上 下
39 / 98
第3章

13.食らい尽くす

しおりを挟む
「い、いや……乱暴しないで!!」

 食らいついた針をより深く飲み込んでもらうべく、怖がる演技しながらずりずり後ずさりしていくエクレア。
 ただ手足を縛られてる状態で見知らぬ男ににじり寄られるのは普通に怖い。 
 男も警戒なしで距離を詰めてくるのは、案外本当に怖がられてるようにみえてるのかもしれない。

 そうして、下がり続けるエクレアの背に壁が当たる。
 逃げ場がなくなった。後ろに下がれない。

「鬼ごっこはおしまいかな。お嬢ちゃん」

「ひっ!?」

 にやりと笑う男を前にして思わず素で悲鳴を上げてしまったエクレア。
 まぁ傍から見たらこれは縛られてて抵抗できない少女に今から襲い掛かる男という図案。怯えるなと言う方がおかしい話だ。

「なに安心したまえ。私は紳士でロリコンではない。処女を奪うつもりはないが……少々死の恐怖というものを味わってもらおうか」

 左手が伸ばされる。
 その先は足とかではなく首。どうやら首を掴んで締め上げにかかるつもりだ。

 左手が首に届く……その瞬間、
















ズガン!!!







 左手が吹っ飛んだ。

 文字通り吹っ飛んだ。

 手先が消滅した。


「なっ!?」

 男は面食らった。さぞかし面食らったであろう。

 なにせ蹴飛ばされたのだ。
 戒めていた足の縄をぶち切って蹴り上げてきた右足に蹴飛ばされたのだ。

 ちなみにエクレアの直前の体勢はスカートで体操座り。
 そんな状態で蹴り上げたから当然スカートが翻ってかぼちゃが丸見え。
 ついでに右足は靴が脱げてたせいで素足っとどこまで属性盛り込んでるんだ!!な状態となっていた。

 さぞや面くらっただろう。
 無力と思われてた少女の変貌、はしたなさ、さらに左手を失った痛みでさぞパにくってるだろう。
 馬鹿面をさらしてる男をエクレアは『魔人化』によってもたらされる深く怪しく深紅の眼で見つめながらにやりと笑う。


 でも油断はしない。

 エクレアは男をみて直感していた。

 こいつはバジリスクよりもやばい!
 バジリスクよりも格上だと!!

 成りはただの優男なのに、漂う空気はもう『勝てる気がしない』

 本来なら土下座してまで許しを請う。
 泣き落として慈悲を願う事こそ正解だろうが……

 エクレアは『勝てる気がしない』男の魔眼をはじき返した。
 RPGでいう圧倒的なレベル差で抵抗すら許されない大ボスの魔眼をなんなくはじいた事になる。

 バレたとみていいだろう。
 エクレアの中に眠る“深淵”の……さらなる奥に潜んでる“…k……o…”の存在に


 よって仕留める。男の正体なんてどうでもいい。

 名前もどうでもいい。

 こいつに聞くことなんぞない。

 それよりも証拠隠滅だ。

 “奴”へとバレる前に……





“食らい尽くす!!”


 エクレアは手の拘束を引きちぎりながら立ちあがった。
 目の前は吹っ飛んだ手をもう片方の手で抑えながら惚けてる男の姿。

 チャンスは一度。
 これで仕留めれなかったらエクレアでは勝てない。
 エクレア単独の力では勝てない。

 だから、これから放つのはエクレア単独で繰り出せる中で最大火力を誇る一撃。

 射程も短く、溜めに時間を若干要する等欠点だらけで実戦ではまず使えない。
 ランプ達が総出で足止めやヘイト管理してもらうなど、お膳立てしてもらわないと使い物にならない代物。だが、今のようにひるんでいる状態なら当てられる。

 難なく当てられる。


 力を貯める。
 両足を踏みしめて腰を深く落とし、腰だめに構えた右手に力をこめる。

 限界まで、爆発寸前まで、貯めに貯め込んだ拳をまっすぐ繰り出す。

 ただまっすぐ、ひたすらまっすぐ繰り出すのはただの『せいけんづき』


 基本に忠実なただの『せいけんづき』だ。
 

 ただし『魔人化』が施された力を右手に一点集中させた一撃はただの『せいけんづき』ではなかった。


 その拳はなんでも貫いた。
 岩だろうが鉄だろうが魔力の盾だろうが、とにかくあらゆるモノを貫くというまさに


“どんな装甲だろうと…ただ打ち貫くのみ!!!!”


を体現させた『せいけんづき』。名づけて……





「ファルコンパァァァァァァァァァァァァンチ!!!!」


 エクレアは放つ。
 ランプ達の戦闘訓練の付き合いとして……
 『魔人化』で吹っ飛ばされる理性を保つための精神鍛錬も兼ねた、ひたすら突き続けたエクレアのチートではない習練でもって身に着けた純粋なる技量の技。
 『魔人化』状態でも変わる事なく、習練で繰り返してきた動きを忠実になぞるかのごとくひたすらまっすぐに収束された拳が男に着弾した、その瞬間……








どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!








 周囲に轟音と共にすさまじいまでの衝撃波が響き渡った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【R18】侯爵令嬢、断罪からオークの家畜へ―白薔薇と呼ばれた美しき姫の末路―

雪月華
恋愛
アルモリカ王国の白薔薇と呼ばれた美しき侯爵令嬢リュシエンヌは、法廷で断罪され、王太子より婚約破棄される。王太子は幼馴染の姫を殺害された復讐のため、リュシエンヌをオークの繁殖用家畜として魔族の国へ出荷させた。 一国の王妃となるべく育てられたリュシエンヌは、オーク族に共有される家畜に堕とされ、飼育される。 オークの飼育員ゼラによって、繁殖用家畜に身も心も墜ちて行くリュシエンヌ。 いつしかオークのゼラと姫の間に生まれた絆、その先にあるものは。 ……悪役令嬢ものってバッドエンド回避がほとんどで、バッドエンドへ行くルートのお話は見たことないなぁと思い、そういう物語を読んでみたくなって自分で書き始めました。 2019.7.6.完結済 番外編「復讐を遂げた王太子のその後」「俺の嫁はすごく可愛い(sideゼラ)」「竜神伝説」掲載 R18表現はサブタイトルに※ ノクターンノベルズでも掲載 タグ注意

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました。

ぬくい床子
恋愛
40才の誕生日、異世界に召喚されてしまった。 初めてのはずなのに何故か私のことを知ってる人達がいる。 どうもこの世界に聖女として来たことがあるらしい。 魔王が復活しそうなのでまた召喚されてしまった。 何故か見た目が若返っている。 「君が確かにここにいると感じたい」と王子様に抱きしめられるが以前の記憶がない。 魔王の攻撃を受けるが影を倒すたびに一度目に召喚された時の記憶が少しずつ戻ってくる。 「何としても君の記憶を取り戻したい」 自分との記憶を思い出して欲しい王子様。 召喚されたからにはこの世界を守りたいと聖女は願う。 完結しております。

【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。

里海慧
恋愛
わたくしが愛してやまない婚約者ライオネル様は、どうやらわたくしを嫌っているようだ。 でもそんなクールなライオネル様も素敵ですわ——!! 超前向きすぎる伯爵令嬢ハーミリアには、ハイスペイケメンの婚約者ライオネルがいる。 しかしライオネルはいつもハーミリアにはそっけなく冷たい態度だった。 ところがある日、突然ハーミリアの歯が強烈に痛み口も聞けなくなってしまった。 いつもなら一方的に話しかけるのに、無言のまま過ごしていると婚約者の様子がおかしくなり——? 明るく楽しいラブコメ風です! 頭を空っぽにして、ゆるい感じで読んでいただけると嬉しいです★ ※激甘注意 お砂糖吐きたい人だけ呼んでください。 ※2022.12.13 女性向けHOTランキング1位になりました!! みなさまの応援のおかげです。本当にありがとうございます(*´꒳`*) ※タイトル変更しました。 旧タイトル『歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件』

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

処理中です...