子狐のウエディング

Sigune.

文字の大きさ
上 下
6 / 17
第1章

第5話

しおりを挟む
 デイドリームは、ウェザーヒーローズ本部の待合室に入り、スマホを触っていた。
「よお、子狐じゃん。元気?」

 親友のレオ・ウォーカーが声をかけてきた。
「元気だよ。あと、その呼び方、嫌いだからやめてって何度も言ってる。」
と、デイドリームが返すと、
「ごめんねー」

レオはスマホを触りながら、適当に謝った。


 デイドリームは昔から「子狐《こぎつね》」と呼ばれている。理由は、ブラウンが細目で狐に似ていたから。

 デイドリーム自身も少し細目なので、そう呼ばれ続けているのかもしれない。デイドリームはその呼び方が嫌いだ。「父さんを、狐呼ばわりされることが、嫌」だからだ。

 あとは、デイドリーム自身、狐に少し似ていると自覚しているので、より一層「嫌
いだ」という気持ちが強まるのかもしれない。

 

 レオは、切り出した。 
「さっき、また夢香ちゃんのこと無視したよね」

 「なんで知ってんだよ」
デイドリームは食い気味に返した。

 レオは、スマホを触りながら「見てたからだよーん」とふざけて答えた。スマホを触っていると、自然におかしくなってしまうのかもしれない。

 「なんで、夢香のこと無視し続けんの?」
と、レオが聞いた。

 デイドリームは答えた。
「父さんのことまだ許してないし、あいつといたら、不幸になる気がする」

 デイドリームは、さっき自動販売機で買ったお茶を飲んでいた。するとレオが突然、こう言った。
「夢香ちゃん、お前のこと好きらしいぞ」

 デイドリームは、口に含んだお茶を盛大に吹き出した。
「やめろよ、ほんとに」と、デイドリームは自分のハンカチで床を拭きながら言った。

 レオは追撃した。
「もしかして、お前も夢香のこと」

 「違っ…… 」
デイドリームが即座に否定しようとした瞬間、待合室にいた人が一斉に動き出した。試験時間が近づいているのだ。

 「とにかく、意地張りすぎんなよ。とりあえず試験頑張れよっ」
レオは肩をポンっと叩き、微笑んだ。そして、踵を返して去って行った。

 

 デイドリームは、感じたことのない不思議な気持ちになった。自分の胸がキュッと、締め付けられている気もする。

 夢香のこと嫌いなはずだったのに……

 この気持ちの正体がわかるまでは、時間がかかりそうだ。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

天空の魔女 リプルとペブル

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

A・Iが許せない!

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

ともだちみつけたよ

絵本 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

あの日の涙が幸せに変わるまで。

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

恥ずかしい写真

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...