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第3章

19.オマエノイノチ……ヨコセ…… (side:エクレア?)

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“ゆる…さない……”

 ……とはいったものの、今のエクレアにとって重要ではない。

 復讐に走るよりまず今をどう切り抜けるかだ。
 あと少しで完全に死ぬであろうピンチをどう切り抜けるかだ。

 以前は……3年前の時は師匠が生命力を分け与えてくれたが、今はそんな都合のよい相手なんかいない。

 あれは師匠が望んでたからこそもらえたのだ。
 赤の他人が進んで“命”を分け与えるなんて通常ありえない。

 だから……奪う。

 奪えばいいのだ。

 そこらにたむろしている“餌”から奪えばいい。
 つかみ取って奪い取ればいい

 っと思うも……


ギチギチ……

 今のエクレアでは無理だった。
 その掴むための手を後ろに縛られてる状態では無理だった。


(うぐぅ……この戒めさえ解ければ……)

 残されてる力で必死に縄から抜け出そうとするも、縄はびくともしない。
 ただむなしく縄をギチギチと鳴らすのみ。

 都合よく……

 本当に都合よく、餌が一匹近づいてきたのに……


(思い出せ……手が使えなくても掴める。掴む手段はある……あったはず……手が使えないなら……)




“『アレ』で代用すればいい!!”








ザシュ!!






(上手く……行った?)


 初めて……いや、久々の試みは成功したものの少々力加減を間違えたらしい。
 せっかくの餌の“命”が急速に萎んでいく気配がある。
 死に向かっていく気配がある。

(やばっ!!絶命する前に早く確保しないと!!)

 ちなみにこの絶命はどっちもだ。
 ゴブリンもだがエクレア自身の命も風前の灯火。

 もう一刻の猶予もない。
 向こうは必死だろうが、こちらも必死。
 今度は1本ではなく10本ぐらい増殖させて、がっしり掴む。
 10本の手で完全に動きを封じ……

 そして………





“オマエノイノチ……ヨコセ……”





「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!














ぱっくんちょ




むぐむぐ……もぐもぐ……ごりごり……







 一応伝えておくが、これはあくまで脳内イメージである。
 実際はとてつもない……それこそSAN値直葬されかねない壮絶なグロシーンだが、これ以上の描写はいろいろとやばい。手遅れになりかねないからあえて脳内イメージでごまかす。

 ……もうすでに手遅れな気はしないでもないが、とにかく補充はできた。


 後は………








……

…………

………………




「ゲボッ!!……ゲホゲホ」


 エクレアは激しくせき込みながらも目を覚ました。
 息を吹き返した。
 心臓の鼓動を再開させた。

(え、えっと……私は……?)

 猿轡越しのために上手く呼吸が出来ず、酸素不足気味な惚けた頭で何が起きたか思い出す。
 自分の身に何が起きたか思い出す。

 思い出そうとするも……


(…………???)

 思い出せなかった。
 ゴブリン達から拷問を受け続けて意識が飛んでからの先を覚えてない。

 しいていうなら身体が濡れてるので、気付けのために水でもぶっかけられたのがわかる程度。
 その拍子で目覚めたのだと思うも……


 ゴブリンの様子がおかしかった。
 拷問を再開するわけもなく、怯えているのだ。
 声に出すのも憚れるかのような、恐ろしいモノを見たように怯えているのだ。


「むぅ……?」

 エクレアは呻く。
 実際出した声は『なになに?なにがあったの?』程度なのだがゴブリン達にとっては『ゴブリンハミナゴロシダ』にでも聞こえたのか、怯えがさらに酷くなった。

「むぅ、むぐぅ……」

 これもエクレアにとって『えーこんなボロボロで寝転がるだけしかできない女の子相手にその反応ひどくね』程度なのだがゴブリンには『シヌトキハキサマラモミチヅレダ』という完全手負いの獣の唸り声に変換されたのだろう。


「バケモノダー!!」「コロサレルー!!」「ボスケテー!!」「ニゲロー!!」

 ゴブリン達は口々に悲鳴をあげながら、バタバタと逃げ出していったのだ。
 見えないのであくまで気配からの察知だが、脱兎のごとき有様に思わず惚けるエクレア。
 その際、気絶前と違う点がある事に気付いた。


(ん?そういえば……なんで私ゴブリン達の言葉わかったんだろ?)


 気絶前まではただゴブゴブ喚いてただけにしか聞こえなかったのに、今は片言ながらも意味がわかるようになっていた。

 さらにいえばゴブリン達も最初は5人居たのに逃げたのは4人っと数が減ってたりもするが……


(どうでもいっか。とにかく改めて現状確認しよう、うん)

 っとまぁ、ある意味いつも通りの……『正気のまま狂っている』状態となったいつものエクレアは謎を謎のまま棚上げにすることにした。


 なお、この時エクレアは気付かなかった。


 エクレアがゴブリン達の言葉が少しわかるようになってるほかにも魔力が微増してる事に……
 この世界には数字化されたステータスがないので感覚便りというあいまいなものでしか判断基準がないため……

 自分の魔力、最大MPが推定10から20に増えている事実に……
 全く気付いていなかった。



 ちなみになぜ増えたかについては……語るまでもないだろう。
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