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授かったチートは可愛いだけじゃないらしい 02

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 魔物は、食い千切った殺人鬼の女性の上半身を呑み込むと、その巨体をぐるりと動かして、僕の方を見た。

 そして、こちらへ近付いてくる。

 何故あの魔物が、飼い主であるはずの女性を食い殺したのか、さぱっぱりわからないが・・・今はそんな事を考えている暇はない。

 早く逃げなくては、今度は僕が食われてしまうだろう。
 
 しかし、逃げようとしたものの、無数の触手が僕の周りを取り囲んだ。


「ひぃっ・・・!?」  
 
 あぁ、まずい。

 今度こそ、逃げられない。

 恐怖で足が震えて、思った様に動いてくれない。


 そして鋭い牙の並んだ、巨大な口が迫る。 

 きっと、僕もあの殺人鬼の女性の様に、食い殺されてしまうのだろう。 

 あと数秒で、あの鋭い牙は僕の身体に突き刺さり、真っ二つにする事だろう。

 と、思われたが。 
  

「・・・うひぃ!?」
 
 魔物の牙が僕に突き刺さる事はない。

 代わりに、魔物の口内から伸びた3本の触手(恐らく舌だろう)が、ベロベロと僕の身体を舐め始めた。


「ぎゃあああ!!!」

 きっ、気持ち悪い・・・!!!

 というか、これは絶対にヤバイ。
 
 きっと、奴は僕の身体を舐めて溶かそうとしているに違いない。


「ひぃぃぃ!? 溶かされるのは嫌だぁぁぁ!!! 誰かこいつを止めてぇぇぇ!!!」   

 すると。

 魔物の舌の動きが、ぴたりと止まった。 


「・・・え?」

 そして、魔物はその軟体動物の様な巨体を床に下ろし、僕の目の前でぐたっと寝転がった。

「な、なんなのさ!?」

 意味が分らない。 
 
 この魔物、襲って来たと思ったら、やっぱり止めて、そう思ったらまた襲いかかってきて・・・の繰り返しである。 

 一体、この魔物は何がしたいのだろうか?


「あ、わかった・・・!」

 そこで、僕は気付いてしまった。

「僕って、もしかして美味しくないのかな・・・?」

 恐らく、舌で舐めてきたのは、味を確かめる為だったのだろう。

 そうに違いない。

 ・・・良かった、味の不味い人間に生まれて。 

 
「いえ、違うと思います」

 と思った所で、ヒノが僕の隣に並んだ。

「え・・・違うの? 僕が美味しくないからでは、ない?」

「私が思うに、この魔物・・・あなたに懐いている様に見えますが」

「えっ? なんでっ!?」   
 
 このデカくておぞましい魔物が、僕に懐いている? 

 そんなこと、ありえない。

「理由はわかりませんが、さっきからこの魔物は、とても落ち着いている様子で、まったく敵意を感じません」 

「で、でも!!! 今さっき僕は、この魔物に舌で溶かされそうに!」

「あれは多分・・・スキンシップです」


「・・・嘘でしょ?」

 言われてみれば、さっきの魔物の行動は、犬が遊びで飼い主をペロペロ舐める様にも・・・見える訳あるかい!!!

 だが実際に、魔物はその軟体動物の様な身体を、飼い猫の様にだらーんと床に伸ばしている。

 さっきまで兵士達を食い殺していた魔物とは、全くもって様子が違う。

 
「私も気になる事ばかりですが・・・とにかく、この魔物が大人しくしている内に逃げましょう」 

「そ、そうですね・・・」

 全く持って、正論である。


「ちょっとー、誰でもいいから、早く肩を貸してほしいんだけど」
 
 ミナトの拗ねた声が聞こえる。

 どうやら、まだ呪いが解けていないらしい。
 
 ミナトは自力で立ち上がろうとしているが、一人で立ち上がれる気配は無い。 
 
 このまま放っておくのはかわいそうだ。

「い、今行きますね」

 ミナトの元へと急ぐ。

 ・・・その時。

  

 勢いよく入口が開き、数人の兵士達が入り込んでくる。

「ミナト様、ヒノ様! 急に魔物の様子が・・・って、うわっ!?」

 
 当然、彼らが目にするのは、魔物が建物内を占領している光景だろう(寝転がってるだけだが)


「ミナト様とヒノ様がピンチだ!!! 皆、魔物へ攻撃を再開しろ!!!」   

 兵士達が慌てて剣や杖を構える。
 

「ち、ちょっと待っ・・!」

 その兵士達に反応したのか、魔物が動き出す。

 無数の触手が、威嚇するように立ち上がる。

 まずい。このまま兵士達が攻撃を始めたら、魔物がまた暴れ始めるだろう。 


 しかし事情を知らない兵士達は、武器を構えて魔物へと接近していく。

「ま、待ってください皆さん、攻撃は一旦中止してください!」
 
 ヒノが兵士達へ呼びかけるが、もう遅い。

 魔物の触手が激しくうねり、攻撃の態勢に入る。

 最早兵士達も、ヒノの呼びかけに耳を貸す余裕などない。


「まっ・・・待って!!!」

 つられて僕も叫ぶが。

 けれど。僕の様な何者かもわからない奴の言う事など、兵士は誰も耳を貸さないだろう。

 そう思ったが。


 兵士達は歩みを止め、武器を持つ手を下ろし、はっとした目で僕の方を見る。
   
 そして魔物も、威嚇していた触手を下げる。


「・・・えっ?」

 皆があまりにもあっさりと聞き入れてくれた事に、こっちが驚いてしまった。
  
 それに、魔物まで僕の言う事を聞いている様な反応をしている。


「も、もしかして本当に、この魔物は僕の言う事を聞いているの・・・?」

 それどころか、兵士達まで僕の言う事を聞いている気がするのだが・・・。


「やはり、私が思った通りの様ですね」

 困惑している僕の隣に、ヒノが並ぶ。


「これは、街へ戻ったらよく調べる必要がありそうです」
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