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第4章
31.もうダメだ……おしまいだぁ……(side:ローイン)
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「とりあえずはこれで一件落着?」
言うだけ言ったらさっさと森の中へ入っていったエクレアにちょっと唖然とするトンビに
「話すだけ話したらすぐに仕事か、全く働き者の妹だ」
少しは休むってのを覚えろっといわんばかりに肩をすくめるランプ。
だが、ローインの心情としてはある意味エクレアと一緒であった。
「いやいや僕等も働く必要あるよ。今すぐに」
「今すぐ?いいじゃないか。今日ぐらいゆっくりしてもバチ当たらないぞ」
「いや、バチじゃなくって」
「そうだ。今日天気いいから釣りにいこう。川で釣り糸垂らして昼寝しながら……な。いい案だろ」
ローインの狼狽とは正反対にのんびりと構えるランプ。
どうやら彼はエクレアがあれだけ慌ててる理由を察してないようだ。
ランプがこの態度では、ローインやトンビも巻き添えとなるのは確定的に明らか。
それだけは勘弁したいっとランプに理由を話そうとしたその時、トンビが制した。
「ローイン……黙っておこう」
「えっ、ちょっと」
みればトンビはすでに自分の分の朝食と共に籠と鎌を手にしていた。
どうやら彼もエクレアの後を追うかのように森へと入るつもりのようだ。
「いや、でも……」
「ランプ、昨日何言ったか覚えてる?」
「何って……」
トンビの問いかけに合わせてローインは昨日の事を思い出す。ランプは何を言ったかを思い出そうとするも、トンビはまどろっこしいと判断してかぼそりと小声で伝える。
“妹の事ぐらいわかってやらないと兄の面目が立たないだろ”
「あっ、言ったね。確かに言ったけど……」
「そういうこと。昨日は丁度『男なら自分の発言に責任持つのが筋』とも言ってる。それで何かあっても自己責任。ただし」
「わかった。巻き添え嫌だから僕等は僕等で用意しておくってことだね」
要点が伝わったのかにやりと笑いながらぐっと親指を立てるトンビ。
彼も結構いい性格になったものだと、つい釣られて笑う。
「善は急げだ。僕等もすぐに出よう」
「おーけー。ランプ、後よろしく」
「おぃおぃ、結局釣りは俺一人か。全く薄情な奴等だ。大物釣りあげてもわけてやらねーぞ」
「薄情なのはどっちだよ」
ローインは小声で突っ込むも、この後訪れる惨劇を考えるとむしろ同情してしまう。
でも……それでもランプが選んだ選択肢だ。
ローインとトンビもそれ以上何もいわない、まぁトンビは自分の分のパンを口にねじ込んでる最中なので物理的に言えない状況だが……
こうして二人はエクレアの後を追うようにして森の中へと入っていった。
でもって一人取り残されたランプはというと……
「本当なんだっていうんだ」
エクレアが置いていったパンをゆっくり味わうようにして食していた。
食べ終わった後は宣言通り釣り竿と桶を手に川へと向かう。
そして……
…………………
(side:俯瞰)
「ふふふ、大量大量。あいつらこの釣果見たら絶対驚くぞ」
ランプはご機嫌だった。
釣りは大当たりだったようで、桶には入りきらないほどの魚で満載だった。
狩人としての勘に従った結果であろう。
「さて。今日はこれで何を作ってもらおうかな。単純な塩焼きもいいが、味噌で煮込むのもいいよな。それに醤油だったら小麦粉まぶしてバターで焼いてもらうのも……いかん。考えてたら腹が減ってきた」
上機嫌に今夜の晩餐を思い浮かべるランプ。
彼は狩人としては優秀であり、狩りや採取の勘はピカ一であるも……
気付いていなかった。自分の命に危機が迫っていることに……
刻一刻と命のろうそくが短くなっていく中、アトリエに帰り着いた彼に待っていたのは………
「お兄ちゃん、どこ行ってたの?」
最初に出迎えたのは妹であるモモちゃんであった。
「どこって、釣りさ。川へ釣りに行ってた。驚くなよ、これがその釣果だ」
そう言いながら、自信満々に桶を掲げるランプ。
確かにその釣果は自慢できるものであろう。
いつもであれば自他ともに認める食いしん坊なモモちゃんは眼の色を変えて喜ぶところだろう。
『お兄ちゃん大好き~』とか満面の笑みを浮かべながら抱き着くのだが……
今回は違った。
モモちゃんを初め、森から帰ってきていたエクレア他2名も一様に冷めた目を向けていた。
「おいおい皆してなんだよその態度。うれしくないのか?それともうらやましいのか?」
気付いてなかった。彼は全く気付いてなかった。
自分の命が最早風前の灯だというのに………全く気付いてなかった。
「あの。ランプ君」
「ローイン心配するな。俺は元よりモモですら食いきれないほど釣れたからな。皆で満足いくまで食べれるぞ」
「いやそうじゃなくって机、机みて何か気づかないの?」
「机?」
ローインに催促されたこともあって、改めてみた机の上には出来立てのイチゴのタルトとモモのタルトが置かれていた。
「おっ、焼きたてか。モモ良かったな。大好物を作ってもらえて」
はははっと笑うランプはまだ気付いてない。
ランプの察しの悪さにローインは『あぁ……もうダメだ……おしまいだぁ……』っと額に手を置きながら天を仰いだ。
ちなみにトンビは媚びるかのように昨日空にしたワインの空瓶×2をモモちゃんへ渡し、エクレアはモモちゃんへみせつけるかのようにしながら傷薬を取り出している。
2人ともこの後起こるであろう惨劇を止める気なぞさらさらなかった。
むしろ『やれ』と言わんばかりな態度である。
「お兄ちゃん……約束したよね?」
両手にワイン瓶を装備し終えたモモちゃんはにこやかに問いかける。
笑顔だが目は全然笑ってない、凄まじいまでの殺気を全身から放ちながら問いかける。
「約束って…………」
「モモのタルト、作ってくれるって」
「祝う?タルト、誕生日の時に作るといったあれか?あれならもう作って」
「炭になってたけど」
「炭………炭?!」
そう聞いてランプは当時の状況を思い出していく。
下ごしらえと盛り付けを済ました後は窯に入れて20分。
それで完成だが………取り出してない。
そう、タルトを取り出してない。
状況が状況なので仕方ないのだが、強火で長時間放置されたモモのタルトは窯の中で“炭”となっていたのだ。
「あーそうか。だから今の今まであんな態度だったんだ」
「すでに果たされていたと思ってたなら納得」
ローインとトンビは朝のランプの行動の真意をようやく理解した。
ついでにいえばモモちゃんも当時の状況の大変さを理解していた。
だから、今までは追求しなかった。
約束を忘れてたとしても、それは催促しなかった方も悪いわけだ。今日用意できてなくても、すぐに気付いて謝ってくれたら次のチャンスはあげようぐらいの慈悲は持ってたのだが………
ランプはそのチャンスをぶっ潰した。
妹の約束を完全に忘れてた。
思い出すきっかけや要素はいくつもあったのに彼の中では妹の約束……
“モモのタルトを作ってやる”
は、すでに果たされてることになっていた。
そういった認識がつい先ほどまでの彼の態度だ。
モモちゃんの怒りボルテージは満タンな有頂天状態。
「す、すまん!!俺が悪かったからチャンスを……もう一度チャンスをくれ!!!」
必死に謝るも時すでに遅く…………
「「「遅くなったけどモモちゃん誕生日おめでと~」」」
「ありがと~」
満面の笑みでモモちゃんの誕生日を祝う3人と……
服と顔と両手に返り血で塗れたままタルトを口に運ぶモモちゃん。
その姿に3人はそれぞれ思うものはあるも、その心の内を決して口にすることはなかった。
兄の末路に関して、一切合切何も口にしなかった。
よって玄関前に転がっている赤い何かに関しては………
彼ら彼女らは意図的に視界と記憶から排除し、モモちゃんを祝うことに専念したのである。
そんな今日から約7年が経過し……
2人にとっての約束の日が訪れた。
言うだけ言ったらさっさと森の中へ入っていったエクレアにちょっと唖然とするトンビに
「話すだけ話したらすぐに仕事か、全く働き者の妹だ」
少しは休むってのを覚えろっといわんばかりに肩をすくめるランプ。
だが、ローインの心情としてはある意味エクレアと一緒であった。
「いやいや僕等も働く必要あるよ。今すぐに」
「今すぐ?いいじゃないか。今日ぐらいゆっくりしてもバチ当たらないぞ」
「いや、バチじゃなくって」
「そうだ。今日天気いいから釣りにいこう。川で釣り糸垂らして昼寝しながら……な。いい案だろ」
ローインの狼狽とは正反対にのんびりと構えるランプ。
どうやら彼はエクレアがあれだけ慌ててる理由を察してないようだ。
ランプがこの態度では、ローインやトンビも巻き添えとなるのは確定的に明らか。
それだけは勘弁したいっとランプに理由を話そうとしたその時、トンビが制した。
「ローイン……黙っておこう」
「えっ、ちょっと」
みればトンビはすでに自分の分の朝食と共に籠と鎌を手にしていた。
どうやら彼もエクレアの後を追うかのように森へと入るつもりのようだ。
「いや、でも……」
「ランプ、昨日何言ったか覚えてる?」
「何って……」
トンビの問いかけに合わせてローインは昨日の事を思い出す。ランプは何を言ったかを思い出そうとするも、トンビはまどろっこしいと判断してかぼそりと小声で伝える。
“妹の事ぐらいわかってやらないと兄の面目が立たないだろ”
「あっ、言ったね。確かに言ったけど……」
「そういうこと。昨日は丁度『男なら自分の発言に責任持つのが筋』とも言ってる。それで何かあっても自己責任。ただし」
「わかった。巻き添え嫌だから僕等は僕等で用意しておくってことだね」
要点が伝わったのかにやりと笑いながらぐっと親指を立てるトンビ。
彼も結構いい性格になったものだと、つい釣られて笑う。
「善は急げだ。僕等もすぐに出よう」
「おーけー。ランプ、後よろしく」
「おぃおぃ、結局釣りは俺一人か。全く薄情な奴等だ。大物釣りあげてもわけてやらねーぞ」
「薄情なのはどっちだよ」
ローインは小声で突っ込むも、この後訪れる惨劇を考えるとむしろ同情してしまう。
でも……それでもランプが選んだ選択肢だ。
ローインとトンビもそれ以上何もいわない、まぁトンビは自分の分のパンを口にねじ込んでる最中なので物理的に言えない状況だが……
こうして二人はエクレアの後を追うようにして森の中へと入っていった。
でもって一人取り残されたランプはというと……
「本当なんだっていうんだ」
エクレアが置いていったパンをゆっくり味わうようにして食していた。
食べ終わった後は宣言通り釣り竿と桶を手に川へと向かう。
そして……
…………………
(side:俯瞰)
「ふふふ、大量大量。あいつらこの釣果見たら絶対驚くぞ」
ランプはご機嫌だった。
釣りは大当たりだったようで、桶には入りきらないほどの魚で満載だった。
狩人としての勘に従った結果であろう。
「さて。今日はこれで何を作ってもらおうかな。単純な塩焼きもいいが、味噌で煮込むのもいいよな。それに醤油だったら小麦粉まぶしてバターで焼いてもらうのも……いかん。考えてたら腹が減ってきた」
上機嫌に今夜の晩餐を思い浮かべるランプ。
彼は狩人としては優秀であり、狩りや採取の勘はピカ一であるも……
気付いていなかった。自分の命に危機が迫っていることに……
刻一刻と命のろうそくが短くなっていく中、アトリエに帰り着いた彼に待っていたのは………
「お兄ちゃん、どこ行ってたの?」
最初に出迎えたのは妹であるモモちゃんであった。
「どこって、釣りさ。川へ釣りに行ってた。驚くなよ、これがその釣果だ」
そう言いながら、自信満々に桶を掲げるランプ。
確かにその釣果は自慢できるものであろう。
いつもであれば自他ともに認める食いしん坊なモモちゃんは眼の色を変えて喜ぶところだろう。
『お兄ちゃん大好き~』とか満面の笑みを浮かべながら抱き着くのだが……
今回は違った。
モモちゃんを初め、森から帰ってきていたエクレア他2名も一様に冷めた目を向けていた。
「おいおい皆してなんだよその態度。うれしくないのか?それともうらやましいのか?」
気付いてなかった。彼は全く気付いてなかった。
自分の命が最早風前の灯だというのに………全く気付いてなかった。
「あの。ランプ君」
「ローイン心配するな。俺は元よりモモですら食いきれないほど釣れたからな。皆で満足いくまで食べれるぞ」
「いやそうじゃなくって机、机みて何か気づかないの?」
「机?」
ローインに催促されたこともあって、改めてみた机の上には出来立てのイチゴのタルトとモモのタルトが置かれていた。
「おっ、焼きたてか。モモ良かったな。大好物を作ってもらえて」
はははっと笑うランプはまだ気付いてない。
ランプの察しの悪さにローインは『あぁ……もうダメだ……おしまいだぁ……』っと額に手を置きながら天を仰いだ。
ちなみにトンビは媚びるかのように昨日空にしたワインの空瓶×2をモモちゃんへ渡し、エクレアはモモちゃんへみせつけるかのようにしながら傷薬を取り出している。
2人ともこの後起こるであろう惨劇を止める気なぞさらさらなかった。
むしろ『やれ』と言わんばかりな態度である。
「お兄ちゃん……約束したよね?」
両手にワイン瓶を装備し終えたモモちゃんはにこやかに問いかける。
笑顔だが目は全然笑ってない、凄まじいまでの殺気を全身から放ちながら問いかける。
「約束って…………」
「モモのタルト、作ってくれるって」
「祝う?タルト、誕生日の時に作るといったあれか?あれならもう作って」
「炭になってたけど」
「炭………炭?!」
そう聞いてランプは当時の状況を思い出していく。
下ごしらえと盛り付けを済ました後は窯に入れて20分。
それで完成だが………取り出してない。
そう、タルトを取り出してない。
状況が状況なので仕方ないのだが、強火で長時間放置されたモモのタルトは窯の中で“炭”となっていたのだ。
「あーそうか。だから今の今まであんな態度だったんだ」
「すでに果たされていたと思ってたなら納得」
ローインとトンビは朝のランプの行動の真意をようやく理解した。
ついでにいえばモモちゃんも当時の状況の大変さを理解していた。
だから、今までは追求しなかった。
約束を忘れてたとしても、それは催促しなかった方も悪いわけだ。今日用意できてなくても、すぐに気付いて謝ってくれたら次のチャンスはあげようぐらいの慈悲は持ってたのだが………
ランプはそのチャンスをぶっ潰した。
妹の約束を完全に忘れてた。
思い出すきっかけや要素はいくつもあったのに彼の中では妹の約束……
“モモのタルトを作ってやる”
は、すでに果たされてることになっていた。
そういった認識がつい先ほどまでの彼の態度だ。
モモちゃんの怒りボルテージは満タンな有頂天状態。
「す、すまん!!俺が悪かったからチャンスを……もう一度チャンスをくれ!!!」
必死に謝るも時すでに遅く…………
「「「遅くなったけどモモちゃん誕生日おめでと~」」」
「ありがと~」
満面の笑みでモモちゃんの誕生日を祝う3人と……
服と顔と両手に返り血で塗れたままタルトを口に運ぶモモちゃん。
その姿に3人はそれぞれ思うものはあるも、その心の内を決して口にすることはなかった。
兄の末路に関して、一切合切何も口にしなかった。
よって玄関前に転がっている赤い何かに関しては………
彼ら彼女らは意図的に視界と記憶から排除し、モモちゃんを祝うことに専念したのである。
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