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第2章

8.とっても良い子の私は鞭じゃなく飴をもらう権利が (ざまぁされる回)

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「で、来て早々壮大に喧嘩したのね貴女は……」

「ついカッとなってやってしまいました。いまでははんせいしています。許してください、スージーおばちゃん」

 よほど怖かったのか、まだしがみ付いてるモモちゃんをあやしながら『てへぺろっ』と舌を出して目の前の副ギルド長相当の権力を持つ職員、スージーに謝るエクレア。
 その態度に対してプルプルと震えてるのがわかる。怒りをこらえてるのがわかる。
 スージーはエクレアの母や師匠と同じ29歳だが、師匠のようなまがい物ではない本物の魔法使いだ。さらに師匠と違っておばちゃん呼ばわりでも怒ったりはしない。少なくともエクレアが彼女をおばちゃん呼ばわりした事で怒ったところはみたことない。
 怒るのは別の理由であるも、状況が状況なだけにその怒りをぐっと飲み込む事を選んだようだ。

「まぁいいわ。あの馬鹿は昨日来たばかりなんだけど今朝からずっとあんな調子だったというし、いずれ誰かが教育的指導したのでしょうね」

 ちらりと横目でみるとその馬鹿が厨房の責任者の超強面おじいさん、前ギルド長でこの辺境どころか国内最強とも言われてるほどの強さを持つ通称『おやっさん』に外へと引きずられてゆく姿がみえた。
 馬鹿二人と目があったのでエクレアは丁度いいっとばかりにあかんべーをする。

「こらそこ、さらに挑発しない。本当に反省してるの?」

「してます。相手が反省してくれてるかどうか確認してます」

 しれっと言い放つエクレアの姿に机へと突っ伏しそうになったスージー。
 その反省してるのかどうかわからない態度に、怒りを通り越して呆れかえってしまったようだ。

「はぁ……あの偏屈のマイがいなくなったから少しはまともになると思ってたのに、余計酷くなっちゃってるじゃない。ルリージュ……貴女のお母さんが知ったら泣くわよ」

「そ、それ困る。内緒にしてください」

「残念だけど、あれだけの規模の騒ぎとなったのだしすぐに知れ渡るでしょうね。諦めて私にお尻ぺんぺんされなさい」

「なんでおばちゃんにされるの!?」

「ルリージュは娘に甘すぎて貴女に雷一つも落とさないからでしょうが!!!!」






ごちん!






 雷ではなく拳骨がエクレアの脳天に落ちた。
 目の前に星が散り、痛みで思わず頭を抱えてうずくまる。
 それにはエクレアにあやされてたモモちゃんもびっくりして、恐る恐る話しかける。

「あの、おばちゃん。エクレアお姉ちゃんに乱暴しないであげて」

「モモちゃん。これは愛の鞭って奴で乱暴じゃないのよ。ほら、悪い子のお兄ちゃんもよくもらってるでしょ。悪い子はこれをたくさんもらう事によって一人前の良い子になってくの」

「おばちゃん、子供に嘘はいくないです。特にとっても良い子の私は鞭じゃなく飴をもらう権利が」





ごちん!!





 拳骨再び。




「きゅぅうぅ……」


 今度は耐え切れず、目を回して倒れた。



「ううう……モモちゃん助けて」

 それでも意識を失わず、必死に幼女へ助けを求めるも……

「モモちゃん追撃よ。お兄ちゃん相手みたく踏んであげなさい」

「わかった。たくさん踏んじゃうよ」

 鬼から冷酷無比な命令が下る。
 ワルイコシスベキ。ジヒハナイ。

「えっ、ちょ……まっアッー!!」

 年下幼女からゲシゲシッと、一方的に蹴られては踏まれるエクレア。
 ただし、口では『やめてやめていたいいたいぼうりょくはんたい!』とか叫んでても、その実楽しそうでもあった。
 どうやらエクレアは馬鹿二人と違って『我々の業界ではご褒美です』の精神は理解してたようだ。

 それにモモちゃんも酒場で働き続けるなら、いずれああいった馬鹿を自力でなんとかする術をもたないといけないのだ。
 その術はこういった経験で大体得られていく。
 修羅の村の女の子、特に酒場で給仕をする女の子はこうやって強くたくましく育てられるのである。


 ただし、それがいい方向で成長してくれるかは、また別の話でもある……


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