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第二章 王国革命からの害虫貴族駆除編
78.この愚か者どもが……(SIDE:トビアス)
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王宮内では蜂の巣をつついたような騒ぎが起きていた。
貴族達は数日前に起きたデルフリ王太子主催のパーティーでデルフリ王太子が帝国第4皇子ハイドから謂われなき暴力を受け、側近達と共に瀕死の重症を負わされたと聞かされた。
この国際問題ともいうべき事態に国としてどう対処するかを討論するため主要貴族が集結したところに追加の情報……
パーティー会場で王太子に瀕死の重症を負うように仕向けた黒幕とされる王太子妃アーデルを王太子が直々に問い詰めて……あくまで問い詰めていた際に再度帝国第4皇子ハイドが乱入。
護衛や守衛をなぎ倒し、王太子達に再度重症を負わせた。
その後は黒幕候補であるアーデルをさらい、そのままゼーゼマン領まで逃走。王太子デルフリは大司教ヨーゼフの治療の甲斐あって命こそ助かるも、意識は依然と戻らないままという情報が追加された。
また、クズと共に直接的な被害を受けたアインとツヴァイの親である侯爵家当主の二人、アインズとツヴァインが主導して国王に直談判を行い、国王名義でゼーゼマン家に抗議と共にアーデルとハイドの身柄を引き渡すよう要請するも、返事はない。
そんな黒幕が若干の手を加えた情報を手にした主要貴族が集まった議会では……
「フランクフルト王国の面子にかけて戦争を行う事を提案する!!」
「それは早計だ!!商業ギルドからは職員がデルフリ王太子から謂れの無い拷問を受けた挙句に殺されたとのことで抗議文が届いているんだぞ!!パーティー会場でもデルフリ王太子は教会の大司教に逆らったせいで神罰を食らったという証言も多数ある!!まずは冷静になって情報を精査すべきだ!!」
「くどい!!それらは調べるもなく出まかせだ!!金に卑しい商業ギルドや神の威光と言えばなんでも思い通りにできる教会の考えそうな浅知恵よ!!!」
「そうだ!!その通りだ!!!」
「むしろ、高貴なる貴族に歯向かった事をわからせてやればいいのだ!!!」
開戦ムード一色に染まるという、黒幕の思惑通りに動かされていた。
その様を国王トビアスは冷めた目でみつめてながら小声でつぶやく。
「この愚か者どもが……」
王は真実を把握していた。
あのパーティーが行われた当日、彼は国王トビアスではなく給仕ビィトとしてその場に居たのだ。
クズ達の愚行含む一部始終を全て見届けていた事もあって、王は真実を……
いや、この一連の計画を立案した“黒幕”として……
ほぼ全ての真実を掌握していた。
フランクフルト王国第789代目国王トビアス。
世間は彼をお飾りにもならない愚かな王と称していた。
帝国から与えられた役目、第4皇女ブリキッテと子を儲ける事で帝国に王国の血を取り入れるという役目を放棄するどころか平民と子を成した愚か者な王。
平民を側妃に迎えるため、王妃に土下座までして頼み込んだ情けない王。
側妃が生んだ子を溺愛するあまり、クズへと育てた親失格な王。
第二子の出産で妻子諸共死んだ際には、その現実を認めようとせず引きこもった王。
新たな側妃を作ろうとせず、一人息子をひたすら溺愛する王。
王太子がとんでもないクズへと育とうとも、関係ないとばかりに親の責務すら放棄する愚かな王。
心ある諫言の声を遠ざけ、ただただ耳障りのよい言葉だけを受け入れる……
先代に負けず劣らずの愚かな王。
それが世間での評価であった。
それでも、ひと昔前は全く別の評価を受けていた。
トビアス国王を題材にした物語のおかげで……
横暴な帝国皇女のせいで恋人と引き裂かれるも、『真実の愛』によって見事に結ばれたという物語のおかげで……
嫉妬に狂った王妃に愛する者を殺され、その愛する者をいつまでも忘れられずに今なお愛を貫くという悲劇の物語のおかげで……
トビアスは愚王ではなく運命に翻弄された悲劇の王とされていた。
(もっとも、今はあれをそのまま信じる者はほとんどいないがな)
あれは王家の威厳を保つために吟遊詩人や脚本家に大金を渡して作らせたものなのだ。
教養を持つ平民が少なかった昔ならともかく、今は平民の間にも最低限の教養を持つ者が増えている。
彼らはあれが事実とはほど遠いものと理解した上で物語を楽しんでいるわけだ。
だから彼らは嘘を見抜く力がある。無数の情報の中で正しい情報のみを抜き出す力がある。
逆に貴族の教養は平民以下。
一応質の良い教育を受けているおかげで豊富な知識こそ持つが、教養がないためにその豊富な知識を生かすことが出来ない。
仮に出来たとしても、悪だくみや悪知恵といったロクな使い方をしない。
そのくせプライドだけは高く、自分の都合の良い話しか信じようとしない。
現実を……今の王国の現状を全くみようとしない。気付こうともしない。
(これを愚か者と称せず、どう表現する。だが嘆かわしいとは言わん……愚か者だったのは余も同じ)
トビアスは今眼前で繰り広げられている光景……
王国が破滅への道へと着実に進んでいる光景を見つめながら、昔を思い出していった。
貴族達は数日前に起きたデルフリ王太子主催のパーティーでデルフリ王太子が帝国第4皇子ハイドから謂われなき暴力を受け、側近達と共に瀕死の重症を負わされたと聞かされた。
この国際問題ともいうべき事態に国としてどう対処するかを討論するため主要貴族が集結したところに追加の情報……
パーティー会場で王太子に瀕死の重症を負うように仕向けた黒幕とされる王太子妃アーデルを王太子が直々に問い詰めて……あくまで問い詰めていた際に再度帝国第4皇子ハイドが乱入。
護衛や守衛をなぎ倒し、王太子達に再度重症を負わせた。
その後は黒幕候補であるアーデルをさらい、そのままゼーゼマン領まで逃走。王太子デルフリは大司教ヨーゼフの治療の甲斐あって命こそ助かるも、意識は依然と戻らないままという情報が追加された。
また、クズと共に直接的な被害を受けたアインとツヴァイの親である侯爵家当主の二人、アインズとツヴァインが主導して国王に直談判を行い、国王名義でゼーゼマン家に抗議と共にアーデルとハイドの身柄を引き渡すよう要請するも、返事はない。
そんな黒幕が若干の手を加えた情報を手にした主要貴族が集まった議会では……
「フランクフルト王国の面子にかけて戦争を行う事を提案する!!」
「それは早計だ!!商業ギルドからは職員がデルフリ王太子から謂れの無い拷問を受けた挙句に殺されたとのことで抗議文が届いているんだぞ!!パーティー会場でもデルフリ王太子は教会の大司教に逆らったせいで神罰を食らったという証言も多数ある!!まずは冷静になって情報を精査すべきだ!!」
「くどい!!それらは調べるもなく出まかせだ!!金に卑しい商業ギルドや神の威光と言えばなんでも思い通りにできる教会の考えそうな浅知恵よ!!!」
「そうだ!!その通りだ!!!」
「むしろ、高貴なる貴族に歯向かった事をわからせてやればいいのだ!!!」
開戦ムード一色に染まるという、黒幕の思惑通りに動かされていた。
その様を国王トビアスは冷めた目でみつめてながら小声でつぶやく。
「この愚か者どもが……」
王は真実を把握していた。
あのパーティーが行われた当日、彼は国王トビアスではなく給仕ビィトとしてその場に居たのだ。
クズ達の愚行含む一部始終を全て見届けていた事もあって、王は真実を……
いや、この一連の計画を立案した“黒幕”として……
ほぼ全ての真実を掌握していた。
フランクフルト王国第789代目国王トビアス。
世間は彼をお飾りにもならない愚かな王と称していた。
帝国から与えられた役目、第4皇女ブリキッテと子を儲ける事で帝国に王国の血を取り入れるという役目を放棄するどころか平民と子を成した愚か者な王。
平民を側妃に迎えるため、王妃に土下座までして頼み込んだ情けない王。
側妃が生んだ子を溺愛するあまり、クズへと育てた親失格な王。
第二子の出産で妻子諸共死んだ際には、その現実を認めようとせず引きこもった王。
新たな側妃を作ろうとせず、一人息子をひたすら溺愛する王。
王太子がとんでもないクズへと育とうとも、関係ないとばかりに親の責務すら放棄する愚かな王。
心ある諫言の声を遠ざけ、ただただ耳障りのよい言葉だけを受け入れる……
先代に負けず劣らずの愚かな王。
それが世間での評価であった。
それでも、ひと昔前は全く別の評価を受けていた。
トビアス国王を題材にした物語のおかげで……
横暴な帝国皇女のせいで恋人と引き裂かれるも、『真実の愛』によって見事に結ばれたという物語のおかげで……
嫉妬に狂った王妃に愛する者を殺され、その愛する者をいつまでも忘れられずに今なお愛を貫くという悲劇の物語のおかげで……
トビアスは愚王ではなく運命に翻弄された悲劇の王とされていた。
(もっとも、今はあれをそのまま信じる者はほとんどいないがな)
あれは王家の威厳を保つために吟遊詩人や脚本家に大金を渡して作らせたものなのだ。
教養を持つ平民が少なかった昔ならともかく、今は平民の間にも最低限の教養を持つ者が増えている。
彼らはあれが事実とはほど遠いものと理解した上で物語を楽しんでいるわけだ。
だから彼らは嘘を見抜く力がある。無数の情報の中で正しい情報のみを抜き出す力がある。
逆に貴族の教養は平民以下。
一応質の良い教育を受けているおかげで豊富な知識こそ持つが、教養がないためにその豊富な知識を生かすことが出来ない。
仮に出来たとしても、悪だくみや悪知恵といったロクな使い方をしない。
そのくせプライドだけは高く、自分の都合の良い話しか信じようとしない。
現実を……今の王国の現状を全くみようとしない。気付こうともしない。
(これを愚か者と称せず、どう表現する。だが嘆かわしいとは言わん……愚か者だったのは余も同じ)
トビアスは今眼前で繰り広げられている光景……
王国が破滅への道へと着実に進んでいる光景を見つめながら、昔を思い出していった。
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