上 下
72 / 98
第4章

⑨.これが君のいう最終手段か

しおりを挟む
「ふぅ……ちょっと酔っぱらったかにゃ~にゃ~んか変にゃ気分ににゃってきたらも~」

 子供でも飲めるお酒といってもお酒はお酒。
 ローインは酒に強い体質だったようでちょっとほろ酔い程度で済んでたが、エクレアは酒に弱かった。
 顔を真っ赤にしている。

 これ大丈夫なのかっと思うぐらいに真っ赤だ。

「きゃははっは~らいじょうぶ、よってにゃいよ~」

「完全な酔っ払いだよ!どっからどうみても酔っ払いだよ!」

 酔っ払いの酔ってない宣言ほど信用ならない言葉はない。
 エクレアは酔ってると判断したローイン。水を飲ませようと思って井戸の方へ向かおうとするも、その手をエクレアが掴んだ。

「いいにょ……こうでもしにゃきゃ~はにゃせないんだから~いまからいふこと~しらふじゃとうてい~はにゃせないから~」

「これか……これが君のいう最終手段か」

 酒の席でしか話せない事もある。胸の中のものを吐き出すのは酒の力が一番。
 酒の力でもって胸の内を全て吐き出す。悩みも苦しみも心の内全てをさらけだす。

 昔からよく使われる手段であっても子供がとっていい手段なのか……なんて一瞬思うも、これはこれで良い手かもしれない。酒の席なら大体なんでも許せる。

「そう、だから今から話すのはただの戯言。酔っ払いの戯言だから信じる必要はないし、なんなら忘れてもいいかな。なんせ私自身まだ整理が追いついてない状態なんだし、本当に酔っ払いの戯言として聞き流してる方が身のためだよ」

 さきほどの酔っ払いのフリはやめて真面目に顔を取り繕うエクレア。
 もっとも、顔は赤いままなので酒の力を借りてるのは本当だろう。
 そんな酔っ払いなエクレアと目が合った瞬間、不意に心臓がドキンと鳴った。

(なんだ?今の感触は……)

 どういうわけか、エクレアの目から離せない。離せなかった。まるで全てを見通されるかのような眼を前にしてローインは……

「じゃぁ改めて……何から聞きたい?」

「えっ?」

 エクレアの問いかけにローインはつい間の抜けた返事をしてしまった。気付けば不可思議な感覚も収まっていたが、惚けていた態度と返事にエクレアは少々呆れたようだ。ため息をつきながらも、再度酒をあおって仕切り直しにかかった。

「ふぅ……いろいろと、聞きたい事あるのでしょ。お酒に酔ってる間の私は正直者だから、質問には現状で私が知りうる事を全て正直に答えてあげる。当然はぐらかしは一切しないから好きな事聞いていいよ」

 にっこりと笑う。どうやらエクレアは話の主導権をローインに渡すようだ。
 これは助かる提案かもしれない。
 なにせ自分が知りたい情報をピンポイントで選択できるのだ。なら最初に聞く事は……


「教えてくれるんだよね。あの時何があったのか。なぜ僕は助かったのか」

 ずっと気になっていた。
 あの薬、魔力を上げる薬仮名超神水を飲んだ者は死ぬ。間違いなく死ぬ。
 だけど生きていた。生き残った。
 夢の中での出来事だったという考えはあるも……

 右腕に残る感触……確かにダンジョンボスらしき男を木っ端みじんに焼失した感触。今も残る右腕の違和感からみて、夢とは思えなかった。

「どうやってかというと……私はある悪魔と契約したの。契約した悪魔の力を使って死に瀕していたローイン君を救い出した。お迎えの死神を追い払ってまでね」

「えっ、悪魔?死神?……それって」

「百聞は一見に如かず。悪魔と契約した事で得た力を今見せてあげる」

 戸惑うローインを後目にして……



 エクレアの姿が変わった。



 『魔人化』の時のように、髪や肌の色こそ変わらなくとも、背中から生える翼が全てを物語っていた。

 漆黒に染まった、決まった形を取らない不定形のように蠢く闇の翼。

 奥から響き渡る声……
 聞くものを深い深い闇の奥……“深淵”へと誘うように招きいれる声に……



パン!!



「はっ?」

 エクレアの両手を打ち合わせて鳴らした音にローインは我に返る。
 自分は一体何をやろうとしてたのか、一瞬わけがわからず混乱するも



パンパン!!


 再度打ち鳴らした音で再び我に返った。


「えっと……」

「わかった?これが私の中に潜んでいた悪魔。“キャロット”と契約した事で得た『魔人化』と同じように私自身を悪魔そのものに変える『悪魔化』の力……教会の伝承にある、世界を滅ぼす力を秘めた魔王のごとき力なの」

 世界を滅ぼす魔王のごとき力。エクレアは自重気味にその言葉を発した。
 確かに常人なら今の彼女を禍々しい力を秘めた魔王という判断を下すだろう。
 世界を滅ぼすなんて誇張も信用するに値する程の力が内臓されていた。

 常人なら見た瞬間、正気がなくなる。発狂して、頭がおかしくなってしまうだろうがローインはそう思わない。感じない。ただ……


「キレイだ……」


 サクラの花びら同様に、ただただ美しい……
 その想いで胸がいっぱいになった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

がんばれ宮廷楽師!  ~ラヴェルさんの場合~

やみなべ
ファンタジー
 シレジア国の宮廷楽師としての日々を過ごす元吟遊詩人のラヴェルさんよんじゅっさい。  若かりし頃は、頼りない、情けない、弱っちいと、ヒーローという言葉とは縁遠い人物であるも今はシレジア国のクレイル王から絶大な信頼を寄せる側近となっていた。  そんな頼り?となる彼に、王からある仕事を依頼された。  その時はまたいつもの戯れともいうべき悪い癖が出たのかと思って蓋を開けてみれば……  国どころか世界そのものが破滅になりかねないピンチを救えという、一介の宮廷楽師に依頼するようなものでなかった。  様々な理由で断る選択肢がなかったラヴェルさんは泣く泣くこの依頼を引き受ける事となる。  果たしてラヴェルさんは無事に依頼を遂行して世界を救う英雄となれるのか、はたまた…… ※ このお話は『がんばれ吟遊詩人! ~ラヴェル君の場合~』と『いつかサクラの木の下で…… -乙女ゲームお花畑ヒロインざまぁ劇の裏側、ハッピーエンドに隠されたバッドエンドの物語-』とのクロスオーバー作品です。  時間軸としては『いつサク』の最終話から数日後で、エクレアの前世の知人が自分を題材にした本を出版した事を知り、抗議するため出向いた……っという経緯であり、『ラヴェル君』の本編から約20年経過。  向こうの本編にはないあるエピソードを経由されたパラレルの世界となってますが、世界観と登場人物は『ラヴェル君』の世界とほぼ同じなので、もし彼等の活躍をもっと知りたいならぜひとも本家も読んでやってくださいまし。 URL http://blue.zero.jp/zbf34605/bard/bardf.html  ちなみにラヴェル君の作者曰く、このお話でのラヴェルさんとお兄ちゃんの扱いは全く問題ないとか…… (言い換えればラヴェル君は本家でもこんな扱われ方なのである……_(:3 」∠)_)

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

冷酷無慈悲なお兄さまに認められたい

桐生桜月姫
恋愛
わたしの名前はレティシア• マイグレックヒェン。 公爵令嬢にして冷酷無慈悲な公爵家当主兼兄の妹。 8歳にして初めてお会いしたとても冷たいお兄さまに殺されてしまわないないように、幼馴染にして従者のジェフリー•ガルシアと共に殺害回避に臨むことにした。 なんとかしてお兄様に利用価値を認められたら殺されないわよね……? とりあえず、苦手で嫌いなお父さまとお母さまと同じように無残に早死にしないように努力はするわ。 目指せ、老衰! ******************* こちらの作品は5日に1話更新です。

求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。 父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。 彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。 子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。

成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世
恋愛
 異世界転生キタコレー! と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎  えっあの『ギフト』⁉︎  えっ物語のスタートは来年⁉︎  ……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎  これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!  ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……  これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー  果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?  周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

処理中です...