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2章
思わぬ発見 02
しおりを挟む時刻はまだ昼過ぎだが、店内にはあまり日が差し込まなく、ロウソクや魔法による明かりが灯っている。
少々薄暗い店内の雰囲気は、喫茶店というよりもバーに近い。
「お席はこちらになりまーす」
少女はコハクを連れて店内を進んでいき、適当に空いている席へと連れて行く。
「お、お邪魔します・・・」
「なによその初めて友達の家に上がるみたいな反応は。貴方、緊張してるの?」
「う、うん・・・」
コハクは3人程座れそうなソファの端っこに腰かけると、雪妃は同じソファに一人分の間を開けて座った。
「わー、なんだか付き合いたての学生カップルみたいな違和感・・・」
ぎこちない二人の様子を見て、少女が苦笑いを浮かべる。
「ほらほら、お兄さんも、もっと真ん中に寄ってー?」
少女は、ぐいぐいとコハクを押して、2人の距離を無理やり縮める。
「うぇっ!? いやいやいや! 僕はその、端が好きなので!」
意味の分からない言い訳を言ってしまうコハクである。
「またまたー。端っこよりもカワイイ女の子の方が好きでしょー?」
やがてコハクと雪妃の肩がぴたりと密着する。
コハクは顔が火照るのを感じたが、雪妃はこの少女の強引さに呆れているのか、半ば諦めた顔をしていた。
「それじゃあ私は失礼するので。しっかり接客してね、雪妃ちゃん!」
少女は「それじゃあねー」と手をひらひらさせて店の奥へと去っていく。
「えっと・・・」
何をすればいいのかわからないコハクは、とりあえず隣に座る雪妃を見る。
それと同時に、雪妃もコハクの方を向いた。
「・・・あっ」
結果として、2人は至近距離で見つめ合う状態に。
「ご、ごめん」
そう言いながらコハクは雪妃から少し離れる。
「そんな、謝らなくていいよ。よくわかんない事になっちゃったけど、一応お客でしょ?」
ふぅ、とため息をつく雪妃。
「あ、あのさ、雪妃さん? ところでこのお店って一体何のお店なの?」
「え? 何のお店に見える?」
「・・・えっと」
そう言われて、コハクは店内を見渡す。
店内には何かのキャラクターのコスプレをした可愛らしい服装の店員がおり、まぁまぁな人数のお客がいる。
そして、とある席では、男性客が店員の少女に絡んでいるのが見えた。
「や、やっぱりいかがわしいお店なんじゃ・・・!?」
「いや、違うの! あーもう、タイミング悪いわ!」
頭を抱える雪妃。
しかし男性客は相も変わらず、店員の少女に絡み続けていた。
そしてついに、男性が少女に手を伸ばしーーー。
その瞬間、少女は男性の手を掴んで、男性を椅子から床に引きずり落した。
「え"っ!?」
思わず驚いて声を上げるコハク。
更に少女は、床に叩き落した男性を、何度も踏みつけ始めた。
だが、心なしか踏みつけられている男性は、何だか喜んでいる様子である。
「こ、コスプレSM喫茶!?」
「ち、違うから! あれはあの子とあの客が特殊なだけなの!!!
た、確かに蹴られて喜んでたお客さんも居たけど、ここはただのコスプレ喫茶みたいなものよ!」
「そ、そうなの? でも何かこの店、喫茶店って感じはしないよね」
「あー、それはね。このお店は元々バーだったらしいの。まぁ、今でも夜はやってるらしいんだけど」
それも当然と言えば当然だろう、店内の雰囲気は、可愛らしいオムライスより、アルコール類の方が似合いそうな大人の雰囲気である。
「へぇー、そうだったんだ・・・」
「異界人のお客さんが喜ぶアイディアを出そうって話をしてたら、何故かこうなったらしいわ。
ちなみに、昼間はアルコールは出さないし、もちろんエロい事は何もしないから、健全よ」
「へぇ、け、健全ね・・・」
でも昼間から蹴られて喜ぶ客はいるのか・・・と。あまり役に立ちそうに無い情報を得てしまったコハクである。
「それで、何か食べるんでしょ? はい、どうぞ」
雪妃はテーブルに置かれたメニューを取ると、またコハクと肩を密着させた。
「ちょっ・・・!? 健全って言ってる傍から!」
「・・・ふふ。ちょっと何よ、そんなに女の子慣れしてないの?」
顔を真っ赤にして慌てるコハクを見て、雪妃はくすくすと笑う。
「いや、その、女性に慣れてないのは確かだけどさ・・・」
「ふーん。元の世界ではこういうコスプレ喫茶的な店には行ってたりしなかったの?」
「そういえば、こういうお店は行ったことなかったなぁ」
「そうなの? それなのに、よく異世界に来て初めてコスプレ喫茶なんて来ようと思ったわね?」
「確かにその通りだよね・・・」
雪妃の言うとおりである。
「けど、なんていうか・・・アニメとかゲームが恋しくなってたから、気になっちゃって」
それは咄嗟に出た言葉だったが、コハクは自分でその理由に納得してしまった。
元の世界に戻る手段はないと聞いた時、コハクは、自分が好きだったアニメやゲームは、もう一生見ることはないのだろうと、密かに悲しんだりした。
もっとも、兵士となり魔物と戦う様になってからは、そんな事を思う余裕など無かったのだが。
しかし、ここでまた懐かしいキャラクターの姿を見かけた事で、また恋しくなってしまったらしい。
「・・・って、僕今絶対変な事言ったよね!?」
異世界に来てアニメとかゲームが恋しいなんて奴、結構ヤバイのでは・・・と、コハクは自分の発言を後悔した。
「うん、中々に個性的な発言だったわね?」
「い、今の無しにしたい・・・」
「ふふ。ばっちり聞いちゃった」
意地悪そうに笑う雪妃を見て、コハクはまた顔が熱くなるのを感じた。
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