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第4章

20.人間の怒りほど怖いものはない(side:魔王?)

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「死神?それって常に命を狙われかねないという、好転どころか余計悪化したように聞こえるけど」

 常識で考えればスージーの懸念は当然であろう。
 なので、男は根拠をのべる。

「好転ですよ。エクレアお嬢様が敵対するのは『神』。最低最悪で他の神がみれば奴と同類と思われる事が恥ともいえるような、どうしようもない奴であっても神は神。
 あれは様々な不都合を神の権力でもみ消してきたのです。その力でごり押しされたらエクレアお嬢様は抗う事すらできずなすがままでしょうが、死神が所属する冥府は権限として『神』と同等。そんな冥府の監視下に置かれた者を正規の手続きなしで処罰すれば冥府との敵対を意味する。すなわち、『神』の権限に対抗する後ろ盾を得たと同等なのです」

 しかもこのタイミングで接触を図る辺り、冥府もこの機会に奴を潰しにかかる算段なのだろうと男は判断した。
 男は知っている。『神』は魂の管理という冥府の管轄に置かれているシステムに違法な手段でもってアクセスしていたのを知っているのだ。
 今までは事故や偶然とかで言い逃れしてきたのだろうが、今回はその介入のせいでエクレアというとんでもないイレギュラーが産み落とされた。
 事故や偶然では済まされない案件となった以上、どうあがいても責任問題は発生する。
 冥府はその点で追及にかかる。言い逃れや責任転換、神の権限などお構いなしな強権でもって捜査に踏み込む。今までの違反や悪行を徹底的に洗い出すだろう。

 結局のところ、この瞬間奴の命運は尽きたのだ。
 遅かれ早かれ『神』とその一派は終わりなのだ。

 なのに、冥府は監視のみにとどめて手を出さないところみると……

(くくっ、どうやら冥府のお偉いさん達も私と同じ腹積もりのようだ)


 男も冥府もそれなりの立場にある故、直接制裁に動けば各所に角が立ってしまう。
 だが、“奴”の直接の被害者が制裁を加えたとなれば……

 角が立たないどころか、爽快な『ざまぁ劇』を繰り広げてくれるだろう。
 特にエクレアの深層意識下では“奴”に強烈な憎悪を抱いてるため、まず間違いなく事が起こると男は予測していた。


(楽しみだ。人間の怒りほど怖いものはない。ましてやバックに復讐や報復が大好物ともいえる悪魔が居るのだ。並大抵の『ざまぁ劇』では済まさないだろうな。その様を特等席でみれるなど、まさに最高の見世物だ。……っと私も含めて冥府はこう考えてるのだろうな。全く食えない悪党どもめが)

 悪党……といっても、誉め言葉な意味での悪党だ。
 それに、この瞬間から冥府は信用に値する組織となったわけだ。そうなると……

(ふむ……今まで冥府とはそう関わらなかったが、この機会に交流を持ってみるのもよさそうだ。私も“奴”の巻き添えで一緒に報復されてはたまらん。ただの雇われた契約社員だが非道な数々に幻滅して離反する気だという立場をアピールしつつ、ついでとしてこの案件が終わった後に新しい仕事先を紹介してもらうとしようか)


 大それたことを考えてる割には、最後の最後にどこか庶民じみた事を企んでいろいろと台無しにするのであった。



「ふふ、お楽しみな想像してるところ悪いのだけど何考えてるのかしら?私は貴方の事を完全に許してるわけじゃないのよ。いくら安全の確保をしていたとはいっても私の娘を拷問にかけるよう命じたという事実は消えないのだから」

「マダムルリージュ。貴女がいいますか。貴女も先ほど娘に拷問も辞さないっと言った態度をお忘れでしょうか」

「それはそれ、これはこれ。商売人なら個人的な私怨よりも損得勘定を優先しなければならないじゃない。愛を説かれたら思わせ的な返事でその気にさせて搾り取るのは商談の基本テクニックだというのに……あんな感情むき出しになるなんて失格も失格。
 だったら拷問程度の折檻にでもかけて強制的にわからせてあげるのが親心ってものじゃない」

 そうにっこりと抜け目なく笑うルリージュ。紳士のあいさつ代わり的に口説いたらまんざらでもない態度を取りつつも、こうやって裏では利用する気満々だっと本人を前にして正直にさらけ出すのだ。良い性格をしてるともいえるだろう。

「はぁ……ルリージュ。商売人の心得を教えるのはいいけど、少しはエクレアちゃんの気持ちも考えてやりなさいよ。今まで母子家庭でやってきたのに、いきなり父親面した男が現れたら反発されて当然でしょ」

「そんなのわかってるわよ。わかったうえでやってるの」

 今度はにっこりではなくにやり。腹黒さ全開な悪い笑みを浮かべながら言い切った。
 その姿は完全に娘と瓜二つ……娘の20年後を彷彿させる姿であった。

「くくく……。やはりあなたはエクレアお嬢様のお母さまでございます。私のような推定魔王に畏怖するどころか逆に利用しようとするその豪胆さは娘そっくりでございます。だが、それがいい。紳士の挨拶としてではなく、本気で求婚申し込んでいいでしょうか?」

「そうねぇ……娘を説得できたら考えてあげるわ」

「そのお言葉、お忘れなく」


 にやりと笑う男。エクレアはイレギュラーな存在といっても所詮は人間の範疇に収まる小娘。加えて彼女には身近に父親と呼べるような存在が居ない。そこを起点にして攻略してみせようっと企みはじめる。

 そんな二人のやりとりにスージーは頭痛がする頭を片手で抱えながらため息をつくのであった。
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