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第3章

20.どうしよう、これ。ちょっと泣きたい

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 ゴブリンが居なくなって牢の中に一人取り残されたエクレアは、改めて自分の状態を確認する。
 まず身体の怪我の具合だが……相変わらず熱を帯びてズキズキと自己主張してるも死ぬほどではない。どころか、痛みが時と共に和らいでるように感じる。
 そのなってる原因としての心当たりは……

(もしかしてこのぶっかけられた水はポーションなのかな?)

 死にそうになってたから慌ててポーションをかけたというなら、身体中の痛みの軽減も納得。
 ただ、それはあくまで予想。自分の今の状態を正確に知るには直接みる必要がある。
 みるには目隠しを外す必要があって、外すには手の拘束をどうにかしなければならない。
 なら今やることは一つ。

「むぅぅ~~!!」

 縄抜けである。
 力任せにぶち切るのは不可能でも、手首を縛ってる縄にわずかながらの隙間ができれば……っと思って力を籠めるもびくともしない。
 どれだけ動かしても、もがいても手首を縛ってる縄が緩まない。
 それもそうだろう。今エクレアを縛ってる縄は知識の足りないゴブリンが縛ったものではなく知識豊富な男がしっかりと厳重に、手首だけでなく腕も身体ごと縛ってしっかり固定させてるのだ。結び目も全く緩まないどころか逆に固くなる始末。
 おまけに縄が水吸ったせいで締め付けも強まっている。ただでさえ高い難易度がマシマシだ。

 幾分かの挑戦の後、縄抜けは不可能だと結論付けざるを得なかった。

「むぅぅ!!!」

 手首の縄は無理でもせめて目隠しをと思っても、こちらも無理だった。
 どれだけ壁や床にこすりつけてもびくともしなかった。

 こうして全ての挑戦が徒労に終わったエクレアは力なく地面に横たわる。
 悪あがき的に再度手首の縄を抜こうとするも……

 その動きは身体ごと腕を縛ってる縄で阻害されてる事もあってやはり不可能。
 ギチギチッと縄を鳴らすのみだ……


「……(どうしよう、これ。ちょっと泣きたい)」

 未練がましくギチギチと鳴らす縄をBGMにしてエクレアは途方に暮れ始める。
 せっかく拷問から解放されたのに、これでは何もできない。完全に監禁された身である事を認識させられたせいでちょっと泣きたい気分になり始める。
 ……通常であるなら今のエクレアがおかれてる立場はちょっとどころでない、まぢ泣きでもおかしくない絶望的な状況なのだがそこは『正気のまま狂ってる』状態。
 どれだけの絶望に襲われても平然とできる……


「むがぁぁぁぁーーー!!(わけあるかー!例え狂ってようとも平然とできる限界ってもんぐらいあるしー!!)」


「嬢ちゃん……少しは大人しくなってると思ってたが実に元気そうで何よりだ」



びくん!!








 現実逃避を兼ねた一人漫才の最中に席を外していた男が戻ってきたようだ。


 どうやってこの拘束を解くかに夢中となりすぎて男が再び戻ってきた時のシュミレーションをしてなかったエクレアは慌てる。

(どうする、今ここで下手な態度示したら命の保障が……)

 とか思ってたら……

「心配せずともいい。その恰好をみれば十分反省しただろう。よって先ほどのやんちゃは水に流すとしよう」

 そう言いながら、顎クイから目隠しを外してくれた。

「むぁ!?(うぉ、まぶしっ!)」

 薄暗いながらも急に光が入ったことで思わず目をつむるも、再び目を開けた際に男と眼があってしまい……


「“狂気”を取り戻したか。全く嬢ちゃんは中にどんな化け物を飼ってるんだか実に興味ある」

「むー……(それ、私が聞きたいぐらいなんだけど)」

「いやいい。どうせ聞いたところではぐらかすのだろう君は」

「むぐむぐー(はぐらかさない。今度ははぐらさないです。反省してるからとにかく猿轡外して―後縄も解いてー)」

「無理だ。嬢ちゃんの言葉は何かと調子狂わられるし縄解いたらどんな行動取るかわからん」

「むぐぅ~!!(もうしません!自重しますからー!!)」

 そう訴えるも、説得力は皆無だ。
 なにせゴブリン1匹を影の中で引きずり込んでの咀嚼はエクレア自身覚えてない事。
 ほとんど無意識にやったことであり、そんなものに自重も何もない。
 よって……

「やはり信用ならんな。もうしばらくそのままでいたまえ」

「むぅーー!!(そ、そこをなんとかー!!)」

 必死の土下座。
 今回ばかりはもう逆らわない。逆らってもロクな事にならないのは目に見えてる。
 ……今の状況そのものがすでにロクな事にならないものな気はしないでもないが、これ以上の悪化を避けるための土下座交渉だ。

 その熱意を受けたのか、男がひょいっとエクレアを持ち上げる。

「ひゃふぁ!?」

 行き成りで驚くも、男は淡々とのべる。

「心配するな。侵入者がいるので彼等を歓迎するためのちょっとした舞台を用意する予定なので、せっかくだから見学してもらおうと思ってる」

「むっ?(侵入者?)」

「嬢ちゃんの友人と思われる子供達が侵入してきた。これからボスとして出迎えるつもりだがせっかくの機会だ。嬢ちゃんも観客として参加すればいい」

「むむー!(観客ってそれ私を人質にする算段じゃないですかーやだー)」

「そんな無粋な真似はしない。子供とはいえ人避けの結界張ってるのに全く意に介さずダンジョンの入り口を見つけだす相手にはダンジョンマスターとしてそれなりの対応をしなければ礼儀に反するだろう」

「むふふ~(いや~それほどでも……ってダンジョン?人避けの結界?じゃぁあれだけのゴブリンが居たのってダンジョンがゴブリンを生み出してた…?)」

「ダンジョンの稼働はしてないので生産はしてない。人避けの結界も稼働前のダンジョンに立ち入られないよう施した処置だ。
 ただ完璧ではなかったようで去年どこかから逃げてきたゴブリン数匹が偶然入り口を見つけてそのまま居付いた。図々しい奴等であったが、行き場のないものを追い出すほど私は鬼畜ではないから好きにさせていた。そうしたら周辺で魔獣や人間に追われていた仲間を次々と呼び込んで気付けば大所帯。
 身近にいた私が気づかない内になのだから外の人間ではまず察知は無理だろう。アレは愚か者にみえて実に狡猾だよ」

「むんむん(狡猾なのは激しく同意します)」

「まぁ彼等も今回でほぼ全滅だろう。なんせ大半は嬢ちゃんが血祭にあげて残りも嬢ちゃんの友人が倒している………これで短いながらも騒がしい日々とはおさらばか」

「む~?(あの~怒ってます?)」


 そのどことなく寂しそうな声色にエクレアはついそう聞き返した。
 対して男からの反応は

「情はないとは言わないが、生存競争に負けたなら受け入れるしかなかろう。それより“奴”への意趣返し……いや、報復を企んでる事に興味はある。せっかくだから嬢ちゃんの企み、反逆計画に一枚かませてもらおう」

 いろいろな意味で予想外な言葉が返ってきたのである。
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