6 / 98
第1章
4.弟子なんだし師匠の事を知る権利はあるはずでしょ
しおりを挟む
「エクレアどうしたの?何かすっごい顔してるわよ」
お姉ちゃんの事を思い出してる最中、あるキーワードに反応してしまったようだ。つい眉間に皺を寄せたせいでお母さんが不安げに顔をのぞき込んでいる。
「あっ、ちょっとマイお姉ちゃんの事考えてたの」
「そ、そう……」
まだ心配しつつも切り分けたりんごを口に運んでくれるので、心配かけさせないよう素直に食べる。
日本産の品種改良が進んだものに比べたらちょっと糖度は足りないけど、新鮮なので瑞々しさがある。
(これ、割と高いものなんだろうに……)
そう思うも、口には出さない。
言えば『子供が遠慮するんじゃありません』とか『貴女が稼いだお金で買ったのだから貴女のものでもあるのよ』とか反論されるに決まってる。
お母さんとつまらない喧嘩なんかしたくもないから素直に食べる。
そう、エクレアはお母さんの事が大好きだ。
まだまだ甘えたい、わがままを言いたいだろうに、その気持ちをぐっと飲み込んでいた。
でもそれじゃダメだ。
子供は親に対してわがまま言うのも仕事の一つ。
なので、エクレアはキラリと目を怪しく輝かせる。
「ねぇお母さん。今度はアイスが乗ったアップルパイ食べたいな~」
「えっ?」
「うん、白くて甘くて冷たいあのアイスをのっけたアップルパイが食べたくなっちゃったんだけど…だめ?」
唐突におねだり。普段はまず言わない、上目遣いでおねだりする娘の姿に母は困惑してる。
当然だろう。アップルパイ単品ならともかく付属品であるアイスは貴重品だ。
ミルクと砂糖と卵をかき混ぜて冷やせば完成だが、その冷やすのが問題。
冷やすには氷室で保管した氷や魔法、もしくは冷蔵庫の機能をもつ魔道具のような貴重品が必要でその分高く付く。
お値段でいえば大体金貨1枚の10000G。日本人感覚ならぼったくりなんだろうけど、それだけ手間がかかるなら仕方ない。
それに……
“エクレアちゃんお金ため込みすぎ。食の楽しみは心の栄養なんだし、少しは贅沢しないと”
世知辛い世界を生きていたエクレアはストイック過ぎた。
一応身近な大人が心配してたようだ。何かと理由付けては適度に食べさせていても、エクレアはそれを素直に喜んでなかった。
子供として不健全過ぎだ。だから“私”が正そう。
そう思っての提案だ。しかし、母の反応はすっごい困惑してるようにみえる。
「アイスというとやっぱりマイさんに作成を頼むのよね」
「当然じゃない。ここら辺で一番おいしくアイス作れるのってマイお姉ちゃんしかいないし、ついでに一緒に誘って食べよ。私の生還祝いとか」
「そ、そうよね………」
おかしい。普通ならここはにっこりと笑いながら賛成してくれるところだ。
ものすっごい歯切れ悪く答える。
「その…マイさんは今遠くに出かけてるのよ。親戚に呼ばれたとかで帰ってこれなくて」
「親戚って……お姉ちゃんに親戚がいるなんて聞いてないけど」
「貴女に話してなかったけど居たらしいのよ」
「いないよ」
真顔で断言する。
予想通りならマイお姉ちゃんは転移者だ。
黒髪で『テーレッテレー』とか『青汁』なんてキーワードもそうだが。何よりの証拠……
マイお姉ちゃんのフルネームは『サトーマイ』
この世界基準だと馴染みのない名前でも、漢字にすれば『佐藤 舞』
日本では割とありふれた名前になる。
マイお姉ちゃんは何らかの理由で世界を超えた転移者だ。
よって親戚の類なんて居ない。
家族そろって転移なんて可能性もなくはないが、お母さんの端切れ悪い態度からみてまずないだろう。
もしかしたら、マイお姉ちゃんの身に何かあったのかもしれない。
だから、詮索されたくなかったのだろう。
知るべきではないのだろうけど……
「ねぇ、何があったの?本当の事言って。私はお姉ちゃんの弟子なんだし、師匠の事を知る権利はあるはずでしょ」
弟子ならば師匠の事を知る権利はある。
その言葉に納得はした…してはないのだろうが、覆すような言葉はないのだろう。
エクレアは一度決めたらガンとして譲らない信念というか頑固さがあるわけだし、説得は不可能と思ったのか話す決心をしたらしい
「いいわ。教えてあげるけど……決して驚いちゃダメよ」
「驚くってマイお姉ちゃんは驚かされてばっかりだし今更と思うけどね。
あ~早くお話したいな~」
あれは中身が日本人なら、この世界住民基準だとさぞかし奇異にみられるだろう。
驚かされただろう。
でも、日本人の前世を思い出した今のエクレアなら逆に驚かしてやれる。
その時お姉ちゃんはどんな表情をするか……
今から楽しみだっと思ってたが…………
その機会はなかった。
「マイさんは亡くなったのよ」
「………えっ?」
話をする機会は永遠に来なかった。
お姉ちゃんの事を思い出してる最中、あるキーワードに反応してしまったようだ。つい眉間に皺を寄せたせいでお母さんが不安げに顔をのぞき込んでいる。
「あっ、ちょっとマイお姉ちゃんの事考えてたの」
「そ、そう……」
まだ心配しつつも切り分けたりんごを口に運んでくれるので、心配かけさせないよう素直に食べる。
日本産の品種改良が進んだものに比べたらちょっと糖度は足りないけど、新鮮なので瑞々しさがある。
(これ、割と高いものなんだろうに……)
そう思うも、口には出さない。
言えば『子供が遠慮するんじゃありません』とか『貴女が稼いだお金で買ったのだから貴女のものでもあるのよ』とか反論されるに決まってる。
お母さんとつまらない喧嘩なんかしたくもないから素直に食べる。
そう、エクレアはお母さんの事が大好きだ。
まだまだ甘えたい、わがままを言いたいだろうに、その気持ちをぐっと飲み込んでいた。
でもそれじゃダメだ。
子供は親に対してわがまま言うのも仕事の一つ。
なので、エクレアはキラリと目を怪しく輝かせる。
「ねぇお母さん。今度はアイスが乗ったアップルパイ食べたいな~」
「えっ?」
「うん、白くて甘くて冷たいあのアイスをのっけたアップルパイが食べたくなっちゃったんだけど…だめ?」
唐突におねだり。普段はまず言わない、上目遣いでおねだりする娘の姿に母は困惑してる。
当然だろう。アップルパイ単品ならともかく付属品であるアイスは貴重品だ。
ミルクと砂糖と卵をかき混ぜて冷やせば完成だが、その冷やすのが問題。
冷やすには氷室で保管した氷や魔法、もしくは冷蔵庫の機能をもつ魔道具のような貴重品が必要でその分高く付く。
お値段でいえば大体金貨1枚の10000G。日本人感覚ならぼったくりなんだろうけど、それだけ手間がかかるなら仕方ない。
それに……
“エクレアちゃんお金ため込みすぎ。食の楽しみは心の栄養なんだし、少しは贅沢しないと”
世知辛い世界を生きていたエクレアはストイック過ぎた。
一応身近な大人が心配してたようだ。何かと理由付けては適度に食べさせていても、エクレアはそれを素直に喜んでなかった。
子供として不健全過ぎだ。だから“私”が正そう。
そう思っての提案だ。しかし、母の反応はすっごい困惑してるようにみえる。
「アイスというとやっぱりマイさんに作成を頼むのよね」
「当然じゃない。ここら辺で一番おいしくアイス作れるのってマイお姉ちゃんしかいないし、ついでに一緒に誘って食べよ。私の生還祝いとか」
「そ、そうよね………」
おかしい。普通ならここはにっこりと笑いながら賛成してくれるところだ。
ものすっごい歯切れ悪く答える。
「その…マイさんは今遠くに出かけてるのよ。親戚に呼ばれたとかで帰ってこれなくて」
「親戚って……お姉ちゃんに親戚がいるなんて聞いてないけど」
「貴女に話してなかったけど居たらしいのよ」
「いないよ」
真顔で断言する。
予想通りならマイお姉ちゃんは転移者だ。
黒髪で『テーレッテレー』とか『青汁』なんてキーワードもそうだが。何よりの証拠……
マイお姉ちゃんのフルネームは『サトーマイ』
この世界基準だと馴染みのない名前でも、漢字にすれば『佐藤 舞』
日本では割とありふれた名前になる。
マイお姉ちゃんは何らかの理由で世界を超えた転移者だ。
よって親戚の類なんて居ない。
家族そろって転移なんて可能性もなくはないが、お母さんの端切れ悪い態度からみてまずないだろう。
もしかしたら、マイお姉ちゃんの身に何かあったのかもしれない。
だから、詮索されたくなかったのだろう。
知るべきではないのだろうけど……
「ねぇ、何があったの?本当の事言って。私はお姉ちゃんの弟子なんだし、師匠の事を知る権利はあるはずでしょ」
弟子ならば師匠の事を知る権利はある。
その言葉に納得はした…してはないのだろうが、覆すような言葉はないのだろう。
エクレアは一度決めたらガンとして譲らない信念というか頑固さがあるわけだし、説得は不可能と思ったのか話す決心をしたらしい
「いいわ。教えてあげるけど……決して驚いちゃダメよ」
「驚くってマイお姉ちゃんは驚かされてばっかりだし今更と思うけどね。
あ~早くお話したいな~」
あれは中身が日本人なら、この世界住民基準だとさぞかし奇異にみられるだろう。
驚かされただろう。
でも、日本人の前世を思い出した今のエクレアなら逆に驚かしてやれる。
その時お姉ちゃんはどんな表情をするか……
今から楽しみだっと思ってたが…………
その機会はなかった。
「マイさんは亡くなったのよ」
「………えっ?」
話をする機会は永遠に来なかった。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
がんばれ宮廷楽師! ~ラヴェルさんの場合~
やみなべ
ファンタジー
シレジア国の宮廷楽師としての日々を過ごす元吟遊詩人のラヴェルさんよんじゅっさい。
若かりし頃は、頼りない、情けない、弱っちいと、ヒーローという言葉とは縁遠い人物であるも今はシレジア国のクレイル王から絶大な信頼を寄せる側近となっていた。
そんな頼り?となる彼に、王からある仕事を依頼された。
その時はまたいつもの戯れともいうべき悪い癖が出たのかと思って蓋を開けてみれば……
国どころか世界そのものが破滅になりかねないピンチを救えという、一介の宮廷楽師に依頼するようなものでなかった。
様々な理由で断る選択肢がなかったラヴェルさんは泣く泣くこの依頼を引き受ける事となる。
果たしてラヴェルさんは無事に依頼を遂行して世界を救う英雄となれるのか、はたまた……
※ このお話は『がんばれ吟遊詩人! ~ラヴェル君の場合~』と『いつかサクラの木の下で…… -乙女ゲームお花畑ヒロインざまぁ劇の裏側、ハッピーエンドに隠されたバッドエンドの物語-』とのクロスオーバー作品です。
時間軸としては『いつサク』の最終話から数日後で、エクレアの前世の知人が自分を題材にした本を出版した事を知り、抗議するため出向いた……っという経緯であり、『ラヴェル君』の本編から約20年経過。
向こうの本編にはないあるエピソードを経由されたパラレルの世界となってますが、世界観と登場人物は『ラヴェル君』の世界とほぼ同じなので、もし彼等の活躍をもっと知りたいならぜひとも本家も読んでやってくださいまし。
URL
http://blue.zero.jp/zbf34605/bard/bardf.html
ちなみにラヴェル君の作者曰く、このお話でのラヴェルさんとお兄ちゃんの扱いは全く問題ないとか……
(言い換えればラヴェル君は本家でもこんな扱われ方なのである……_(:3 」∠)_)
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!
あきのみどり
恋愛
【ヒロイン溺愛のシスコンお兄様(予定)×悪役令嬢(予定)】
小説の悪役令嬢に転生した令嬢グステルは、自分がいずれヒロインを陥れ、失敗し、獄死する運命であることを知っていた。
その運命から逃れるべく、九つの時に家出して平穏に生きていたが。
ある日彼女のもとへ、その運命に引き戻そうとする青年がやってきた。
その青年が、ヒロインを溺愛する彼女の兄、自分の天敵たる男だと知りグステルは怯えるが、彼はなぜかグステルにぜんぜん冷たくない。それどころか彼女のもとへ日参し、大事なはずの妹も蔑ろにしはじめて──。
優しいはずのヒロインにもひがまれ、さらに実家にはグステルの偽者も現れて物語は次第に思ってもみなかった方向へ。
運命を変えようとした悪役令嬢予定者グステルと、そんな彼女にうっかりシスコンの運命を変えられてしまった次期侯爵の想定外ラブコメ。
※話数は多いですが、1話1話は短め。ちょこちょこ更新中です!
●3月9日19時
37の続きのエピソードを一つ飛ばしてしまっていたので、38話目を追加し、38話として投稿していた『ラーラ・ハンナバルト①』を『39』として投稿し直しましたm(_ _)m
なろうさんにも同作品を投稿中です。
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる