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第1章

5.なんていうか、笑うしかないよね

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 薬師だったマイお姉ちゃんは死んだ。
 エクレアを助けるために死んだ。

 その衝撃の事実を聞いた時はどんな顔をしてたのだろう……

 覚えてないぐらいの衝撃が走ったのは確かだ。


「あはは……なんていうか、笑うしかないよね」

 あれから一週間が経過し、外を出歩けるまで回復したエクレアは一つの墓を訪れていた。
 マイお姉ちゃんの家の裏手に植えられた一本の大木の根本。
 今ならわかる、お姉ちゃんにとって故郷を思い起こすサクラの木。
 その根本に立つ、黒いとんがり帽子が添えられた小さな墓。




 死因は毒による衰弱死。
 バジリスクの毒によって息絶えたそうだ。

 バジリスク……
 毒蛇の王とも称される通り、そこらの毒蛇とは比べ物にならないほどの猛毒を持つ蛇。
 常人だと噛まれたら即死だ。

 そんな化け物が村近辺に現れた。

 そう、あの日森の中で出会ったへびさん……
 エクレアに襲い掛かったへびさんが『バジリスク』だった。

 バジリスクは普段だと奥地。はるか昔に魔王が巣食っていたとされる魔王城跡地の近辺に生息しており、普段は村までは来ない。
 来る時は跡地近辺に生態系を狂わす何かが現れた、もしくは大量発生で生息地を広げる必要性がでた……

 RPG風に言ってしまえばレイドボスの出現やスタンピートの発生時であり、そういう時は大体前触れがある。

 前触れを決して見逃さないよう、この村では冒険者…いや、モンスターハンターとも称される魔物や魔獣狩りの専門家が常に跡地近辺へと出向いて適度に魔物達を狩りつつ、異変がないか調査しているのだ。
 襲われた前後では跡地近辺に異変が起きている気配はない。レイドボスやスタンピートの可能性はなし。

 ただのハグレが村近辺までさ迷い出たのだろうっと結論付けられた。
 ついでにバジリスクも退治されて危険もなくなった。

 一人亡くなったといはいっても辺境ではまれによくある事だ。
 被害でいえばゴブリンの群れが襲撃して村が壊滅する事態の方がよっぽど酷い。たった一人の犠牲で済んだのは幸いの部類っと、大きな騒ぎは起きず日常を取り戻していた。





 一人以外は……




「バジリスクに襲われた当人が生き残って……助けに入った方が命を落とすって何それ?
 なにべたべたな定番な展開なのそれ……」

 あの日、森の道を歩いていた目的はお姉ちゃんの家へと出向くため。
 森を抜けた先にはお姉ちゃんの住む家、アトリエともいうべき家があった。

 だからエクレアのあげた悲鳴に気付き、即座に駆けつけてくれたようだ。
 その場にいた者は誰もいないのでレクレアの推測になるが、多分おそらくそうだろう。

 お姉ちゃんはバジリスクと戦い、追い払った。
 そこでどんな戦闘を繰り広げたかわからない。

 爆音ともいうべき凄まじい音が響きわたり、何事かと駆けつけてきた顔見知りの冒険者の話によれば、駆けつけた時にはすでに戦闘は終わっていたようだ。

 そこにいたのは……
 立ってはいるけど、噛まれた腕が変色してすでに毒が全身がまわり始めているお姉ちゃんと……
 完全に毒が回ってすでに助かる見込みもなくなったエクレア。

 顔見知り冒険者は万が一に備えて高位の薬を持っていた。
 それこそバジリスクの毒にも対応できる、とてもとても貴重な薬……『霊薬エリクサー』を一本だけ持ってたのだ。

 だからお姉ちゃんがそれを飲めば助かった。
 助かるというのにお姉ちゃんは断ったらしい。

“飲ませるなら私ではなくエクレアに……”


 最初は無理だと却下した。
 いくら『霊薬エリクサー』でも万能ではない。
 必ず助かるというものではない。

 ましてや、すでに手遅れと誰がみてもわかるようなエクレアに飲ませても意味がない。
 薬を無駄にするだけだと説得するもお姉ちゃんは聞き入れない。

 無駄でもいい。代価を支払うから与えてやってほしい。
 わずかでも助かる可能性があるなら……

 時間もなかった事もあってか、冒険者の方が折れたようだ。
 一本しかない貴重な薬をエクレアに飲ませ……


 マイお姉ちゃんは死んだ。
 エクレアの目覚めが伝えられたその直後に……

 ただ一言……


 「よかった……」


 その一言だけを残して……



 二度と目覚めない、永遠の眠りについたそうだ。

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