ゲーム世界のモブ悪役に転生したのでラスボスを目指してみた 〜なぜか歴代最高の名君と崇められているんですが、誰か理由を教えてください!〜

八又ナガト

文字の大きさ
上 下
55 / 58
第三章 冥府の大樹林編

第55話 遥かに遠い背中【ソフィア視点】

しおりを挟む
 透き通るような純白の長髪が特徴的な少女ソフィア・フォン・ソルスティア。

 彼女は現在、ある目的を持ってレンフォード領にやってきていた。

 その目的とはずばり、クラウスが【冥府の大樹林】をどう統治するか、隣で観察し学ぶというもの。
 この任務を父である国王アルデンから提案された時、彼女は二つ返事で頷いた。

「クラウス様の隣にいられるこの機会を、逃すわけにはいきません!」

 意気込むソフィア。
 とはいえ当然、ただ学ぶだけで終わらせるつもりはない。
 であれば、クラウスを支えることもできるはず――そうソフィアは考えていた。



「騙されたぁぁぁあああああ!!!」



 そうして迎えた、【冥府の大樹林】の統治初日。
 なぜか驚愕の声を上げるクラウスを不思議に思いながら、ソフィアは改めてアルデンから伝えられた内容を思い出していた。

 アルデンは言っていた。
 そもそもクラウスに【冥府の大樹林】が与えられることになったきっかけは、彼が魔王軍幹部を討伐した褒美にその地を望んだからだ。

 しかしソフィアも知っての通り、ここは過去数百年にわたって、開拓に失敗し続けた未開の地。
 クラウスの実力であっても、さすがに人々が暮らせる大地に戻すのは難しい。
 そこでアルデンと側近のウィンダムは、クラウスの真の目的がマルコヴァール辺境伯の監視にあると睨んでいた。

 だが、それを聞いたソフィアは「いや」と首を振った。

(いいえ――に、不可能などあるはずがございません!)
 
 確かにアルデンの言う通り、開拓の難易度は高い。
 クラウスであろうと苦労するのは間違いないだろう。
 しかし、彼と自分に与えられた数か月の時間を最大限に活用すれば、その活路も見出せるはず。
 その過程において、自分は全力でクラウスを支えてみせる――そうソフィアは意気込んでいた。

 だが、ソフィアはまだ完全には分かっていなかった。
 自分が将来を共に過ごすであろう(?)相手が、どれほどの傑物であるかを。

 そしてやってきた、今日この瞬間。
 まずは土壌の調査でも始めるのだろうかと、ソフィアが考えていた直後だった。


「ソフィア。ここが俺の領土になったということは、何をしてもいいんだな?」

「え? は、はい。当然、基本的な統治方針はクラウス様に委ねられますが……」

「そうか。それを聞いて安心したぞ」


 突然の問いに、ソフィアは困惑しながら頷く。
 するとクラウスは、突如として意気揚々と魔力を練り始めた。


「ク、クラウス様? どうして突然、魔力を練り始めて……」

「レンフォード卿!? この魔力は――」

「なんて魔力の圧だ! 俺たち程度じゃ抗おうにも押し返されちまう!」


 その魔力の圧は、明らかに調査用魔術のそれとは比べ物にならなかった。
 まるで全力の魔術によって、この大地を破壊しようとしているかのようだ。

 しかし、それは愚策。
 かつてこの地を開拓しようとした者の多くが、同じ手段を用いて失敗したという結果が残されている。

(さすがのクラウス様であっても、これはさすがに無茶――)

 思わず制止しようとするソフィアだが、すぐに彼女は口を閉ざした。
 目の前にいる少年が浮かべる真剣な横顔に、目を奪われてしまったからだ。
 そう。それはまるで、かつて彼が自分に指輪をプレゼントした時、向けてくれたものと同じ――

「全員、後ろに下がっていろ。

「クラウス様、いったい何を――」

 ――ソフィアが尋ねるより早く、クラウスはそれを唱えた。


「【過剰連撃オーバードライブ炸裂するプロミネンス・爆炎バースト】」


 刹那、クラウスの手から放たれるは炎の奔流。
 それが地面に接触した瞬間、大爆発を起こし一帯を焼け野原へと変えてみせた。

「きゃあっ!」

「なっ! なんて威力だ!?」

 魔王軍幹部を倒したその実力に見合う、圧倒的な火力。
 だが、これだけでは意味がないことをソフィアは知っていた。

(大樹林が持つ最大の特徴は、その圧倒的な魔力量。いくら草木を燃やしたところで、すぐに周辺一帯から魔力を吸収し再生されるはず。この程度では、その場しのぎにしかなりません!)

 冷静に分析するソフィア。
 そんな彼女が真に驚愕するのは、その直後のことだった。

 クラウスが放った、炎の奔流の着弾点。
 そこにはまだ魔力の塊が残っており――突如として怒涛の連続爆破を引き起こしたのだ。

 その結果、わずか五分後。
 今度こそ辺り一面は、魔力の痕跡一つ残さない焦土に変貌していた。


「「「……………………(ぽかーん)」」」


 思わず、呆然と立ち尽くすことしかできないソフィアたち。
 そんな中、いち早く我に返ったソフィアは、自分の過ちを悟る。

(私はいったい、何を勘違いしていたのでしょう。過去には誰も成功しなかったから、今回も失敗する……そんな常識が、クラウス様に通じるはずがありませんでした!)

 現実を思い知らされた今なら、そう思ってしまった理由が分かる。
 今回の任務を聞いた時、ソフィアはその難易度の高さから、さすがのクラウスであっても苦労する――つまり、自分が力を貸せるシチュエーションがやってくると思ってしまった。
 彼の支えになりたいという思いが先走り、現実が見えていなかったのだ。

(これではいけません。クラウス様の伴侶たるもの、しかと彼の実力を見抜けなければなりません!)

 その点でいえば、彼の従者であるマリーの方が、全てを分かっていたかのような落ち着きを見せている。
 そんな彼女に抱くわずかな嫉妬心。王女たる自分が、この程度のことで動揺していてはならない。

 深呼吸するソフィア。
 そんな彼女に向かって、ひとしきり笑いきったクラウスが語りかけてくる

「どうだ、ソフィア。お前たちでは俺を測ることなどできないと理解できたか?」

「……はい、クラウス様。私はまた一から、精進する所存です!」

「? そ、そうか。それならいい」

 想定していなかった答えに、「何を言っているんだコイツは?」と怪訝な表情を浮かべるクラウス。
 だが盲目な恋する少女ソフィアでは、クラウスのその様子に気付くことができなかった。

 その代わり、彼女は心の中で新たな目標を立てる。
 大樹林を開拓する過程で、クラウスの支えになるという当初の目的は破綻した。
 しかし、そんなことで諦める自分ではない。


(今はまだ、その背中は遥か遠く……それでも私は絶対に諦めません! 共に過ごす日々の中で、ほんのわずかでも貴方に追いついてみせます!)


 かくして、【冥府の大樹林】での日々が始まるのだった。


――――――――――――――――――――

【大切なお願い】

本日より新作
『ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた』
を投稿させていただきました。

大変面白い出来になっているので、ぜひご一読いただけると幸いです!
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双

さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。 ある者は聖騎士の剣と盾、 ある者は聖女のローブ、 それぞれのスマホからアイテムが出現する。 そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。 ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか… if分岐の続編として、 「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...