の放つ鎖から逃れた1人の反乱者が、音もなくコハクに接近していた。


 式利はその反乱者へ向け、無数の鎖を伸ばす。

 それに反応した反乱者は、上から振ってくる魔法の鎖を軽い身のこなしで避けながら、コハクへ向かい接近する。

 その長いローブの中から、鋭い刃が覗く。


「剣!? こっ、こいつ本気か!?」

 そして、躊躇なく刃を振りかざす反乱者。


 コハクは咄嗟に結界を生成し、刃の一撃を防ぐ。

(なんだ、コイツ? 何か、変だ・・・)

 息を吸う間もなく刃を振るい、連撃を放つ反乱者。


 その連撃を受け、コハクの結界は徐々にヒビが入り始めた。

 結界は主に炎や毒霧、乱射される魔法弾の様に、回避が困難な魔法を防ぐ為に使われる魔法である。

 魔力を足せば厚くすることは可能だが、物理的な衝撃には強くない。


(まずい、耐えきれない。それにこいつの剣筋、速い・・・!?)

 結界を破られる。

 コハクがそう思った瞬間、屋上から降り立った式利が、反乱者を斬り裂いた。


「っ!? 手ごたえが・・・?」

 しかし、間違いなく斬り裂かれたはずの反乱者には傷一つついておらず、血の一滴も流れない。

 反乱者が振り向き、ローブの奥から覗く鋭い眼が式利を視る。

「まさかこいつは・・・!」

 その正体に勘付いた式利が、驚いた表情を浮かべる。


 そして反乱者はコハクの方へと向き直ると、黒い刃を振るい、コハクの結界を砕いた。

 そして、瞬きをする間もなく黒い刃が振り下ろされる。


「っ!!!」

 ガキン、と硬い物同士が衝突する鋭い音が響く。

 振るわれた黒い刃は盾に遮られ、コハクの身体を貫く事はなかった。

 結界が破られる寸前、コハクは魔法の蔦を伸ばして雪妃の落とした盾を引き寄せ、それで黒い刃を防いだのだ。



「コハクさん!!! 避けて下さい!!!」

 そして、反乱者の背後に立つ式利が魔法を唱える。 

 式利の両腕から、魔法を使用する合図である白い霧が漏れ出す。

 それと同時に、反乱者の立つ真下の地面からも白い霧が沸き出し、そして、眩い光が炸裂した。


 魔法の衝撃が地面を揺らす。

 しかし、炸裂した魔法は周囲を巻き込む事なく、まるで生き物の様にうねり、反乱者の身体に巻きついて襲いかかった。

 センリと同じ班で、彼のサポートをしている式利だからこそ出来る、精密な魔法のコントロール技術だ。



 しかし。

 その魔法の直撃を受けてもなお、目の前の反乱者は平然とその場に立っていた。


「魔法すら効果ナシですか。やはり、こいつは・・・!」

 戦闘は一度仕切り直しとなり、コハクと式利の二人は、一度反乱者から距離を取る。

 対する反乱者も直ぐに襲いかかってくる事なく、コハク達の様子を伺っている。



「式利さん、あいつは一体なんなんですか!?」


「あいつは・・・恐らく、例の殺人犯です」

 黒い刃を持つ反乱者、それは殺人鬼であり救世主である、ユークリウッドであった。


「えっ、な、なんで奴がここに? 奴は、北の街に潜んでいるんじゃ・・・!?」


「ええ、軍の話ではそのはずでしたが。しかし、剣も魔法もすり抜ける特殊な魔法に、魔物の様な片腕。

間違いなく奴が・・・例の、殺人犯です!!!」

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