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第4章
26.お酒のせいかどうも記憶があいまいでー(side:エクレア)
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いつもなら朝となってエクレアが居間に入ると、その気配を察して皆が起きだす。
最低でも朝食を用意してればその匂いに釣られて起きだす。
起きたら「俺もよこせ」やら「作ってくれ」で皆してわいわいがやがや、やかましいぐらいにぎやかな席で朝食を共にしてたが………
「………いつ振りなんだろう。一人で朝食って」
少なくとも一人で朝食なんて滅多になかった。
普段は自宅で寝起きしてるからルリージュお母さんと共に朝食だし、アトリエは防犯の関係で最低でも3人の内誰かと共にいる時しか寝泊りしない。
だからエクレアの記憶の中ではほぼ誰かしらと朝食を共にしていた。
「…………いい加減起こしにいこっか。朝食も持ってって」
場の沈黙に耐え切れなくなったエクレアは席を立つ。
朝一の水くみ時に3人を起こさなかった最大の理由は、なんとなくローインと顔を合わせたくなかったところがあった。どんな顔して会えばいいかわからないところがあった。
当然だろう。昨夜は酒の勢いもあってビンタまでかました挙句、感情そのままにぶつけたのだ。
エクレア自身あそこまで言うつもりなかったのに、あの時は感情のままに思いの丈をぶつけた。
あれ本当に自分だったのか、客観的にみてもそうは思えないぐらいの豹変ぶりだったわけだ。
気まずくなって当然であっても、このままずっと避けるわけにはいかない。エクレアは覚悟を決める。
「あれは夢だ。夢。どうせ酒の席だったわけだし、私自身朝になったら忘れるって言ってたんだし、忘れちゃえばいい。あれは夢。夢、夢……ぶつぶつ」
傍からみると今のエクレアはかなり不気味というか不機嫌にみえただろう。
一人でぶつくさ言いながら歩いてるのだから、見る人が見れば相当怒ってるようにみえる。
よって……
「うわっ!?」
がちゃりっとエクレアが扉へ手をかける前に開いた事で、そこにいた者……
ローインに驚かれる羽目となった。
それもそうだろう。
ローイン視点でみれば、扉を開けた瞬間目の前に居たのがエクレアだ。不機嫌というかぶつくさ独り言垂れ流してるエクレアと遭遇だ。
相当面食らっただろう。
ちなみにエクレアが先に扉を開けていたら、ローインは思いっきり開け放たれた扉に強打されてたが今回はそんなベタな展開はなかった。
(えっと……何言おう)
とにかくエクレアは気まずい相手に何の準備もなく顔を合わせた事になった。
“キャロット”からローインが『真実の愛』の相手だとか言われた事もあり、不意の遭遇はエクレアに少なくない混乱をもたらした。
数秒の沈黙が続くも……
「おはようローイン君。今からご飯持ってくとこだったけどどうする?」
その沈黙をエクレアはあっさりやぶった。
彼女は元々『正気のまま狂う』がデフォだ。最初から混乱状態に陥ってるようなものだし、こういう時の立て直しも早い。
『真実の愛』云々も昨日の事も全く気にしてないという空気を作り出すため、エクレアはあえていつもと同じ調子で切り出す。
「あっ、うん。アトリエで食べるけど……その」
「護衛なのにその対象をほったらかしにしたこと?別にアトリエ内でいるだけが護衛じゃないし、問題ないんじゃないの」
どぶろくはともかくとして、ワインまで持ち出して大盛り上がりしてた時点ですでにレッドカードものではあったが、そこは触れない。
男の子にはああいう夜も必要なのだ。ランプが言った通りシチュエーションを大事にするエクレアはその件に関して何も言わずスルーした。
もっとも、アトリエアから持ち出した食料やワインの代金はしっかり請求するつもりであるが………
「あの……昨日の事だけど」
「昨日って何かあったっけ?私覚えてないなーお酒のせいかどうも記憶があいまいでー」
本当は覚えてるが、そこは約束通り忘れてる振りをした。
振りをしながらローインの前に先ほどエクレアが食べたものと同じもの。燻製肉と薬草ジャムをのっけたパンとインスタントスープを出す。
「じゃぁ私は二人を起こしにいくから後片付けは自分でやっといてね」
「待って!あれから考えたんだけど、改めて聞きたい事が出来たんだ!!」
これでいい。
ローインとしては昨日の続きを行いたいようだが、昨夜の記憶を消去した振りをしているエクレアはその事を蒸し返す気はない。
その件に関しては触れず、こちらはこちらで今日の予定を消化する。そのつもりだったが……
「エクレアちゃん、今の君は本物の“エクレア”なのかい?」
ぴたりと止まる。
本物のエクレアなのか……
ローインからそんな問いかけが来るとは思わなかった。
エクレアは一瞬どう答えようかと迷った。
迷ったがそれは一瞬だった。
「その答えは……私でもよくわからないかな」
あえて背を向けたまま答える。
顔を見せない方がいい。顔を向ければ動揺してることを悟られる。
特に今は様々な事が立て続けに起こり過ぎて、自分自身がよくわからなくなっている。
そこにさらなる揺さぶりをかけられたら、最悪今まで築き上げてきた“エクレアを演じている私”が消える。
本来ならここは適当にはぐらかすのが正解なんだろうが……
(ここは逃げるところじゃないよね)
エクレアは逃げる選択肢を取りたくなかった事もあり、正直に答えた。
最低でも朝食を用意してればその匂いに釣られて起きだす。
起きたら「俺もよこせ」やら「作ってくれ」で皆してわいわいがやがや、やかましいぐらいにぎやかな席で朝食を共にしてたが………
「………いつ振りなんだろう。一人で朝食って」
少なくとも一人で朝食なんて滅多になかった。
普段は自宅で寝起きしてるからルリージュお母さんと共に朝食だし、アトリエは防犯の関係で最低でも3人の内誰かと共にいる時しか寝泊りしない。
だからエクレアの記憶の中ではほぼ誰かしらと朝食を共にしていた。
「…………いい加減起こしにいこっか。朝食も持ってって」
場の沈黙に耐え切れなくなったエクレアは席を立つ。
朝一の水くみ時に3人を起こさなかった最大の理由は、なんとなくローインと顔を合わせたくなかったところがあった。どんな顔して会えばいいかわからないところがあった。
当然だろう。昨夜は酒の勢いもあってビンタまでかました挙句、感情そのままにぶつけたのだ。
エクレア自身あそこまで言うつもりなかったのに、あの時は感情のままに思いの丈をぶつけた。
あれ本当に自分だったのか、客観的にみてもそうは思えないぐらいの豹変ぶりだったわけだ。
気まずくなって当然であっても、このままずっと避けるわけにはいかない。エクレアは覚悟を決める。
「あれは夢だ。夢。どうせ酒の席だったわけだし、私自身朝になったら忘れるって言ってたんだし、忘れちゃえばいい。あれは夢。夢、夢……ぶつぶつ」
傍からみると今のエクレアはかなり不気味というか不機嫌にみえただろう。
一人でぶつくさ言いながら歩いてるのだから、見る人が見れば相当怒ってるようにみえる。
よって……
「うわっ!?」
がちゃりっとエクレアが扉へ手をかける前に開いた事で、そこにいた者……
ローインに驚かれる羽目となった。
それもそうだろう。
ローイン視点でみれば、扉を開けた瞬間目の前に居たのがエクレアだ。不機嫌というかぶつくさ独り言垂れ流してるエクレアと遭遇だ。
相当面食らっただろう。
ちなみにエクレアが先に扉を開けていたら、ローインは思いっきり開け放たれた扉に強打されてたが今回はそんなベタな展開はなかった。
(えっと……何言おう)
とにかくエクレアは気まずい相手に何の準備もなく顔を合わせた事になった。
“キャロット”からローインが『真実の愛』の相手だとか言われた事もあり、不意の遭遇はエクレアに少なくない混乱をもたらした。
数秒の沈黙が続くも……
「おはようローイン君。今からご飯持ってくとこだったけどどうする?」
その沈黙をエクレアはあっさりやぶった。
彼女は元々『正気のまま狂う』がデフォだ。最初から混乱状態に陥ってるようなものだし、こういう時の立て直しも早い。
『真実の愛』云々も昨日の事も全く気にしてないという空気を作り出すため、エクレアはあえていつもと同じ調子で切り出す。
「あっ、うん。アトリエで食べるけど……その」
「護衛なのにその対象をほったらかしにしたこと?別にアトリエ内でいるだけが護衛じゃないし、問題ないんじゃないの」
どぶろくはともかくとして、ワインまで持ち出して大盛り上がりしてた時点ですでにレッドカードものではあったが、そこは触れない。
男の子にはああいう夜も必要なのだ。ランプが言った通りシチュエーションを大事にするエクレアはその件に関して何も言わずスルーした。
もっとも、アトリエアから持ち出した食料やワインの代金はしっかり請求するつもりであるが………
「あの……昨日の事だけど」
「昨日って何かあったっけ?私覚えてないなーお酒のせいかどうも記憶があいまいでー」
本当は覚えてるが、そこは約束通り忘れてる振りをした。
振りをしながらローインの前に先ほどエクレアが食べたものと同じもの。燻製肉と薬草ジャムをのっけたパンとインスタントスープを出す。
「じゃぁ私は二人を起こしにいくから後片付けは自分でやっといてね」
「待って!あれから考えたんだけど、改めて聞きたい事が出来たんだ!!」
これでいい。
ローインとしては昨日の続きを行いたいようだが、昨夜の記憶を消去した振りをしているエクレアはその事を蒸し返す気はない。
その件に関しては触れず、こちらはこちらで今日の予定を消化する。そのつもりだったが……
「エクレアちゃん、今の君は本物の“エクレア”なのかい?」
ぴたりと止まる。
本物のエクレアなのか……
ローインからそんな問いかけが来るとは思わなかった。
エクレアは一瞬どう答えようかと迷った。
迷ったがそれは一瞬だった。
「その答えは……私でもよくわからないかな」
あえて背を向けたまま答える。
顔を見せない方がいい。顔を向ければ動揺してることを悟られる。
特に今は様々な事が立て続けに起こり過ぎて、自分自身がよくわからなくなっている。
そこにさらなる揺さぶりをかけられたら、最悪今まで築き上げてきた“エクレアを演じている私”が消える。
本来ならここは適当にはぐらかすのが正解なんだろうが……
(ここは逃げるところじゃないよね)
エクレアは逃げる選択肢を取りたくなかった事もあり、正直に答えた。
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