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第1章
6.自分勝手すぎる師匠の言うことなんて……
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お姉ちゃんは……師匠は……サトーマイは死んだ。
信じられなくても、アトリエの中をみれば実感できる。
墓をみれば実感できる。出来てしまう……
どこにも姿を見せないのだから、できてしまうのだ。
「…………ねぇ、馬鹿なの?死ぬの?私が起きた直後だなんて都合のよいタイミングで死ぬだなんて馬鹿すぎるよ……ふりでなく本当に死んじゃうなんて……」
視界がかすむ……
「別れの挨拶もないまま……死んじゃうなんて……」
眼から何かがあふれ出る……
留められない。留める事ができない…
「馬鹿すぎるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
限界だった。
エクレアは墓に縋りついて泣ぎだした。
泣き声にかぶさるかのごとく風が吹き出す。
サクラが舞い散るサクラ吹雪の風……
エクレアの泣き声に呼応するかのごとく、舞い散るサクラの花びら……
最初は完全な打算によるものだった。
お金のため……
それだけのために近づいた。そんなエクレアを怒って追い返すのではなく、むしろ良い子だとほめたたえながら躊躇なく弟子にしてくれた。
それから始まった師匠と弟子の関係は、知識あるけどそれ以外は全くダメダメ。ずぼらな母とそんな母を支える娘というような関係だった。
いわば家族のような関係だったのだろう。
実母であるルリージュも最初こそ娘を奉公というか身売りさせた。そこまで追い込ませてしまった自分を責めていたようであっても、エクレアは弟子としての生活を楽しんでいた。
大人でも音を上げるかのような修行の日々をエクレアはとても楽しんでいた。
お金関係にはシビアであっても、学びに関してはお金関係なしに楽しみながら貪欲に吸収していった。
その様は教えてた当人が驚いてたぐらいだ。
ルリージュもマイを信頼し、薬学以外の教育もお願いするようになった。
実母からのお墨付きなので、つい調子乗って要らん知識も与えてしまったようだが……まぁそこは触れないでおこう。
なんとなくお空に『てへぺろっ』と舌をだして謝ってる幻覚がみえるも、んなもんみえたら空気が台無しなのでここだけの話に済ませておこう。
そうしてお姉ちゃん…いや師匠の知識を全て継承し、教える事はもうないっと判断した時は『卒業の証』と『魔女っ娘の称号』をくれるっと約束してたけど………
それはもうできない。
認めてくれる、授けてくれる師匠はすでにいないのだから……
「……どうせ師匠の事だから今頃天国で私の事を見下ろしながら『弟子よ。お前に教えることはない。本日をもって卒業じゃ』だなんて言ってるんでしょ。
まるで押し付けじゃん。私はまだまだ教えもらい足りないっていうのに……いうのに………」
エクレアの知識や技術は、すでに一般の薬師と同等レベルだ。
そこへ前世の記憶も合わさったのでさらに上を目指せる。
もう師匠の手助けがなくても薬師として生きていける。
それどころか、まだ8歳という若さからの将来性からみて20年後は師匠を超えているだろう。
でも……
「ふっ…」
エクレアは…“私”は選ばない。
「ふふふ……」
そんな道を選ぶなんて……
「あははははははははははは……」
勝手に自分の思想を“命”ごと押し付けて死んでしまった、自分勝手すぎる師匠の言うことなんて……
“聞くもんか!!!!!!!!”
「あはははははっははっははははhはははっははははっははははっははっははハハハハハハh!!!!!!!!!」
エクレアは笑う……
サクラ吹雪の中で笑う……
泣きながら笑った……
狂ったかのような笑い声……
何かが壊れたかのようなとてもとても深い“狂気”を含んだ笑い声を上げ続けた。
冥府へと旅立った師匠へと届かせるように笑い続けた。
いつまでも、いつまでも……
……………………
風がやんだ。
エクレアはサクラ吹雪がおさまったタイミングに合わせて笑いも止める。
「ねぇ師匠。私は我慢するのやめたの」
顔をあげる。
とても濁った眼で墓をみつめるエクレア。
その時エクレアの瞳に映っていたのは何なのか……
それは“深淵”なのかどうかわからない……
“深淵”を覗いたものを覗き返してくる“ナニカ”を宿していたのか……
覗き見た第三者がこの場にいないからわからない。
シュレディンガーの猫と同じく、誰もわからない……
それでもわかる人はわかるだろう。
エクレアは完全に“狂って”いた。
自覚はしてる。“私”は、エクレアは狂っている。
だけど正気はある。私は正気だ……『正気のまま狂う』とはまさにこういう事をいうのだろう。
「私は師匠の言う通りなんかしない。せっかく助けてもらった命を地獄へと放り投げるんだよ。
でもいいよね、先に私の気持ちを考えず勝手を押し付けてきたのは師匠なんだから……」
エクレアは自分の髪を手に取る。
再び吹いた風に舞い散るサクラの花びら…
サクラと全く同じ色をしたサクラ色の髪。
師匠の勧めで伸ばした髪を、手に持つ鉈で……
「私も好きにさせてもらうよ」
ブチッ!!
断ち切った。師匠と過ごした年月で伸びた分を断ち切った。
サクラ色の髪がサクラの花びらと共に舞い散っていく。
「さて、私の本気度がわかってもらったところで、師匠にはもうしばらく付き合ってもらうよ。地獄の底までね」
エクレアは墓に添えられていた帽子……魔女の証というとんがり帽子をかぶって墓石を去る。
これは別に魔女を名乗るためではない。意思を継ぐためでもない。
師匠に見せつけるためだ。
これから歩むエクレアの道を間近で見せつけるため……
地獄へ落ちるエクレアを見せつけるため……
いわば“逆襲”だ。
とても破滅的で、茶目っ気を込めた愚かな“逆襲”……
そんな思いを秘めながら、エクレアはその場を立ち去る。
その瞳に“狂気”を宿しながら……
信じられなくても、アトリエの中をみれば実感できる。
墓をみれば実感できる。出来てしまう……
どこにも姿を見せないのだから、できてしまうのだ。
「…………ねぇ、馬鹿なの?死ぬの?私が起きた直後だなんて都合のよいタイミングで死ぬだなんて馬鹿すぎるよ……ふりでなく本当に死んじゃうなんて……」
視界がかすむ……
「別れの挨拶もないまま……死んじゃうなんて……」
眼から何かがあふれ出る……
留められない。留める事ができない…
「馬鹿すぎるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
限界だった。
エクレアは墓に縋りついて泣ぎだした。
泣き声にかぶさるかのごとく風が吹き出す。
サクラが舞い散るサクラ吹雪の風……
エクレアの泣き声に呼応するかのごとく、舞い散るサクラの花びら……
最初は完全な打算によるものだった。
お金のため……
それだけのために近づいた。そんなエクレアを怒って追い返すのではなく、むしろ良い子だとほめたたえながら躊躇なく弟子にしてくれた。
それから始まった師匠と弟子の関係は、知識あるけどそれ以外は全くダメダメ。ずぼらな母とそんな母を支える娘というような関係だった。
いわば家族のような関係だったのだろう。
実母であるルリージュも最初こそ娘を奉公というか身売りさせた。そこまで追い込ませてしまった自分を責めていたようであっても、エクレアは弟子としての生活を楽しんでいた。
大人でも音を上げるかのような修行の日々をエクレアはとても楽しんでいた。
お金関係にはシビアであっても、学びに関してはお金関係なしに楽しみながら貪欲に吸収していった。
その様は教えてた当人が驚いてたぐらいだ。
ルリージュもマイを信頼し、薬学以外の教育もお願いするようになった。
実母からのお墨付きなので、つい調子乗って要らん知識も与えてしまったようだが……まぁそこは触れないでおこう。
なんとなくお空に『てへぺろっ』と舌をだして謝ってる幻覚がみえるも、んなもんみえたら空気が台無しなのでここだけの話に済ませておこう。
そうしてお姉ちゃん…いや師匠の知識を全て継承し、教える事はもうないっと判断した時は『卒業の証』と『魔女っ娘の称号』をくれるっと約束してたけど………
それはもうできない。
認めてくれる、授けてくれる師匠はすでにいないのだから……
「……どうせ師匠の事だから今頃天国で私の事を見下ろしながら『弟子よ。お前に教えることはない。本日をもって卒業じゃ』だなんて言ってるんでしょ。
まるで押し付けじゃん。私はまだまだ教えもらい足りないっていうのに……いうのに………」
エクレアの知識や技術は、すでに一般の薬師と同等レベルだ。
そこへ前世の記憶も合わさったのでさらに上を目指せる。
もう師匠の手助けがなくても薬師として生きていける。
それどころか、まだ8歳という若さからの将来性からみて20年後は師匠を超えているだろう。
でも……
「ふっ…」
エクレアは…“私”は選ばない。
「ふふふ……」
そんな道を選ぶなんて……
「あははははははははははは……」
勝手に自分の思想を“命”ごと押し付けて死んでしまった、自分勝手すぎる師匠の言うことなんて……
“聞くもんか!!!!!!!!”
「あはははははっははっははははhはははっははははっははははっははっははハハハハハハh!!!!!!!!!」
エクレアは笑う……
サクラ吹雪の中で笑う……
泣きながら笑った……
狂ったかのような笑い声……
何かが壊れたかのようなとてもとても深い“狂気”を含んだ笑い声を上げ続けた。
冥府へと旅立った師匠へと届かせるように笑い続けた。
いつまでも、いつまでも……
……………………
風がやんだ。
エクレアはサクラ吹雪がおさまったタイミングに合わせて笑いも止める。
「ねぇ師匠。私は我慢するのやめたの」
顔をあげる。
とても濁った眼で墓をみつめるエクレア。
その時エクレアの瞳に映っていたのは何なのか……
それは“深淵”なのかどうかわからない……
“深淵”を覗いたものを覗き返してくる“ナニカ”を宿していたのか……
覗き見た第三者がこの場にいないからわからない。
シュレディンガーの猫と同じく、誰もわからない……
それでもわかる人はわかるだろう。
エクレアは完全に“狂って”いた。
自覚はしてる。“私”は、エクレアは狂っている。
だけど正気はある。私は正気だ……『正気のまま狂う』とはまさにこういう事をいうのだろう。
「私は師匠の言う通りなんかしない。せっかく助けてもらった命を地獄へと放り投げるんだよ。
でもいいよね、先に私の気持ちを考えず勝手を押し付けてきたのは師匠なんだから……」
エクレアは自分の髪を手に取る。
再び吹いた風に舞い散るサクラの花びら…
サクラと全く同じ色をしたサクラ色の髪。
師匠の勧めで伸ばした髪を、手に持つ鉈で……
「私も好きにさせてもらうよ」
ブチッ!!
断ち切った。師匠と過ごした年月で伸びた分を断ち切った。
サクラ色の髪がサクラの花びらと共に舞い散っていく。
「さて、私の本気度がわかってもらったところで、師匠にはもうしばらく付き合ってもらうよ。地獄の底までね」
エクレアは墓に添えられていた帽子……魔女の証というとんがり帽子をかぶって墓石を去る。
これは別に魔女を名乗るためではない。意思を継ぐためでもない。
師匠に見せつけるためだ。
これから歩むエクレアの道を間近で見せつけるため……
地獄へ落ちるエクレアを見せつけるため……
いわば“逆襲”だ。
とても破滅的で、茶目っ気を込めた愚かな“逆襲”……
そんな思いを秘めながら、エクレアはその場を立ち去る。
その瞳に“狂気”を宿しながら……
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