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帰路と夕焼け※優視点

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「これ! よさそうじゃない?」
 ジーンズ生地のカーディガンを羽織って、光貴の前でくるくると見せる。

「……前、閉じるんなら」
「あは、心配性だねぇ」
 くすくすと笑いながら試着室に戻り、着替える。

 光貴の心配が、彼からの好評価のように思えて。
 口元が奇妙に歪むのを止められなかった。

 表情が制御できるほど落ち着いてから、試着室を出た。

「じゃ、これ買ってくるねー!」
 服を抱えてキャッシャーに向かおうとすると、光貴に肩を掴まれた。

「これ」
 そう言って差し出されたのは、この服屋のショッパーだった。

「遅いから、払ってきた。やるよ」
「……えぇ!? いやいや、悪いって!! いくらだった?」
「勉強見てもらったお礼? 的な……」
 半ば強引に紙袋を押し付けられ、同時に僕が持っていた服を回収された。
 テキパキとハンガーにかけられてラックに戻されていく。

 最後の服を戻し終えると、こちらを振り向いて、口を開いた。
「夕焼け、見に行こうぜ」
「……う、うん」


「歩道橋だぁ!!!」
「別に珍しくないだろ……」
「あんまり使わないから珍しいの!」
「そうか。ここを上がると夕焼けが綺麗に見えるんだ」

 るんるんとした気分で、段差を上がっていく。

「綺麗、だねぇ」
「そうだな」

 キャンプファイヤーを見ているような気持ちで、ビルの間に沈んでいく太陽を見つめる。

「……ねぇ、光貴」
 一大決心をした。
 それは、これだけ楽しかったこの一日を、台無しにしかねない決心だった。

「なんだ?」
「好きな人が、いるんだ」
 太陽から目を逸らさずに言った。

「……そっか。……おう、えん……」
 隣から聞こえたのは、なんとも歯切れの悪い言葉だった。

「ごめん、応援……できない、かも」
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