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第1章

3.エクレアちゃんってすっごい特技持ちだったんだ

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 エクレアが前世の記憶を思い出してから翌日。
 再度寝た事で起きた時には、頭が随分すっきりとしていた。
 寝てる内に塗り直してくれた塗り薬に含まれている解毒と沈痛効果が発揮してきたのか、痛みもマシになってきている。

 ちなみにこの塗り薬。毒虫や毒蛇といった毒持ち生物に噛まれたり、刺されたりした時に処方する薬で冒険者に必需品の一品。化膿も防ぐし、無難な処置としてはすぐれもの。
 お値段は10回分の容量で大銀貨3枚の3000Gと割とリーズナブル。

※1G=1円  銅貨1枚=1G   大銅貨1枚=10G
       銀貨1枚=100G   大銀貨1枚=1000G
       金貨1枚=10000G 大金貨1枚=100000G

 ん?なんでそんなことくわしく知ってるかって?
 この薬の製作者がエクレアだからである。

「う~ん、エクレアちゃんってすっごい特技持ちだったんだ」

 “私”の前世の記憶は曖昧だけど、エクレアの記憶はほぼ全てを受け継いでいた。
 その記憶の中で特に印象的なのが働いてる姿。
 自分で育てたり、森から採取したりで集めた薬草。それらを洗って干して、時に煮込んで、すりつぶして、あぶってと加工しては混ぜて調合。出来た薬を冒険者ギルドのようなところに持ち込んでお金と交換している姿……

 8歳という子供なのに薬を作っては売買して家計の足しにしてたなんて、自分のことながらたくましすぎる。
 そして、世知辛すぎる。
 本来ならまだ遊んだりしてる年頃だろうに……。

 っと思うも、“私”はエクレアの気持ちもわかる。

 なぜなら……


 目の前にいる母。
 リンゴの皮を向いている母。名前はルリージュ。年齢は今年で28歳。

 まだまだ若いのに随分と老けて見える。
 これは異世界だからそう見えるからじゃない。今まで苦労を重ねてきたからだ。

 なにせ物心ついた頃にはすでに父はいない。エクレアの記憶によるとエクレアが生まれる前に死んでしまったというのを聞いたようだ。
 親兄弟どころか親戚の類もいない母。少なくともそういった親族が訪れた記憶はないので母は孤児の類だったのだろう。
 そんな母が父と結ばれてさらに娘…エクレアが生まれた後は、3人で幸せな家庭を築こうと母は幸せ一杯に思ってただろうに、その前に夫と死別。

 わかる……
 その時の気持ちはわかる。

 幸せが訪れると思ってた矢先のこれだ。母の落ち込み具合は相当だと推測できる。
 それでも母のお腹にはエクレアがいた。今まで守られる側であった母は守るべき存在になったのだ。

 悲しみにくれるわけにはいかない。生まれてくる命を前にして、自暴自棄になれるわけがない。
 守る存在である命のため、母は働いた。
 文字通り赤子を抱えながら日々の糧を得るため必死に働いてきたのだろう。

 髪の艶はなく、手もあかぎれだらけの荒れ放題。
 磨けばきっと男達が黙ってないだろうに……


(エクレアちゃん…わかるよ。そんなお母さんを見てきたから助けになりたい。
 力になりたいっと思って手に職を持とうとしたんだよね。でも……)

 それで選んだのが薬の調合と売買。
 畑仕事とか酒場や食堂の下働きな選択肢もあったのに、エクレアが選んだのは『薬師』だ。

 選んだ理由は簡単。





 一番お金になりそうだから(どきっぱり)





 子供らしい……ある意味では子供らしい発想だけど、それで薬師だなんてとんでもない茨の道を選んだものだっとしみじみ思う。

 実際、畑仕事や酒場の下働きは大した知識がなくても出来る。
 単純作業なので子供の小遣い稼ぎとして割と人気だ。

 対して薬師はというと………うん、作るにはまず薬の原料となる薬草各種の知識が必要。
 薬草と一口でいっても、その種類は様々。効用がある箇所も葉っぱや根っこに花と様々。中には毒性が含まれてる物もあるので、とにかく知識が必要。

 っというか、効用の高い薬草は大体毒持ちだ。

 扱いは慎重にしなければいけないし、調合といってもただ薬草を鍋の中へ適当に放り込んで、煮込んだりすりつぶしたりしたら完成となるようなものではない。

 いや、適当でも案外どうにかなるっぽいけど、売り物とするにはダメだ。
 不純物を取りのぞき、必要な成分のみを抽出して純度を高めないと効能の高い物は作れない。
 そのためには、やはり膨大な知識が必要っと子供が安易に手を出していいような部類じゃない。

 部類じゃなかったけど、エクレアは手を出した。
 エクレアにはアテがあったのだ。

 村外れにはちょっと、いや、かなり偏屈だけど薬師として様々な薬を作っているお姉ちゃん………お母さんと同じ年だというのに、おばさん呼ばわりしたら最後。笑ってるけど笑ってない顔でとてつもなく苦くてまずい薬を無理やり飲まされる……ものすごい若作りなお姉ちゃんが住んでいた。

 そこに押しかけて弟子入り志願したらしい。
 結果としては母の助けになりたいっという心意気に感動してか、追い払われるどころか歓迎までされる勢いで弟子入りを認めてくれた。

「しかしマイお姉ちゃん。本当におかしかったよね」

 お姉ちゃんは魔女を名乗っていた。
 魔女は魔法を使える女の人の総称だけどお姉ちゃんは魔法なんて使えない、いわばなんちゃって魔女。
 魔女の正装とかいう黒い服と黒いとんがり帽子を常時身に着けて『イヒヒヒ……』なんて怪しげに笑いながら大鍋をかき回す。
 かと思えば、時折鍋の中身を味見しては



“美味い!! テーレッテレー!!!”



 とか叫んでいた。
 中身は半端に余った薬草を適当に放り込んで作成する薬草汁、通称『青汁あおじる』……緑色なのになぜか『青汁あおじる』とか呼んでる……という身体にいいけど味はすっごい苦くてえぐくてとうてい飲めたようなものじゃない代物。なのにあれが『美味い』なんて、エクレアは『味覚がおかしいんじゃないの?』なんてすっごい首傾げてた記憶がある。

 ちなみに『青汁あおじる』はコップ一杯200Gの銀貨2枚。こんなの誰が買うの!?って思うもおじいちゃんやおばあちゃんに人気でそれなりの数が売れてた。


……

………

…………


「ん?んん??????」
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