上 下
75 / 98
第4章

12.これ途中でツッコミ入れたら絶対キリがなくなる

しおりを挟む
「男……知ってるの?あいつの正体」

 ローインはごくりと喉を鳴らす。
 現在は母であるスージーを始めとする面子で目下調査中だが、エクレアは男と直に対面していた。助けに入るまでの間でなんらかのやりとりを行っていたわけだし、現在のところ一番男について知る人物だろう。

 ただ、エクレアはゴブリンに攫われて暴行を受けていたという事もあって、精神的負担を避ける意味も含めて詳細は聞かれなかった。深く追求することはなかったが……

 エクレアは話すということだ。男の正体含めて、あそこで何があったのかを……

 ローインは息をするのも忘れるほどの緊張した趣でエクレアの言葉を待つも……


「もちろんっていうかついさっき会った。会場から離れる前にお母さんへ一言告げておこうっと思って探してたらね。スージーおばさんの部屋で契約書をまとめてるって聞いたから部屋に入ったら…………あいつ、そこに居たの」

「…………」

 数秒間の沈黙。

「……えっと、あの男死んでなかったの?少なくともあの時は粉々のバラバラにしたつもりだったんだけど……それでも死んでなかったの?いやそもそもなんで母さんの部屋に!!?」

「わかる。その気持ちよ~~~っくわかる!!!私も入った瞬間固まっちゃったもん!!!!生きてるのは“キャロット”から教えてもらってたし、近いうちに接触してくるって聞いてはいたけど……まさかおばさんの部屋で遭遇だなんて思わなかったよ!!串焼きと酒片手にお母さんやスージーおばさんと楽しそうに談話してたなんて思わなかったよ!!!
 おまけにあいつ、思いっきりお母さん口説いてやがった!!態々私の目の前で顎クイとかしながら口説いてるし、お母さんもまんざらじゃないって顔してたし……あれ絶対『魅了チャーム』とか使ってる!!!吸血鬼お得意の『魅了チャーム』で誑し込んでるって、必死に訴えてるのに全く聞かないどころか、スージーおばさんから怒られたよ!!気持ちわかるけど落ち着きなさいっと『ごん!!』って拳骨落とされたし……わかる?私の気持ち!!もう頭の理解が追いつかず、でも脳天の痛みは本物でおもわず涙目になりながらも現実を受け入れられない気持ちをわかってくれるよね!!お母さんといちゃいちゃとするあいつをみてぶっ殺してやりたいっと嫉妬を通り越した殺意の念まで抱いた私の気持ちを!!!!」

「あ~うん、落ち着こう。興奮する気持ちわかるから落ち着こう」

 ローインはエクレアのはちゃめちゃな言葉に絶賛混乱中なのだが、実際に体験したエクレアは相当に混乱したのがわかった。
 この取り乱し具合でよくわかった。あまりの取り乱し具合で逆に冷静となってしまうほどによくわかった。

 幸い今のエクレアは背中の闇の翼を引っ込めているので憎悪のまき散らしはされてない。
 もし、あれを展開中でここまでの激情に駆られていたらどれだけの被害がでるか……

(考えただけでも恐ろしいよ)


 こうしてあやす事しばらく。エクレアもさすがに怒り疲れたのか、落ち着きを取り戻した。





「はぁはぁ……ありがとう。で、続きだけど………あのスケコマシの正体は魔王。300年ぐらい前にこの世界へ降臨した魔王の座を引き継いだ、近々新しい魔王として名乗り出る予定の男」

「………いやもういい。これ途中でツッコミ入れたら絶対キリがなくなる。だからあの男について知ってる範囲の事全部話して。考えるのはそれからにするから」

「魔王といってもあのスケコマシは自分を『雇われ魔王』と称してた。『魔王』が降臨してほしい世界に管理者……いわゆる『神』に自分を売り込んで契約を交わして『魔王』を演じるのがお仕事だってさ。それがスケコマシの正体で……次はスージーおばさんの部屋に居た理由でいい?」

「う、うん。そんな魔王様はなぜ母さんの部屋に」

「遺跡に調査へ出向いた時に取引を持ち掛けたからだとか。スージーおばさんを一目見た瞬間気が合いそうだったとかいう理由だけど、気が合ってたのは本当みたい…………あーお母さんはすっかり篭絡されちゃったし、もう完全に本丸を占拠されちゃったよ!!お母さん二人を人質に取られたも同然になっちゃった………えぐえぐ」

「………なぐさめる立場じゃないよね。それは僕も母さん人質に取られてる事にもなるし」

 なんていうか、自分の知らない所ではとんでもない事態になってたんだなっとローインは思う。
 すでに手遅れ感あるけど……

「あー手遅れじゃない。あのスケコマシ野郎は私の味方になってる。雇い主である『神』に思うところあるのか、私が『神』に反逆するつもりなら喜んで協力するだって。現に“キャロット”とはすでに取引が済んでて、今はもう『神』と戦うための共同戦線を張る盟友となってるから」

「悪魔と魔王が手を組んで『神』と戦う……ちょっと規模が大きすぎてピンっと来ないけどそんな大それた事考えて大丈夫なの?」

「大丈夫も何もお母さんとスージーおばさんが人質に取られてるんだよ!!完全に篭絡されてるんだよ!!目を覚ましてって叫んだら即座におばさんから拳骨落とされるんだよ。何度も正気に戻ってって叫んでたらお母さんなんて言ったと思う?『こんな聞き分けのない娘は徹底的に拷問にでもかけちゃいましょう』とか言い出すんだよ!!手足縛られて猿轡かまされて目隠しされた状態で首から『この子は悪い子です。徹底的に教育させてやってください』の看板下げさせてから三次会場となってる酒場に放り込まれそうになったんだよ!あの場に私の言い分聞いてくれる味方いないんだよ………力で覆そうにも圧倒的に実力が足りてないし、もう泣いていい?」

「縛って……エクレアちゃんの手足を縛って……徹底的に教育……」



 自主規制。
 ローインの頭の中は完全にあれ過ぎてもう表現できません。
 だから自主規制で誤魔化させてください。


 っというあれな妄想全開のローインは……



ゴン!!


 エクレアから放たれた踵落としで即座に現実へ戻された。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

がんばれ宮廷楽師!  ~ラヴェルさんの場合~

やみなべ
ファンタジー
 シレジア国の宮廷楽師としての日々を過ごす元吟遊詩人のラヴェルさんよんじゅっさい。  若かりし頃は、頼りない、情けない、弱っちいと、ヒーローという言葉とは縁遠い人物であるも今はシレジア国のクレイル王から絶大な信頼を寄せる側近となっていた。  そんな頼り?となる彼に、王からある仕事を依頼された。  その時はまたいつもの戯れともいうべき悪い癖が出たのかと思って蓋を開けてみれば……  国どころか世界そのものが破滅になりかねないピンチを救えという、一介の宮廷楽師に依頼するようなものでなかった。  様々な理由で断る選択肢がなかったラヴェルさんは泣く泣くこの依頼を引き受ける事となる。  果たしてラヴェルさんは無事に依頼を遂行して世界を救う英雄となれるのか、はたまた…… ※ このお話は『がんばれ吟遊詩人! ~ラヴェル君の場合~』と『いつかサクラの木の下で…… -乙女ゲームお花畑ヒロインざまぁ劇の裏側、ハッピーエンドに隠されたバッドエンドの物語-』とのクロスオーバー作品です。  時間軸としては『いつサク』の最終話から数日後で、エクレアの前世の知人が自分を題材にした本を出版した事を知り、抗議するため出向いた……っという経緯であり、『ラヴェル君』の本編から約20年経過。  向こうの本編にはないあるエピソードを経由されたパラレルの世界となってますが、世界観と登場人物は『ラヴェル君』の世界とほぼ同じなので、もし彼等の活躍をもっと知りたいならぜひとも本家も読んでやってくださいまし。 URL http://blue.zero.jp/zbf34605/bard/bardf.html  ちなみにラヴェル君の作者曰く、このお話でのラヴェルさんとお兄ちゃんの扱いは全く問題ないとか…… (言い換えればラヴェル君は本家でもこんな扱われ方なのである……_(:3 」∠)_)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。 父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。 彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。 子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...