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第3章

13.食らい尽くす

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「い、いや……乱暴しないで!!」

 食らいついた針をより深く飲み込んでもらうべく、怖がる演技しながらずりずり後ずさりしていくエクレア。
 ただ手足を縛られてる状態で見知らぬ男ににじり寄られるのは普通に怖い。 
 男も警戒なしで距離を詰めてくるのは、案外本当に怖がられてるようにみえてるのかもしれない。

 そうして、下がり続けるエクレアの背に壁が当たる。
 逃げ場がなくなった。後ろに下がれない。

「鬼ごっこはおしまいかな。お嬢ちゃん」

「ひっ!?」

 にやりと笑う男を前にして思わず素で悲鳴を上げてしまったエクレア。
 まぁ傍から見たらこれは縛られてて抵抗できない少女に今から襲い掛かる男という図案。怯えるなと言う方がおかしい話だ。

「なに安心したまえ。私は紳士でロリコンではない。処女を奪うつもりはないが……少々死の恐怖というものを味わってもらおうか」

 左手が伸ばされる。
 その先は足とかではなく首。どうやら首を掴んで締め上げにかかるつもりだ。

 左手が首に届く……その瞬間、
















ズガン!!!







 左手が吹っ飛んだ。

 文字通り吹っ飛んだ。

 手先が消滅した。


「なっ!?」

 男は面食らった。さぞかし面食らったであろう。

 なにせ蹴飛ばされたのだ。
 戒めていた足の縄をぶち切って蹴り上げてきた右足に蹴飛ばされたのだ。

 ちなみにエクレアの直前の体勢はスカートで体操座り。
 そんな状態で蹴り上げたから当然スカートが翻ってかぼちゃが丸見え。
 ついでに右足は靴が脱げてたせいで素足っとどこまで属性盛り込んでるんだ!!な状態となっていた。

 さぞや面くらっただろう。
 無力と思われてた少女の変貌、はしたなさ、さらに左手を失った痛みでさぞパにくってるだろう。
 馬鹿面をさらしてる男をエクレアは『魔人化』によってもたらされる深く怪しく深紅の眼で見つめながらにやりと笑う。


 でも油断はしない。

 エクレアは男をみて直感していた。

 こいつはバジリスクよりもやばい!
 バジリスクよりも格上だと!!

 成りはただの優男なのに、漂う空気はもう『勝てる気がしない』

 本来なら土下座してまで許しを請う。
 泣き落として慈悲を願う事こそ正解だろうが……

 エクレアは『勝てる気がしない』男の魔眼をはじき返した。
 RPGでいう圧倒的なレベル差で抵抗すら許されない大ボスの魔眼をなんなくはじいた事になる。

 バレたとみていいだろう。
 エクレアの中に眠る“深淵”の……さらなる奥に潜んでる“…k……o…”の存在に


 よって仕留める。男の正体なんてどうでもいい。

 名前もどうでもいい。

 こいつに聞くことなんぞない。

 それよりも証拠隠滅だ。

 “奴”へとバレる前に……





“食らい尽くす!!”


 エクレアは手の拘束を引きちぎりながら立ちあがった。
 目の前は吹っ飛んだ手をもう片方の手で抑えながら惚けてる男の姿。

 チャンスは一度。
 これで仕留めれなかったらエクレアでは勝てない。
 エクレア単独の力では勝てない。

 だから、これから放つのはエクレア単独で繰り出せる中で最大火力を誇る一撃。

 射程も短く、溜めに時間を若干要する等欠点だらけで実戦ではまず使えない。
 ランプ達が総出で足止めやヘイト管理してもらうなど、お膳立てしてもらわないと使い物にならない代物。だが、今のようにひるんでいる状態なら当てられる。

 難なく当てられる。


 力を貯める。
 両足を踏みしめて腰を深く落とし、腰だめに構えた右手に力をこめる。

 限界まで、爆発寸前まで、貯めに貯め込んだ拳をまっすぐ繰り出す。

 ただまっすぐ、ひたすらまっすぐ繰り出すのはただの『せいけんづき』


 基本に忠実なただの『せいけんづき』だ。
 

 ただし『魔人化』が施された力を右手に一点集中させた一撃はただの『せいけんづき』ではなかった。


 その拳はなんでも貫いた。
 岩だろうが鉄だろうが魔力の盾だろうが、とにかくあらゆるモノを貫くというまさに


“どんな装甲だろうと…ただ打ち貫くのみ!!!!”


を体現させた『せいけんづき』。名づけて……





「ファルコンパァァァァァァァァァァァァンチ!!!!」


 エクレアは放つ。
 ランプ達の戦闘訓練の付き合いとして……
 『魔人化』で吹っ飛ばされる理性を保つための精神鍛錬も兼ねた、ひたすら突き続けたエクレアのチートではない習練でもって身に着けた純粋なる技量の技。
 『魔人化』状態でも変わる事なく、習練で繰り返してきた動きを忠実になぞるかのごとくひたすらまっすぐに収束された拳が男に着弾した、その瞬間……








どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!








 周囲に轟音と共にすさまじいまでの衝撃波が響き渡った。
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