上 下
3 / 98
第1章

1.“深淵”もまたこちらを覗いているのだ

しおりを挟む
 “深淵”もまたこちらを覗いているのだ。


 これは誰の言葉だったか……

 私は“深淵”を覗いていた。

 それがなぜ“深淵”と理解できたのかわからない。

 とにかく“深淵”を覗いていた。



 私は誰なのか……

 わからない。

 なぜここにいるのかわからない。

 なんとなく“深淵”に手を伸ばす。

 なぜ自分がそのような行動を取ったのかわからない。

 しいていうなら……呼んでいるから。

 “深淵”の奥底から呼ぶ声が聞こえてくるから……

 なにせ私には戻る場所があるから……

 どこに?

 私はどこに戻るの?


 ………わからない。私はどこに戻る???

 もどる場所は………


……

…………

………………



 思い出した!!


 私が戻る場所、そこは………




















…………………………


「…ん?」

 私は目が覚めた。

 酷く頭が痛い。酒を飲み過ぎて二日酔いから醒めたかのように痛かった。


……

…………

………………


 (あるぇ?私は昨日お酒なんて飲んだ記憶が…ない?)

 記憶がすごく曖昧だった。
 とりあえず起きようとするも身体が動かない。

 金縛りではなく、身体が痛い。少し動かすだけで全身に激痛が走る。
 特に痛みが激しいのは首筋だった。手をやると包帯らしきものがまかれているのがわかる。

 もしかして、なんらかの事故に巻き込まれて病院に担ぎ込まれた?
 ……にしてはおかしい。ここは病院にはみえない…


「つっ…」

 痛みに耐えながらなんとか上半身を起こして周囲を見渡す。

 そこは殺風景だった
 よく言えば古風なログハウスで悪く言えばボロ小屋の小さな部屋。
 小さな机には桶と手ぬぐい。後いろんな物が入ってるであろうタンス。
 それが全てだった。

 「ここはどこ……私はだれ?………だれ……」

 ……思い出せない。

 “私”は誰?

 名前が思い出せない。

 もしやこれが記憶喪失……

 フィクションではよくある記憶喪失………

 なんてべたなと思うも、とりあえず今は落ち着こう。

 伝統的に素数を数えて落ち着こう。


 2、3、5、7、11、13、17…



……

………

……………


(こんなんで落ち着けるか!!!)




 思わず脳内のちゃぶ台をひっくり返したくなるも、とりあえず思い出せるところは思い出していこう。

 まず昨日なにがあったか……



 そうだ。森だ。

 ある日森の中へびさんに出会った。
 花咲く森の道でへびさんに出会った。


 くまさんじゃなくへびさんだ。

 くまさんだったら危なかったが、へびさんだったら別に怖くなかった。
 とっ捕まえて首をちょん切って、生皮をベリべりはぎ取り、肉はぶつ切り。
 後は串に刺して火であぶって塩かけて……

 なんて美味しく食べちゃうけど、あいにくその日出会ったのはそんな生易しいへびさんじゃない。




 へびさんなのになぜか短い手足が付いていた。口から垂らす涎は地面をジュウジュウと溶かしてた。
 何よりも………瞳がヤバかったのを覚えてる。

 怪しく光るその瞳に見つめられた瞬間腰が砕けた。

 まるで“深淵”を思わせるかのような…みるものの正気を奪い“狂気”へと導く怪しく光る眼に睨まれた瞬間動けなくなったのだ。
 恐怖で私を縛り付けた。

 察した。

 私はこれから死ぬ…

 あれに食われて死ぬっと



 (死にたくない!!)


 私は抗った。

 抗おうとした。

 死にたくなかった。

 死が怖いからじゃない。

 私には死ねない理由があった。

 死んだら私は………

 だから逃げる!

 なんとしても逃げる……逃げる…

 その想いだけで正気を保った。SAN値がごりごり削れていくも正気を保ち続けた


 へびが唐突に目を瞑った。


 “今だ!”

 瞬間、麻痺が解けた。隙を見せた。
 即座に立ち上がろうとするも……

 できなかった。

 あれが目を瞑ったのはただ気合を込めるため、
 瞬時に距離を詰めるための溜めだったのだ。

 即座に私を押し倒すかのように上へと覆いかぶさり……



 そして………大きく開けた顎が私の首筋に………

















 \かぷり/



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

王子の逆鱗に触れ消された女の話~執着王子が見せた異常の片鱗~

犬の下僕
恋愛
美貌の王子様に一目惚れしたとある公爵令嬢が、王子の妃の座を夢見て破滅してしまうお話です。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

貴方と私では格が違うのよ~魅了VS魅了~

callas
恋愛
彼女が噂の伯爵令嬢ね…… 魅了魔法を使って高位貴族を虜にしていく彼女。 ついには自分の婚約者までも…… でもね…相手が悪かったわね

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

婚約破棄の『めでたしめでたし』物語

サイトウさん
恋愛
必ず『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』で終わる乙女ゲームの世界に転生した主人公。 この物語は本当に『めでたしめでたし』で終わるのか!? プロローグ、前編、中篇、後編の4話構成です。 貴族社会の恋愛話の為、恋愛要素は薄めです。ご期待している方はご注意下さい。

処理中です...