46 / 58
第三章 冥府の大樹林編
第46話 もう一人の主人公②【クロエ視点】
しおりを挟む決闘開始から、約五分後――
「【加速する矢】! 【螺旋の矢】! 【風を纏う剛弓】!」
「な、何ぃぃぃ!? まさかこの俺が、ただの平民に敗北するなどぉぉぉぉぉ!」
クロエの放つ弓が全て直撃し、アクスが地面にひれ伏す。
こうして決闘はクロエの勝利で決着がついた。
「まっ、こんなもんね」
勝利したクロエは、満足気にそう告げる。
実際のところ、クロエとアクスの能力値はほとんど同じ。
だが普段から狩りをしていることや、つい二日前にブラゼク(強化後)と戦った経験があるおかげで、戦闘スキルに関してはクロエの方が何倍も上手だった。
「……納得できるかぁ!」
だが、ここでアクスは不満げに声を張り上げる。
クロエは一つため息を吐き、声をかけた。
「なによ、何か文句でもあるの?」
「当然だ! 平民の身でこの俺を負かすなど絶対に許せん! おい、お前たち!」
アクスがそう叫ぶと、取り巻きの者たちも武器を構える。
どうやら次は集団で襲い掛かってくるつもりのようだ。
「ええい、面倒ね」
クロエは険しい表情で再び弓を構える。
だが、その直後だった。
「おい、何だこの騒ぎは!」
修練場全体に、凛とした声が響き渡る。
視線を向けると、そこには青色のセミロングが似合う少女がいた。
彼女はクロエに気付くと、驚いたように目を見開く。
「君は確か……クロエくんだったか」
「何よ、エレノアじゃない」
2日ぶりの再会。
2人が旧友のように話し始めるのを見て、アクスたちは表情を変える。
「こ、ここでエレノア・コバルトリーフだと……? それに、彼女と親し気に話すアイツはいったい……!?」
エレノアは一年生でありながら、既に生徒の域を超えた実力者だと有名だった。
加えて実家にも力があるため、学園で彼女に逆らおうとする者はいない。
クロエたちが会話をしている隙に、アクスたちはそそくさと逃げていくのだった。
その後、事情を聞いたエレノアはコクリと頷く。
「なるほど、経緯は分かった。彼らの行為については、私の方から生徒会に伝えさせてもらおう」
「助かるわ、エレノア」
「お礼を言うのは私の方だ。学園で起きたトラブルを解決してくれて感謝する」
そんな会話を繰り広げた後、クロエは言いがかりをつけられていた女生徒たちに視線を向ける。
「……エレノア様と……親し気に……」
「平民で……強さ……」
「……とっても……こいい」
3人は顔を合わせ何かをボソボソと呟いている。
アクスという脅威がいなくなった喜びを噛み締め合っているというところだろうか。
そう推測しながら、クロエは3人に近づいていく。
「大丈夫だったかしら、3人とも? 今後また絡まれるようなら、エレノアに相談してちょうだい。私が学園に来れるのは数か月後からだから」
これでやるべきことは全てやり切ったと、満足して頷くクロエ。
だが、彼女にとって最も予想外なことが起きたのは、この直後のことだった、
女生徒三人はキラキラとした目でクロエを見つめる。
そして、口を揃えてこう言った。
「「「ありがとうございます、クロエお姉さま!」」」
「…………は?」
訳の分からない感謝の言葉に、一瞬頭がフリーズする。
数秒後、ようやく言葉の意味を理解した。
「ちょ、ちょっと待ちなさい、お姉さまって何のこと?」
「戦闘時の立ち居振る舞い、卓越した弓と魔術の腕前……それはまさに、私たちが憧れとする理想像――すなわちお姉さまです!」
「言っている意味が分からないんだけど!? というか強さだけなら、アタシよりエレノアの方がよっぽど上でしょう!?」
「もちろんそれだけではありません! お姉さまは平民でありながら上級貴族に屈せず、エレノア様とも親し気にお話しされています。その在り方に私たちは憧れたのです!」
「な、なるほど……ってなに納得しかけてるのよ私! というか、そもそも学園生ってことはあなたたち、アタシより年上よね!? どう考えてもお姉さま呼びはおかしいでしょ!」
「いいえ! お姉さまとは魂の在り方! 年齢など些細な問題です!」
3人は次々とクロエがお姉さまな理由を語りだす。
その勢いがあれば、アクスたちを追い返すことなんて簡単だったろうにとクロエは思った。
その後も、3人の称賛は止まることがなく――
「「「お姉さま! お姉さま! お姉さま!」」」
3人は一丸となって、お姉さまコールを始め出した。
それを聞きながら、クロエは両手で頭を抱える。
そして、
(何でこうなったのよぉぉぉぉぉおおおおお!!!)
心の中で、力強くそう叫ぶのだった。
これ以降、3人はクロエの気高さについて他の下級貴族たちに広めていく。
その結果、『アルテナ・ファンタジア』において貴族に復讐するため入学した時とは一転。
この世界においてクロエは、入学前にもかからわず学園内に『クロエお姉さまファンクラブ』が設立される程の人気を博するのだった。
――――――――――――――――――――
というわけで、どうやらクロエもクラウスと似た何かを持っているようです。
実際に学園に入ってから彼女がどんな目に遭うのか……少し先にはなると思いますが、ぜひ楽しみにお待ちください!
13
お気に入りに追加
1,160
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双
さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。
ある者は聖騎士の剣と盾、
ある者は聖女のローブ、
それぞれのスマホからアイテムが出現する。
そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。
ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか…
if分岐の続編として、
「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる