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第4章

7.教えてくれるんだよね。一週間前に何があったかを

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 エクレアの常に上を目指す心意気。
 その真意は……


「大体、今回の商談は師匠の威光……保存食や携帯食の権威として知る人ぞ知る有名人だった師匠のおかげでバカ売れだった部分もあるんだよ!!師匠に逆襲するため借金を背負ったのに、師匠の威光を利用して借金返すなんて全然逆襲になってない!!!だからね、私は改めて決意するの。『味噌』と『醤油』の品質をさらに高めつつ、それらを使ったいろいろな料理を開発して塗り替えてやるの……師匠の威光を私の威光に塗り替えてやるのが私の次の目標!!!!」

 ただの私怨だった。
 エクレアの師匠であるサトーマイはエクレアの身代わりとなる形で死んだのだ。そのことは3年経った今も許せないのだろう。

 それでもサトーマイの名誉を一切傷つけようとしない辺り、エクレアは言うほど師匠を嫌ってるわけではないのかもしれない……


「まぁ~でもしばらくのんびりはしてもいいかな。真似はできても量産体制を整えるのはそう簡単に行かないだろうし、ローイン君のリハビリが終わるまでは待ったげる」

「いいよ、ここまでたきつけられたなら今まで通りやっていこう。僕だけでなくランプ君やトンビ君、さらにモモちゃんも巻き込んでね」

「………うん、皆で今まで通り……か」

 会話がはずんだなっと思ったら、ふとエクレアが影をみせた。
 やはりエクレアは一週間前の騒動に関して何かあったのだろう。

 もしかしたら現在大人達が究明しようとする謎を全て知っているのかもしれない。
 だから……

「教えてくれるんだよね。一週間前に何があったかを」

「教える。話す気はあるんだけど………話聞いてもどうせ半分以上理解できない話になる。だから最低限聞きたいことだけは教えるんだけどまだもうちょっと……もう少しだけ待って。古今東西ここんとうざい森羅万象しんらばんしょうありとあらゆる意味でのを使って話すからっというか、今回はそれ使って話したい気分なの!!」

「最終手段って……何考えてるの!?」

「すぐにわかるよ。それよりアトリエに着いたから、ちょっと待ってて。追加のお供えもの持ってくるから」

「お供え物って、手に持ってる料理以外にもあったんだ」

「うん、今日この時のために用意していたものがあるんだよ」

 そう言いながらアトリエに入るエクレアはほどなく……3分程度で戻ってきた。
 この時のために用意していたという、口の細い壺に紐を取りつけたものと3つの盃を持って。

「それが用意したもの?中身はなんなんだい?」

「後で教えてあげる。それよりお墓行こうか、今の瞬間しかみれないものがあるの」

 そう言われてローインはエクレアと共にアトリエの裏手にまわる。
 そこには……


 淡いピンクの花びらを……月の光を浴びて夜を淡く照らす花びらを満開に咲かせたサクラの木がたたずんでいた。

「キレイだ……」

 それ以外の言葉が見つからないほどの美しさであった。
 昼のサクラも美しかったが夜はそれ以上に美しく……
 そして、神秘的だった。

「どう、すごいでしょ。この木、サクラは前にも説明したけど師匠の……マイ師匠の故郷に住む人にとって心の拠り所とする特別な木なんだって。昼も綺麗だけど夜は夜でまた別の顔を覗かせてくれるんだよ」

「そう……なんだ……」

 このサクラの木は前から知っている。
 というか忘れるわけがない。
 ここまで大きくなってない頃、苗木の頃にランプが悪戯でちょっかいをかけて折ってしまったのだ。忘れようとも忘れられない記憶だ。

 幸い折れた苗木はスージーが特別に精製したポーションで元通りに治った。
 治ったからこそ大事に至らず済んだわけであるが……
 その代わり、通常の3倍の速度で成長してしまった。

 まだ10年も経ってないはずなのに、30年は経過したであろう貫禄をみせるサクラの木は……

(わかる……あの時エクレアちゃんがあれほどまでに怒った理由が今ならわかるよ)


 これほどまでに美しく、人を惹き付けてやまない光景を生み出す、決して人の手では作り出せない神秘性を持つ木を汚したのだ。

「あの、その……あの時は」

「大丈夫、もう怒ってないよ。大体あれはちゃんっと説明してなかった私達も悪かったところあるし。それにね」

 エクレアはすっと持っていた盃を差し出してきたので受け取る。
 その碗に紐がついた壺からとくとくと何かを注ぎ始めた。

「師匠の故郷でも喧嘩した後はお酒を飲みかわして仲直りする風習があるの」

「お酒……これお酒だったの?!」

 見た感じどろりと濁った白いミルクのようなもの。
 普段みる葡萄酒ぶどうしゅとはまた違った色合いをした液体。

「どぶろく。米から作る、師匠の故郷のお酒。『味噌』や『醤油』と並行して作ってたけど、今年ようやく完成までこぎつけたの」

 お酒……
 その言葉にローインは目を丸くさせた。
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