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第二章 王国革命からの害虫貴族駆除編

148.冷静になって考えると、あの時の私は一体何やらかしてるのかっと自分の事ながらわけがわからないわ(SIDE:アーデル)

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 ……

 …………

 ………………

 今から約⑨年前となる、あの日はいつも通りだった。
 クラーラの体調が今朝から少々優れないのも、やはりいつもの事。

 体調が悪いからといって部屋に籠りっきりでは余計に病状が悪化しかねないし、外の新鮮な空気を吸うのは治療の一つ。
 母のユリアから外出を推奨された事もあって、アーデルはいつも通りにクラーラを背負い、腰には人形のデールをぶら下げ、侍女のメイを伴いながら花畑までピクニックに出かけた。

 まぁピクニックのついでに薬草の採取という任務も受けていたが、それをこなすのは主にクラーラとメイだ。
 薬草と毒草の区別が全くつかないアーデルは採取ではなく道中を阻む障害物をどかしたり、地面を掘り起こしたり、『何と人間砲弾スカイラブハリケーソ』でメイを崖上や木の上といった高所に上げたりっと主に力仕事を担当。

 そうして順調に任務をこなしてる中、異変が起きた。




 ゲフッ!!



 クラーラが吐血したのだ。
 いつものハンカチを少し赤く染める程度ではなく、色とりどりな花畑を真っ赤に染める程の量の血にアーデルは驚く。

「ク、クラーラ!?」

 血の海に沈むクラーラを慌てて抱き起すも、呼びかけには全く応えてくれない。
 クラーラが体調崩した時の対処法はいくつか教わってたが、今回ばかりは教わった対処法では駄目だと直感した。

 だが、駄目だからっと何もしないわけにはいかない。
 メイと共にできる限りの処置を施すも、症状が回復どころか悪化するばかりだ。

「もう私たちの手には負えません!急いで屋敷まで引き返しましょう!!」

「う、うん」

 メイから催促された通り、アーデルは目を覚まさないクラーラを背負って……
 クラーラの吐いた血にまみれようともお構いなしで急ぎ屋敷へと帰り、母のユリアに助けを求めた。






「お母さん!!クラーラは……クラーラは死んじゃうの!?」

「アーデル。大丈夫よ、あれはいつもの発作だから薬飲んで少し眠ればまた元気になれるわ」

「本当?!本当に……大丈夫なんだよね?いっぱい血を吐いてたけど、大丈夫なんだよね」

「大丈夫よ。だから、アーデルはいつも通りクラーラが落ち着いたらまた添い寝してあげてね」

「うん、わかった。いつも通り、デールと一緒に待ってるから」





 母の前だからあえて聞き分けの良い振りをしつつも、アーデル自身には予感があった。

 クラーラはすでに助からない。

 そのため、メイの気遣いに八つ当たりのような態度を取ってしまった。
 だが、メイはそんなアーデルの八つ当たりを綽綽と受け入れてくれるだけでなく、クラーラを治す手段が残されていた事を告げてくれた。

 それは……

「えぇ……父さまからこっそり教えてもらいましたが、お嬢様のお母さまのお母さまのさらにお母さまならクラーラ様を助ける事が可能だそうです」

 アーデルのお母さまのお母さまのお母さま。
 わかりやすく言うなら曾祖母の事であるも、アーデルは母ユリアの家系の事をくわしく知らない。

 知ってるのは家族が遥か東の遠方に居る程度ながらも……アーデルにとってはそれだけで十分だった。

「お母さんのお母さんのお母さんならクラーラの病気治してもらえるんだよね!!だったら今すぐ連れてくる!!」

 アーデルはそう叫ぶや否や、屋敷から飛び出したのだ。



(冷静になって考えると、あの時の私は一体何無茶やらかしてるのかっと自分の事ながらわけがわからないわ)


 だが、まだ幼い当時のアーデルは曾祖母を連れて来るのが正解っと信じ込んでいた。

 正確な居場所もわからないまま、ただ東の遠方っという漫然とした情報を頼りに突っ走った。

 山を越え、谷を超え、木々が生い茂る森の中へ突入してもまっすぐ東に進んだ。

 どんな障害が立ちふさがろうと、全てを吹っ飛ばす勢いで突撃し……

 怪我を負って歩けなくなっても、あきらめたくない一心で這いずるように前進し続け……

 そして……



 当時の記憶はそこまでだった。

 アーデルが目を覚ました時には全てが終わった後。

 クラーラが峠を越えてくれるどころか、回復の兆しを見せてくれたっという奇跡が起きた事実だった。

 ただし、代償として腰からぶら下げてたデール人形を紛失したり、今回の暴走の一見で各所から強火でじっくり怒られたりと散々な目にあわされた。

 ただ、アーデルも今回は洒落にならない被害……
 デールという変えの利く人形ではなく、メイという家臣の娘を自身のせいで永遠に失いかけたのだから素直に反省はした。

 デールを失ったのも自身の軽率な行動が原因なんだと、本当に大事にすべきなのが何かを教えてくれるための身代わりになってくれたんだっと思う事で納得した。

 はずだったが……



(思い出したわ……あの後……私は一度死んで…………魂だけになった私は木漏れ日ならぬ木漏れ月の光に照らされた森道を歩き続けて……そして……たどり着いた。クラーラを治してくれるかもしれない、自らを『魔女』と名乗ったおばあ……もといお姉さんの住む家に)


 その後の事はまだ思い出せない。

 あそこで起きた出来事はまるで夢の中であったかのように、不鮮明なのだ。

 ただ覚えてるのは小屋近くには一本の木が……
 淡い淡いピンクの小さな花びらが満開に咲いた、風が吹く度に花びらが舞い散る子ども心ながらも美しいと感じた木が立っていた事と……

 クラーラの病を治す代償としてデール人形を提示された事であった。

 最初は拒否した。
 デールはクラーラがアーデルのためにっと病弱な身でありながらも自らの手で材料を集め、自らの手で作ってくれた拙い人形。
 アーデルはその人形、デールを生涯に渡って大事にすると誓ったのだ。
 アーデルにとって命の次に大切な代物であるも、曾祖母からみたら要求したらしい。
 その際には『つくもがみか』とか『まものか』とかよくわからない理屈を述べられたが、最後にはデール自身までが説得に加わり……

 デール自身が残る事を希望したが故にアーデルは差し出した。

 そして……









 “取引成立ね。この人形、デールちゃんと引き換えにお嬢ちゃんの可愛い義妹ちゃんの病を治してあげるわ”





 ……

 …………

 ………………

「そ、そうだった……私はあの時曾祖母のおばあさんもといお姉さんにこの人形を……デールを代価として……それが、なぜここに!?」
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