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第4章

4.あまり心配かけさせないようにって思ってたけど

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 エクエアは無理していつも通り振る舞っている。
 それは真実であった。

「よく考えればあれから一週間しか経ってないし、当然か……」


 冒険からの休養としてみるなら一週間は長い。
 だが、ゴブリンに攫われた者にとっての一週間は短い。

 この辺境の村……ゴッドライフは10歳前後の子供ですら戦力として数えられる事もあってゴブリンの被害はほとんどないが、周囲の開拓村はそうでもない。
 ゴブリン被害は多々あり、ゴブリンに攫われた者もそれなりに居る。

 攫われた後に何があったかは詳しく知らない。子供にはまだ早いからっと教えてもらってないが、被害者の大半は心を壊されて立ち直るのに年単位の養生が必要な事ぐらいは知っている。

 エクレアはゴブリンから拷問まがいな目に合わされて危うく死にかけたという事で、他の被害者と同様に考えるなら年単位の養生が必要なのだろうが……

 彼女は丸2二日眠りこけて3日目にようやく起きたと思ったらもうケロっとしてた。
 身体の傷は残ってても心の傷なんて全くないっとばかりに眠ってた分の栄養。5人前ぐらいの料理を平らげて、そのまま宴会の準備に奔走だ。
 本当、どんな精神してるんだか……っとあの時は思ってはいた。


「普段はそれこそエクレアだからで解決できる。でも今回は……」

「あのエクレアちゃんであっても、無傷ではいられなかったってこと?」

 トンビから指摘された通り、改めてエクレアを観察すると今日はどこか痛々しいというか無理していつも通りに振る舞ってるようにみえた。
 周囲に心配をかけないよう、気丈に振る舞ってるようにみえたのだ。

「周囲に弱音を吐かない。それはそれでエクレアちゃんらしくはあるけどね」

「弱音吐かないのはローインも同じ。先行きに不安感じてるのまるわかり」

「そっか……あまり心配かけさせないようにって思ってたけどまるわかりだったか」

 そう言いながらローインは改めて左腕をみる。
 左腕は最初酷い状態だったが、現地の応急処置の甲斐あって後遺症もなく今は軽く物を掴める程度に回復はした。
 それでも無理は禁物。元々成長期ということもあって素の回復力も早いのだから、ポーションや魔法に頼らずじっくり腰を据えて治すようにと言われている。

 対して右腕の方は……左腕以上に問題があった。
 最初こそほとんど動かなかったものの、時が立つにつれて動かせるようになった。今はものを掴めるようになったが、その力加減に問題があった。

 なにせ………軽く握っただけで石が粉々に砕けるのだ。意識しないとなんでもかんでも握りつぶしかねないので力加減に一苦労。
 つまり、握力を失った左とは対照的に右は過剰なほどの握力に振り回されてる形となってるわけなのだ。

 一応、容態を診察したエクレアは『魔力をあげる薬の副作用』と言ってるも……

「それが全てじゃないんだろうな」

 ローインは朧気にだが覚えていた。
 全力の一撃を放った瞬間……自分の右腕が男と共に焼失していく様を……

 本来なら右腕がこの場にあること自体おかしいのだ。、
 それでもエクレアが何も語らない以上、無理に追及する事はせず今は納得する振りを続けているのだ。その点をトンビに指摘された形となる。

「今後は……具体的に明日以降どうする……?」

「冒険者としての訓練活動は休業で当分はリハビリや右腕の力加減の訓練を続けながらギルドの裏方や母さんの手伝いかな。『味噌』と『醤油』の一件でギルドに多くの雑務が発生するだろうし案外忙しい毎日になると思う。それで、トンビ君はランプ君とコンビで冒険者稼業続けていくの?」

「しばらくは。でもいずれ解消はすると思う」

「解消……鍛冶屋を継ぐ気?」

「わからない。でも料理人……目指してみようかなっと思ってる」

 そうつぶやくトンビは各テーブルの料理……
 もうほぼ参加者の腹の中に収まった料理、おやっさんを始めとする酒場の調理スタッフと共に作った料理を見渡しながら答えた。

「料理人かぁ、いいと思うよ。『味噌』と『醤油』を仕込む職人や取引に来る商人やらで人が増えたからその分、料理の需要も増えるしね。現場では料理人を増やしたいと思ってるだろうし、申し込んでみたら?」

「雇ってもらえる……かな?」

「大丈夫。今日の料理を見た感じなら十分認めてもらえるよ。でも……どうせなら鍛冶も一緒に続けていくのもいいんじゃないの?」

「一緒に?」

「うんそう。エクレアちゃんだって薬師兼錬金術師で二足の草鞋を履いてるわけだしね。その時々で必要に合わせて履き替えてるんだし、料理と鍛冶をその都度履き替えてもいいと思う。料理に使う包丁や鍋だって作るのは鍛冶の仕事だから、自分で使う道具を自分で用意できる料理人。物珍しさで流行るかもね」

「二つの草鞋か……」

「っといっても、二つの草鞋を履く苦労を全く知らない僕が勧めるのはおかしい話かな」

「ありがとう。できるかどうかわからないけど頑張ってみる」

「お兄ちゃんたち、ちょっといい?」

「ん?モモちゃんどうしたの」

 男同士で友情を温め合っているという腐った方……11歳と12歳だからどちらかというとショタコンの方に需要ある二人の空気に割り込んできたモモちゃんだが、二人は気を悪くしたりはしない。
 話を切り上げてモモちゃんの方へ顔を向ける。

「料理なんだけど思った以上に消費が激しくって、追加いける?」

「用意した材料全部使いきってる。作るなら調達が必要」

「おやっさんに酒場の在庫使えわせてもらえるか聞いてみよっか。後せっかくだしここへ集まった商人の方々から食材を分けてもらうのも手かもね。その辺りは……僕よりエクレアちゃんの方が適任だろうからモモちゃんはエクレアちゃんにそう伝えて。僕らはおやっさんと交渉してくる」

「了解。じゃぁお姉ちゃんに話してくる」






 こうして急遽追加分の料理の材料集めを行う事になった子供達だが……
 その心配はなかったようだ。

 祭りに参加することなくギルド内で黙々と書類仕事を片づけていたギルド長はこの事態を予測していた。食材が足りなくなるだろうからっと狩人の方々に追加の獲物を狩ってくるようにっと依頼の手配をしていたのだ。

 そうして用意していた料理がほとんどなくなり、これでお開きかっと解散の流れになると思われた矢先に野生の猪と鹿を抱えた狩人達が会場に戻ってきたことによって………



「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!!!」」」」」

 大歓声と共に二次会が開催された。


 元ギルド長でギルド最強とも言われてるおやっさんのせいで影の薄いギルド長だが、彼も彼で有能なのである。

 ただし、彼に物語のスポットが当たるかと言われると……そういった機会はないだろう。

 それでも彼は文句を一切言う事なく、黙々と書類仕事を片付けていく。
 地味ながらもこういった縁の下の力持ちがいるからこそ、舞台の役者は気兼ねなく好きに振る舞えるのである。
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