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第4章

25.このアトリエ、こんなに広かったんだ(side:エクレア)

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「う~ん………このアトリエ、こんなに広かったんだ」


 居間にて朝食を用意しながら、エクレアはついぼやいた。

 師匠であるマイが死んだ直後も広く感じていたが、今はその時よりも広く感じる。
 いろいろな意味で魔女の家といった散らかり放題の部屋をしっかり整理整頓したのもある。
 倉庫を増設して薬の原材料や普段使わない器材をそちらに移したからってのもあるが……

 それ以上に広く感じるのは、一人で居るせいであろう。

 2年前のやらかし一件から、アトリエにはよく人が訪れる。
 特にランプ達3人はギルド経由の護衛依頼を引き受けている関係上、アトリエに泊る時は3人も一緒に泊まり込む。
 ただ一緒といっても、同室では寝ない。

 あの3人にそこまでの度胸はないようで、エクレアがマイの私室兼寝室で寝るのに対して3人はこの居間で雑魚寝だ。

 各々隅っこで毛布に包まって眠りこけてるのが定番であるも、今日は居なかった。
 水くみに裏庭へ出た時、皆してサクラの木の下で眠りこけていたのだ。

「一応護衛の名目で来てるのに、その対象をほったらかしってどうなんだろうか」

 それでも叩き起こすような真似はしない。
 これは別に優しさというわけではなく、エクレアも一人で居たい時はある。
 考えたい事もある。整理したいこともある。

 昨日の晩は思った以上に疲れてたせいで、ベットに入った途端夢の中だ。
 その夢の中に存在する“深淵”内である程度の整理はしてきたが、それはそれ。これはこれ……だ。


「差し当たって、今の私に未来があるのかそうでないのか……」

 そう思いつつ、朝食として用意したパンをぱくり。
 上にのせているのは燻製肉と半端な薬草を適当にブレンドし、これまた適当に味を整えて作ったペースト。薬草ジャムといったものだが……

「う~ん…………なんかこのジャム。時々『邪な夢よこしまなゆめ』と書いて『邪夢ジャム』に変換されるわけだけど、私これに変なもの入れてないよね?これ口にした人が次の瞬間ぶっ倒れるとか謎の幻覚に襲われて笑い狂うような光景が見えたのは気のせいだよね????」

 エクレアはこの一週間の間、度々人格や思考が浸食されるようなデジャウに襲われていた。
 その原因は前世の力と共に残留思念として残されていた記憶を還元させた事によるものだろう。

 残留思念から読み取れる『狂化学者マッドサイエンティスト』改め『毒花畑ヒロイン』な前世は、改めて言うが相当あれなのだ。

 例をあげれば人体実験のスタンス。今のエクレアは薬師という職業柄、人体実験は切っても切り離せられないのである程度は行ってる……が、前世はある程度で済んでない。
 誰彼構わず、それこそ自分自身すら対象にした人体実験を決行しては少なくない騒動を巻き起こす、『狂化学者マッドサイエンティスト』にふさわしい超危険思考だ。

 科学ではなく化学……それこそ人を魔人に返る『超神水』のようなブツを思いつきの片手間で作っては戯れで他者に飲ませて効果を確かめる。時には自分自身で怪しげな薬を飲むから幾度となく死にかけたようであっても、結局は生き延びて人間離れした力を手にしていた。

 なので、なりふり構わない者は彼女?を頼る。『まさに魔王』と言わんばかりな力を持つに至った彼女?の恩恵を授かろうと力を求める。『力が欲しいか?力が欲しいのなら……くれてやる!』を地でいくとんでも薬や魔改造手術を求めるわけで……

 おかげで周囲は常に混乱や恐怖が満ちていたらしく、そういった感情が大好きな悪魔たちは呼んでもないのに寄って来て勝手に従僕していくから……

 気が付いたら無数の悪魔を従えた悪魔の長に祭り上げられる有様。



「はぁ……前世の私ってもう死んでくれてよかったって思うよ。出来るなら“深淵”の中で永遠に眠っててほしかったけど、『神』が私に偽の前世の記憶を埋め込むなんかしたせいで思いっきり怒らせちゃってるし……
 薬師として考えると前世で得た化学の知識は正しく運用できれば有益でも、大半が『超神水』みたいなやばい薬のレシピだから下手に再現しようものなら大混乱必須。こんな知識持ってるならもう教会から指名手配されるのも納得できちゃうじゃない。私の人生どうあがいても絶望しかないじゃない……はぁ」

 とはいっても、通常手段では『神』のシナリオ……乙女ゲーム系世界でよくあるゲームの強制力に対抗できない。対抗できなければいずれ強制的に『お花畑ヒロイン』の人格に心身を支配されてざまぁされる運命に突き進む事まったなし。
 回避するにはそれこそ『神』と同等のチート……すなわち『神』にすら対抗できる前世の力。
 『超神水』のようなとんでも薬で自身を魔改造しまくったことで完全に人間やめてしまった、悪魔すら首を垂れる魔王ともいうべき前世の力でシナリオブレイクさせる必要あるが、そちらは『狂化学者マッドサイエンティスト』という自分諸共自爆上等な正気の沙汰じゃない『毒花畑ヒロイン』思考に支配される事もあって、教会から全人類の敵認定される運命まったなし。

「あーもう、これ詰んでる……私の人生詰んでる!!改めて整理すると私の未来はお先真っ暗じゃん!!一応助かる手段はあるといっても、それって正気の沙汰じゃないような『狂化学者マッドサイエンティスト』改め『毒花畑ヒロイン』思考で『神』や『教会』をぶちのめしてシナリオブレイクさせろだし、もう難易度ハードを通り越した完全ルナティックレベルだよこれ……」

 そうは思っても、エクレアが明るい未来を手にするには『神』をぶちのめすしかないわけだ。
 話し合いとか交渉といった穏便な手段もあるにはあるが、推定魔王である男の語る『神』の性格とスタンスから考えるとまず聞き耳を持たない。持ってくれない。バグとして有無言わさず排除デリートされる。

 結局のところ……

「強くなるしかないわけか。今以上に強く……肉体的だけでなく、前世の到底まともじゃない『狂化学者マッドサイエンティスト』ともいうべき『毒花畑ヒロイン』思考を持つ残留思念に飲まれないよう精神的にも強く……むぐむぐ」

 パンを食べきり、インスタントのスープで流し込んで朝食を完食。
 その後に訪れたのはなんともいえない静寂だった。
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