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第4章

1.とっても悪い魔女は別に酒瓶で殴っても問題ない(side:俯瞰)

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※ 4章は某事情によってエクレアではなくローイン視点で物語が進むため、何もなければローイン視点と思ってください。




 ゴブリン騒ぎから一週間が経過した。
 エクレア達が帰還した直後はそれこそ大騒ぎになっていた。

 なにせエクレアはゴブリンに孕ませられる最悪こそ回避できたものの、拷問まがいな目に合わされてたわけだし、救出に出向いた3人もエクレアの手前やせ我慢してただけで割と危ない状況だったのだ。

 幸いというか傍目からみれば皆五体満足で帰還できたといっても、大人達は事態を深刻にとらえていた。ローインの自覚ある荒唐無稽こうとうむけいな説明を真剣に聞き、様々な予定をキャンセルしてゴブリンが居たダンジョンを徹底調査する等の異変究明に乗り出したのだ。

 今のところはまだ目下調査中で真相は不明であるも、エクレアにとっては調査結果より優先すべき事があった。

 それは今日行われる『味噌』や『醤油』のお披露目会だ。
 この日は様々な行商人や商隊、さらに商会の代表を招いて『味噌』や『醤油』を使った料理を提供し、商品として売り込む日。

 春となって各所への行き来が活発になり始めるこの時期は人を集めやすい。なので秋に懇意の商会へ『味噌』と『醤油』のサンプル品を渡して各所へ伝達を頼んでいた。

 春のこの日に魔女サトーマイが生涯をかけて作り出そうとした故郷の……倭国を祖とする珍しい調味料を売りに出すっと……


 その成果は木の箱を積み上げた簡易舞台の上に立つ、お披露目会のために用意した特注の青を基準とした絶対領域完備の和風ゴスロリメイド服……頭は魔女のとんがり帽子のままなので見る人が見れば違和感半端ない……で着飾ったエクレアがほくそ笑むぐらいにあった。

「くっくっく……いいね。これだけ集まってくれれば大きな商談も取れるはず。『味噌』と『醤油』を大量に売り払った暁には借金など耳揃えて返しきってやるわ」

「お姉ちゃんお姉ちゃん、舞台の上で悪い顔して企んじゃだめ。企むなら降りてから裏でやって」

 同じく舞台に上がったモモちゃん……エクレアの色違いな赤を基準とした特注和風ゴスロリメイド服と頭に三角頭巾という違和感全くないチョイスで着飾った……からつんつんっと突っ込まれた事で我に返るエクレア。
 ただ周りからすればエクレアの悪い顔は小娘の可愛らしい企み事程度にしか思われてないので特に不信感はなかったようだ。


 そんな彼女達が居る場所はギルドの裏手の訓練所を兼ねた広場だ。
 広場には村人や冒険者に招待客が大勢詰めかけており、そんな彼等の周囲に設置されたテーブルには無数の料理。

 醤油タレや味噌ダレで焼かれた肉と野菜の串焼き。
 各種内臓を醤油と水でゆっくり煮込んだモツ煮込みにスジ肉と根野菜を味噌でよく煮込んだ味噌こん。
 味噌漬けにした肉や魚の炙り焼きに魚の干物で取った出汁ベースの醤油つゆで食べる山菜やキノコの天ぷら

 そういった『味噌』と『醤油』を駆使した様々な料理が所狭しと並んでいた。

 串焼きに至ってはその場で焼いて食べるバーベキュー形式にしてるのだから、周囲には食欲を刺激しまくる香りが漂いまくってあちらこちらから腹の虫が鳴り響いている。
 もちろんお酒はてんこ盛りで用意っと抜かりなし。
 真昼間ながらも訓練所は完全なお祭り会場と化していたのだ。

 ただし、これはあくまで『お披露目会』だ。主催からの挨拶が終わらなければ宴会は始まらない。
 飲み食いが始まらないので会場に集まった参加者は今か今かと挨拶が終わるのを待っていた。
 ……一部我慢の足りない馬鹿はいたが、料理に手を付けようとした瞬間どこからともなく突き刺さる殺気で物理的に固まるというアクシデントはあったものの、とにかくエクレアの音頭がなければ始まらないのだ。
 よってエクレアはにっこりと笑い……

「え~皆さん本日は忙しいところ集まっていただきありがとうございました~」

 ペコリと挨拶。ここは手っ取り早く済ませて皆のフラストレーションを解除させる腹積もりっと思いきや……

「今日のような日を無事迎えることができたのはとてもうれしく思ってます。そう、これはサトーマイ師匠が生涯に渡って追い求めたものであって振り返る事8年前に……」

「お姉ちゃんお姉ちゃん、何長話始めようとしてるの!」

「え~こういうのって長話が基本でしょ。この日のために態々20分用の内容スピーチを考えてk」









ゴン!!!!!!






「殴るよ」

「もう殴ってる。酒瓶で殴ってから言うセリフじゃないっていうか私病み上がりなんだけど……もうちょっと優しさというものがほしいかな~っと」

 お約束っとばかりに長話を決行しようとするも、物理的にキャンセルさせられて涙目になるエクレア。

 ちなみに病み上がりなのは本当だ。
 ふとももの絶対領域以外は肌が隠れてるのでわかりづらいが、エクレアの身体中至るところに包帯が巻かれた、かなり痛々しい有様となっているわけだ。人によっては同情を誘われてもおかしくない姿なのだが……

「えーこんな御馳走の前にしてお預けを強制するようなとっても悪い魔女は別に酒瓶で殴っても問題ないですよねーみなさん」

「そーだそーだー!」「いいぞーモモちゃんもっと言ってやれー!」「悪い魔女は死すべきだー!」

「が~ん、皆ひどい……ひどすぎるわ~いじいじ」

 御馳走を前にしての長話は同情どころか敵意すら持たれてしまったようだ。
 エクレアはいぢけるように舞台の上で背中見せてしゃがみ、指でののじを書き始める。

「え~主催がいじけちゃったので代わりに私が挨拶します。本日は初代魔女サトーマイ様の故郷の調味料である『おみそ』と『おしょうゆ』のお披露目会ならび酒場の看板美少女モモちゃんこと私の誕生日のお祝いとして~ここに出てる料理は全部魔女の弟子であるエクレアお姉ちゃんのおごりとなります!!皆遠慮せずたっぷり飲み食いしていってね。かんぱーい!!」


「「「「「「かんぱーい」」」」」」



こうして、主催代理となったモモちゃんの挨拶によって宴会はスタートを迎えるのであった。
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