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2章

南第4地区 01

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 いつも通りの手順で街に使い魔を設置し終えたコハクは、適当な建物の屋上で一息ついた。


「・・・はぁ」


 そして懐から一枚の写真を取り出してそれを眺める。

 先日、雪妃と一緒に橋の上で撮った写真だ。


「写真写り悪いなぁ、僕・・・」

 苦笑いを浮かべるコハク。  

 そんな写りが悪いコハクに対して、雪妃は撮り慣れているのか、写真でも相変わらず綺麗に写っていた



「何見てるんですか? コハクさん?」 

 突然、写真を眺めるコハクの背後から、少女の声が飛び出した。


「し、式利さん・・・!? び、びっくりした・・・」

 声をかけたのは、式利であった。


「写真ですか?」 

「あっ、いや、これは、なんでもないです!」

 咄嗟にコハクは写真を隠したが、しかし隠すのは遅すぎただろう。

「ふむ、意外です。コハクさんが雪妃さんとそんなに仲良くなっているとは」

「い、いや。偶然です・・・と、ところで!」

 気恥ずかしくなり、コハクは話題を逸らす。


「今日は式利さんも一緒の警備なんですね。なんだか久しぶりです」

「はい。どうやら、ヴァーリアも本格的に殺人犯を捕まえようと動いているみたいですね。何せ、センリ様が警備にまわされるくらいですから」

「えっ? センリさんも警備に来てるんですか?」

「はい。ここではなく北の街にですが。・・・しかし、センリ様が呼ばれるという事は、軍も大分切羽詰っているという事でしょうかね」  


 センリはSランクの兵士である。

 コハクは何度か彼の戦闘を間近で見た事があるが、その実力は間違いなくSランク、もしくはそれ以上でもおかしくないだろうと感じていた。

 そんな彼の手を借りる程に、その殺人犯は危険だと判断されたのだ。


「本当は私も御一緒したい所でしたが、北の街は異界人に対してとても厳しい街でして。

兵士であろうと、異界人は許可が下りた者しか入る事が許されないのですよ。なので仕方なく私は別行動なのです」

「そうなんですか、北の街ってそんな所なんですね・・・。あれ、それじゃあ、フローラさん達は?」

「フローラは別の街です。それと、アルはいつも通り外で魔物狩りをしています。あの子が魔法を使うと、街が大惨事になるので」

「あぁ・・・そうなんですね・・・」

 竜のブレスで、森もとろも魔物を焼き払うアルスフォードの姿を思い出し、確かにと納得するコハクである。


「さて。そろそろ仕事に戻りましょうか。あんまりお喋りしていると、カギツキ隊長にバレた時なんと言われるか分かりませんので」

「そ、そうですね」

 式利は、コハクへ「では何かあれば連絡を下さい」と告げると、勢いよく屋上の塀から飛び出した。

 式利は魔法で風や重力を操作して大きく跳躍し、隣の建物へと飛び移る。


「さてと。僕も、式利さんに迷惑かけないよう、ちゃんと仕事しなきゃ・・・」 

 恩人である式利の脚を引っ張る事は出来ないと、改めて気を引き締めるコハクであった。 


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