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第2章

4.師匠みてる?私やらかしちゃった!!

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 エクレアが奴隷落ちしたらどうなるのか……

 みたいような、みたくないような……

 そんな電波を拾いながら涼んでいたエクレアだが、ふと思い出した事があった。

 調合もとい調理中、豚の餌にもならない失敗作となった味噌のなりそこないの事を思いだしたのだ。
 あれは本当の豚の餌にしてしまおうっと思って豚……野生の猪が瘴気を浴びて魔獣となった魔猪……が出没してた付近にばら撒いたのだ。
 食ったら毒で倒れるように、毒草や毒キノコとか、毒物となり果てた薬のなりそこないとか、そういった危ないものを大量に混ぜ込んでばらまいたのだ。
 下手すれば周囲を汚染させて大惨事を生み出しそうだけど、この世界はそういったものは自然が浄化してくれる。
 よほどおかしなものを混ぜ込まなければ大丈夫っと本当に軽い気持ち。

 遊び心で仕込んだのだが………


 結論からいうと……





 想像の斜め上をいく結果を呼んだ。







……………………

「えっと……ここ確か一週間前になりそこないをばら撒いたとこ……だよね?」

 エクレアが茫然とみつめる現場では、泡吹いてビクンビクンと痙攣してる魔猪が転がっていた。
 これだけでもアレだが、魔猪の周囲には同様の被害者。魔鳥さんとか魔狼さんとか魔熊さんとか様々な魔獣達が寝転がっていたのだ。
 そのうちの半分はすでに絶命して身体が腐敗してたりもするが……

 まぁとにかく、現場は一言で表せばメシマズの最高峰。ダークマターを食べた者達の末路といった光景ともいうべき地獄…いや、万魔殿パンデモニウムが広がっていたわけだ。
 それだけでもう衝撃的だけど、今はどうでもいい。

 どうでもよくはないけど、それ以上に気になるものがあった。

 元なりそこないで現在ダークマターなヘドロが放つ匂い…いや、香り。
 この世界では嗅いだことがない未知な香りながらも、前世では日常的に嗅ぎなれた香り……
 どんな香りかと問われたら、もうあれの言葉しかない。
 言い表すしかないあれ……

 『味噌』の香りだ。

 ダークマターと化したなりそこないから放たれるのは『味噌』の香りなのだ。


「ま、まさか…ね」

 しゃがみ込んで人差し指の先に少しだけすくいとる。
 鼻に近づければ確かに『味噌』の香りがする。


 なめてみた。



……

…………

………………




「うぐっ!!!!?」


 瞬間身体中の力が抜ける。
 足腰が立たなくなり、前のめりに……ダークマターの海に倒れかけるも、根性で重心を後ろに向けてぶっ倒れた。

 解毒作用で体力ごそっと持ってかれたようだ。


「うん、私じゃなかったら死んでたね。これ」

でもこれでわかった。

「……『味噌』だ……『味噌』の味だ」


 この世界で『味噌』が出来なかった理由……

 『味噌』=『毒』だからだ。

 ダークマターから放つ臭気からみて毒ガスも発生中なんだろう。

 毒物を食用にするような酔狂な輩はまずいない。
 味噌=食用の発想がなければ猶更食べてみようとも思わない。

 だから誰も気付かない。

 この世界で『味噌』を作るための、最後のピース。

 それが『毒』だったのだ。

「道すじができた……『味噌』は出来るんだ……毒物だから食用にさせるには課題が多数あるんだろうけど扉は開かれた……」


そう、これはスタート地点。
今の『味噌』は問題ありすぎる。

解決のためにはさらなる試行錯誤が必要だろうけど、入口は開かれたならいつかは完成する。





「あははははははははははっはははっははっはははははh!!!!!師匠みてる?私やらかしちゃった!!偶然で師匠が5年以上も求めてた『味噌』を偶然で作っちゃったよ!!!!!!!!」








 エクレアは笑った。

 前世の記憶や知識ではない、ほんの遊び心で加えた暴挙が………

 賢者がどれだけ知恵を廻らせても開かなかった真実の扉を、愚者の暴挙が解き放った。

 もう笑うしかない。

 仰向け状態で両手を地面に大きく投げ出しながら、空を……師匠がいるかもしれない空に向かって笑った。

 瞳“深淵”を宿した濁った瞳で、果てしなく広がる青い青い空を見上げながら笑った。



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