上 下
55 / 98
第3章

29.命が尽きる前に決着をつける!!(side:ローイン)

しおりを挟む
 奥の手を使うことを決めたローイン。
 まだ無事な右手で懐を探って取り出したのは一つの固形の薬錠であった。

 2年前、エクレアが『魔力』と『魔人化』を得た薬の錠薬版。

 エクレアと同じ力を得るため、薬の製法を調べるために母であるスージーの部屋へ忍び込んだ時に見つけた薬だ。
 レシピと共に添えられた母からの手紙と共に……

「母さん……どうやら母さんの予測通りの事態になったよ」

 ローインの母、スージーは予測していた。
 本来なら焼却処分しなければいけない悪魔の薬を必要とする時が来るっと……

 息子が死ぬとわかってようとも力を求めてくるっと……
 だから用意していた。

 例え息子を死に追いやってしまおうとも、それでも力を……
 命に変えてもエクレアを助けたいと思うならっと人知れず薬を精製していた。

「ははは……これ飲めば僕は死ぬのか。でも……」

“ヤメテ……モウ……ヤメテ……”

「わかってるよ、エクレアちゃんは止めたいんだよね………僕に助けを求めているんだよね……」

 もしかしたら他にも方法はあるかもしれない。
 別の打開策はあるかもしれない。

 それでも、ロ―インはあえてそれを選んだ。
 ほんのわずか、一瞬でもエクレアと同じ目線へと立つ道を……
 絶望を真正面からねじ伏せにかかる、エクレアと同じ道を……


「さぁ、みせてもらうよ……これを飲んだエクレアちゃんは一体どんな光景をみたのか」

 薬を飲み込む。
 これでもう後戻りはできない。

 でもそれでいい………

 例え命を失っても僕は……













……

…………

………………


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 ローインは絶叫をあげた。
 最初は何ともなくとも、唐突に襲ってきた苦しみはまさに地獄。ありとあらゆる苦痛が同時に襲い掛かってくるかのような、自分が自分で無くなっていくかのような感覚。
 気を抜けば一瞬で暗闇へ叩き落とされるかのような激痛に頭をかかえる。

“エクレアちゃんはあの時こんな苦痛を味わったのか”

 予想はしていた。
 エクレアが床を転げまわりながら苦しみもがいてた光景を実際にこの目でみていたのだから想定していた。

 これは予想通り、今更驚くなっと理性に訴えるも……

「あぁぁぁぁぁあがあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 理性とは別に本能が訴える。
 早く吐き出せっと無意識に喉をひっかきながら、吐き出せっと訴える。
 自分の身体を無理やり作り替えられる恐怖に発狂してしまいそうになる。

“ダメだ!!吐き出すな……吐き出せば全てが無になる”


 絶え間なく続く痛み。自分が徐々に壊れていく感覚。
 痛み共に荒れ狂うまでの、全てを破壊したい衝動に襲われる。


“それでも……耐えるんだ。当時は9歳だったエクレアちゃんが耐えたんだ。11歳の男が耐え……るんじゃない”


「あぁああああ……!!!」


 ふと頭にある考えがよぎった。
 この苦しみは耐えてるからこそ生まれるのではっと…

 なぜそう思ったのかわからない。
 本当に直感だったが耐えなければ……いや、耐えるんじゃない。やり過ごすだなんて甘い事言わずにねじ伏せる。


“『力』がほしい”っと願うのではなく“『力』をよこせ”と奪いとる。


 弱気に、後ろへと下がるのではなく………


 強気に、あえて前へ……







 踏み出せ!!!!











ダン!!





 無意識に足を踏み鳴らす。
 その足を中心にして放射状の衝撃波と暴風が荒れ狂った。



 『魔人化』したエクレアが発動時に決まって行う動作。『震脚』をローインは放った。

 エクレアはなぜわざわざ発動の度に踏み鳴らすのか不思議に思っていたが、同じ立場になって理解した。

 これは決意表明。
 魔人の力を強奪するための、『受け』ではなく『攻め』のための一歩を踏み出すための儀式だ。

 ただの思い込みなのだろうが、素数数えるだけで落ち着きを取り戻せるローインにとってはこうかばつぐんなようだ。
 薬の力はローインに屈したのか、昔から共にあったかのように自然としみこんでいく。
 身体が徐々に壊れていく、命を削られていく感覚は残ったままだが、元々猛毒の薬だし仕方ないだろう。

 だから……

 無事……とは言い切れないボロボロの身体でエクレアに顔を向ける。

 エクレアも正気……いや、普段から狂っているような彼女に正気も何もないが意思は戻ったようだ。
 普段みないような表情で必死に何かを訴えていた。

(ははは……エクレアちゃんがあんな必死に訴えてくるなんて、初めてだよ。本当に初めての経験だよ)

 いつも彼女に驚かされてばかりだったが、今回は逆に驚かす事ができた。
 そう思うと自然と笑みがでる。

 だがまだだ。まだ終わってない。

 驚かすのはこれからだ。

 残された時間は少ない。

 ローインに残された命の灯はわずか……


“命が尽きる前に決着をつける!!”


ローインは決意新たに、男を見据えた。

残された命のカウントは……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

【R18】侯爵令嬢、断罪からオークの家畜へ―白薔薇と呼ばれた美しき姫の末路―

雪月華
恋愛
アルモリカ王国の白薔薇と呼ばれた美しき侯爵令嬢リュシエンヌは、法廷で断罪され、王太子より婚約破棄される。王太子は幼馴染の姫を殺害された復讐のため、リュシエンヌをオークの繁殖用家畜として魔族の国へ出荷させた。 一国の王妃となるべく育てられたリュシエンヌは、オーク族に共有される家畜に堕とされ、飼育される。 オークの飼育員ゼラによって、繁殖用家畜に身も心も墜ちて行くリュシエンヌ。 いつしかオークのゼラと姫の間に生まれた絆、その先にあるものは。 ……悪役令嬢ものってバッドエンド回避がほとんどで、バッドエンドへ行くルートのお話は見たことないなぁと思い、そういう物語を読んでみたくなって自分で書き始めました。 2019.7.6.完結済 番外編「復讐を遂げた王太子のその後」「俺の嫁はすごく可愛い(sideゼラ)」「竜神伝説」掲載 R18表現はサブタイトルに※ ノクターンノベルズでも掲載 タグ注意

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。

里海慧
恋愛
わたくしが愛してやまない婚約者ライオネル様は、どうやらわたくしを嫌っているようだ。 でもそんなクールなライオネル様も素敵ですわ——!! 超前向きすぎる伯爵令嬢ハーミリアには、ハイスペイケメンの婚約者ライオネルがいる。 しかしライオネルはいつもハーミリアにはそっけなく冷たい態度だった。 ところがある日、突然ハーミリアの歯が強烈に痛み口も聞けなくなってしまった。 いつもなら一方的に話しかけるのに、無言のまま過ごしていると婚約者の様子がおかしくなり——? 明るく楽しいラブコメ風です! 頭を空っぽにして、ゆるい感じで読んでいただけると嬉しいです★ ※激甘注意 お砂糖吐きたい人だけ呼んでください。 ※2022.12.13 女性向けHOTランキング1位になりました!! みなさまの応援のおかげです。本当にありがとうございます(*´꒳`*) ※タイトル変更しました。 旧タイトル『歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件』

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

処理中です...