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第3章

18.こいつのせいで大勢が死んだ……(side:G) SAN値直葬注意?

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 ゴブリン達は逃げていた。

 人間に、魔獣に、魔物に、

 ありとあらゆる天敵から逃げ続けてきた。
 腐った死肉を食らい、泥水を啜りながら、多くの仲間を失いながらも生きる事をあきらめずに逃げ続けた末、見つけたのが不可思議な穴倉だった。

 理由はわからないが、この穴倉の入り口は天敵の目に映らない。
 穴倉の中は天敵もいない。

 居たのは人間にみえる男のみ。
 ただしその中身は……

 ゴブリン達は本能で理解した。
 本来なら会話すら許されない絶対的な存在ながらも、ゴブリン達は必死に頼み込んだのだ。

「行く当てがない」「外に出たら殺される」「なんでもするからここに住まわせてほしい」

 恥も外見もすべて捨てての土下座までした交渉は……

「好きにするがいい」

この一言でもって許された。


 ゴブリン達は歓喜した。
 ようやく安住の地をみつけられたのだ。

 だが、ゴブリン達も喜んでばかりはいられないことに気付く。

 穴倉に天敵はいなくとも周囲は天敵だらけ。
 見かけ次第即座に殺される天敵だらけ。

 ゴブリン達は骨身にしみていた。
 自分たちの弱さを……
 その弱さを補う武器を持たなかったが故に多くの同胞を失った事を痛いほどに理解してた。

 少なくとも弱さを理解してない同胞は生き残れなかった。
 逆にを理解してた同胞も生き残れなかった

 生き残れたのは臆病で慎重で思慮深く……何よりも仲間想いな者のみだ。

 傷ついた同胞を決して見捨てず、自らが囮や殿となって群れを逃がす。全のために個を犠牲とした者に感謝と敬意を払う強い仲間意識を持つ彼等のみが生き残れた。


 なので彼等は仲間を見捨てない。危険を承知の上で外に出ては積極的に同胞を助けて回った。
 天敵に追われて逃げてくる同胞をみつけ、安全地帯となる穴倉まで導いて仲間を増やした。
 弱さを補う知恵も手に入れようとした。武器も作った。
 地道ながらも少しずつ力を蓄える生活を続ける中……

 追われてる同僚が居ないか探りに出た斥候からある報告が入った。


 丘上の花畑に幼い人間の女が二人いるっと。



 彼等はこれをチャンスとみた。
 女を手に入れる絶好のチャンスだとみたわけだ。

 慎重論はあっても反対意見はない。全員一致団結しての襲撃……
 知恵を振り絞って罠と作戦を用意し、何人かは犠牲になる。それが自分であっても仲間のためなら構わないっと自己犠牲の心得を徹底させて襲撃を決行したのだ。





 その結果、同胞の⑨割を失った。
 想像以上の犠牲を払ってまで手にしたのが幼い女1人……



「腹立たしい」「こいつのせいで大勢が死んだ……」「共に苦労を分かち合った仲間を殺された」

 生き残ったゴブリン達はこのままなぶり殺しにしたい衝動に襲われつつも、なんとか耐えた。

 死んだ同胞は女をなぶり殺しにする事なんて望んでない。
 金の卵を生む鶏として、将来の益として大事に飼うことを望んでいたのだ。


 そういった事情もあって、ゴブリン達はエクレアを殺す気はなかった。
 孕みに関してもそう。

 ほとぼり冷めるまで、年単位での穴倉生活を覚悟してたゴブリン達はエクレアを早々に壊さないよう……未熟な身体で急ぎ繁殖して早々に壊すより成長を待ってからの方がより長持ちするから結果としてお得……という、ゴブリンらしくない長期プランを立ててたわけだ。

 ……まぁエクレアが最初から壊れてるなんて想像もできないだろうが、とにかくゴブリン達はエクレアを殺す気がなかった。

 少なくとも拷問前は思っていたが……

 生き残ったゴブリン達は自分の思ってる以上に仲間意識が強かったらしい。
 無残に殺された同胞の仇を前にして、怒りを抑えきれず気が付けば……





……………………

「おい!お前のせいだぞ!!どうすんだよ」

「お前が散々煽ったからだろ!」

「落ち着け!!今は責任の押し付け合いをしてる場合じゃない」

「そうだ!!恩人様にどう説明するか考えるんだ」

「どうって……正直に言うしかないだろ。問題は誰が言うかだが」


 ピクリとも動かなくなったエクレアを前にして言い争う5匹のゴブリン達。
 彼等はエクレアがもう助からないと思っていた。

 すでに死んだと思っていたが……













“ゆる…さない……”




ぞくり!!?


 どこからともなく響いた声にゴブリン達の背筋に寒気が走った。


「なんだ……今の声は?」

 慌てて声の発生源を探ると今度は……





ギシッ


 何かがきしむ音が響いた。



「!!?」


 今度は発生源にも気付いた。

 発生源はエクレアである。

 先ほどまでピクリともしてなかった、死んだと思われていたエクレアが身じろぎ始めたのだ。
 力なく横たわるだけだった身体に活が入ったかの如く蠢き始めていたのだ。
 後ろ手を縛っている手を握りしめ、縄を引きちぎろうとばかりに力を込めている。
 この戒めがなくなれば即座に貴様らへ叩き込んでやるっとばかりに……

 消えかけのろうそくが最後に激しく燃え盛るかのごとく……
 憎悪の炎をまき散らしながら……



「殺すぞ」

 一匹のゴブリンが前にでる。
 そのゴブリンは丁度エクレアにトドメを……花畑で大岩を脳天に叩き落したゴブリンだ。
 彼は直感した。

 こいつは死にぞこないではなく手負いの獣。

 飼いならすなんてとんでもない。

 今のうちに完全なトドメを刺さなければ、逆に殺される!!っと……


 よって彼は動いた。

 エクレアの荷物から拝借してたナイフを右の逆手に持ち……
 左手でエクレアの頭を掴んで、一気に……

 首の頸動脈目掛けて刃を突き立てにかかった。













ザシュ!!








 血飛沫が舞う。
 首筋の頸動脈は生物の急所の一つ。

 切り裂けば噴水のごとき血が舞い散って、やがて死ぬ。


 それが生物の常識であり、息を吹き返したであろうエクレアもさすがに頸動脈を掻っ捌かれたら死ぬしかない。

 治療もせず放置すればもう死ぬしかないわけだが……






 エクレアはその死の運命を回避していた。






 なぜなら……






 血飛沫が舞った個所はエクレアの首筋ではなくゴブリンの腹。
 先ほどの音はゴブリンの腹をナニカで抉られた音だったわけだ。

 持っていたナイフを取り落とし、カラーンっと床に乾いた音を響かせながら転がった。


「はっ!?」

 その音を機にゴブリンは我に返る。痛みで我に返る。

 自分の身に何が起きたのか……

 なぜ自分の腹にぽっかりと風穴を開けられたのか……

 誰に抉られたのか……

 文字通り内臓を抉られる痛みにこらえながら考えるもその答えは……




 意外にもすぐ判明した。

 腹を抉った正体は“闇”だ。

 エクレアの影から飛び出た“闇”の腕が腹を抉ったのだ。

 それを理解するも、時すでに遅かったようだ。
 今度は無数の手が……無数の“闇”の手がゴブリンの全身を掴んだ。
 掴んでそのまま影の中へ引きずりこもうとしていた。


「は、はなせ!!」

 ゴブリンは必死にあらがおうとするも、直後にゴブリンは聞いてしまう。





“オマエノイノチ……ヨコセ……”



 

 それは頭の中に直接響いた声。
 影のさらに奥……“深淵”の中から直接呼びかける声……

 魂の根源から恐怖を呼び起こすかのような声を聞いてしまったゴブリンは……





「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」



 発狂しながら……

 狂ったような叫び声をあげながら……







 飲み込まれた。

 影の中へ……闇の中へ……

 “深淵”の中へと飲み込まれ、そして……




グチャ!!


ゲチョ!!


ゴキャッ!!










 影の中から何かを咀嚼するかのような、すり潰すかのような、噛み砕くかのような形容しがたい音が響き渡り……


 ようやく音が止んだと思えば……











「ゲボッ!!……ゲホゲホ」


 その代わりと言わんばかりにエクレアがせき込んだ。

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