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第一章 逆断罪劇からのクズざまぁ編

23.……と、とんでもない事になった(SIDE:ウール)

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「まず、もらうものからの交渉からしましょうか。ウール君」

 満面の笑みを浮かべながら言い放ったクラーラの言葉にモブ男改めウールは戦慄が走ると同時に過去の記憶。良くも悪くもクラーラに振り回されてきた記憶が蘇り始めた。




 ……

 …………

 ………………



 ウールは物心がついた頃にはすでに孤児であった。本来なら王宮勤めができるほどの生まれではない。知識も最低限の読み書きと計算ができる程度しか持っていなかった。
 だが、彼はクラーラと出会った事で本来ならまずありえない未来への選択肢を得てしまったのである。


 クラーラと出会ったのは6年前で12歳の頃。当時は孤児院出身者なギルド職員の伝手で孤児仲間達と共に下働きを行っていた。
 何の学もない孤児に与えられる仕事は大体が単純な力仕事、荷運びだ。

 そう、本来なら力仕事は学のない者が行うべき仕事であるが、当時のクラーラはその荷運びを行っていた。

 見た目は同年代とは思えないほど華奢であり、思わずドキリとしてしまうほどに整った顔立ちをした少女。
 服は一見すれば地味であるも、よくみれば孤児どころか平民ですら着れるか怪しいほどの上等な品。
 お姫様と言えばそう信じてしまいそうなぐらいだったが……

「違います。私はお姫様なんかではありません。大体私程度がお姫様だなんて本物のお姫様が聞いたら怒られちゃいますよ」

 彼女は木箱を2つも抱えながら笑って否定した。
 自分達は2人がかりでようやく木箱1つ。見た目詐欺な怪力具合をみればそりゃそうだっと妙な納得がいってしまったのだ。

 もっとも、それを正直に言ったら『お義姉ちゃんだったら5つは軽くいけるんだから、私怪力じゃないもん』と頬を膨らませながら抗議されててしまったわけだが……

 それが切っ掛けとなってウールはクラーラと親しくなった。
 親しく……といっても、ウールとだけでない。
 同じように下働きをしていた孤児や平民にギルド関係者、さらにギルドを出入りする商家や貴族子息と身分立場関係なく多くの者とすぐに親しくなった。


 ただ、貴族子息であったフェルトとは最初から親しかったわけではない。
 最初の会合は妹のメーアともめごとを起こすという最悪といいものだった。

 その原因はギルドを訪れたフェルトがたまたま行く手を阻む形で立って居たメーアを邪魔だと押しのけて転倒までさせたからいうもの。
 メーアはその件でフェルトに言い寄るも、平民……ましてや孤児が貴族を糾弾するのはまずかった。メーアは下手な男児よりも血の気が多いから余計にまずかった。

 ウールは必死で止めようとするも、メーアは止まらない。フェルトも喧嘩売られたと解釈してしまって一瞬即発の空気が生まれてしまうものだから……


 一体どうすればいいんだっと頭悩ましてる内に、騒ぎを聞きつけたクラーラがやってきた。

 自然体でつかつかと騒ぎの渦中、フェルトの傍まで近寄って唐突に胸倉を掴んだと思ったら……


「ふん!!」


 ぶん投げた。

 あの体格と細腕で人を10メートルは離れてるであろう壁際までぶん投げたのだ。あまりの非現実な光景なために一瞬目の錯覚と思うも、ド派手な音を立てて崩れさっていく木箱達が現実だと物語っていた。

 幸い木箱の中身は羊毛が主だったのでフェルトに大した怪我はない。木箱と羊毛に埋もれた姿にメーアはざまぁみろっと笑うも、ウールは顔面蒼白となる。

 貴族相手にこれほどやらかしたわけだ。下手すればその場で斬り殺される事もある。

「き、貴様……平民の分際で貴族であるこの俺を投げ飛ばしたな!!父上に言いつければお前らなんて死刑にできるんだぞ!!!」

 案の定、フェルトは切れた。
 怒り心頭で自身を投げ飛ばしたクラーラの胸倉を掴もうとするも、クラーラは平然とその手を先に掴み取って、後ろへひねりあげながら頭を地面へと叩きつけて押さえつけた。

「あがっ、貴様……平民の分際で貴族の俺を一度ならず二度も……!!」

「いいよ。貴方がお父様に言いつけるというなら好きにすれば?」

「貴様……後悔するなよ!!おい、父上を呼んで来い!!!」


 ……と、とんでもない事になった。
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