ゲーム世界のモブ悪役に転生したのでラスボスを目指してみた 〜なぜか歴代最高の名君と崇められているんですが、誰か理由を教えてください!〜

八又ナガト

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第二章 王都編

第33話 王女に指輪をプレゼントしてみよう!

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 王都を出発してから約30分。
 目的地にたどり着いた俺は、ソフィアとともにゆっくりと着地する。

 最初は騒いでいたソフィアも今では落ち着きを取り戻したのか(諦めただけかもしれない)、服装を整えながら「はあ」とため息をついていた。


「まだ状況に対する理解が追い付いていません。まさか私がさらわれるなんて……」

「おいおい、まるで人を誘拐犯みたいに言わないでくれるか?」

「かんっぜんにっ! 誘拐ですけれどっ!?!?!?」


 元気が有り余ってるらしいソフィアを尻目に、俺は視線を前に向ける。
 今、俺たちがいるのは王都の近くに存在する【エルトリアの森】。
 その中心には開かれた区域が存在し、ポツンと一つの台座が存在していた。
 台座の上には強そうな獅子の像が置かれている。

 俺は台座の前まで行くと、ゆっくりと獅子の像に振れた。

「さて、ちゃんと開いてくれるといいんだが……」

 その言葉に反応したわけではないだろうが、突如として獅子の目が赤く光る。
 直後、台座は二つに割れ、ズズッと左右に分かれていった。
 そしてその足元には下に続く階段が現れる。

 それを見た俺は小さく頷いた。

「うん、問題なさそうだな」

 ここは『アルテナ・ファンタジア』にも登場する隠しダンジョン【エルトリア大迷宮】だ。
 本編をクリアするだけなら特に攻略する必要はないダンジョンだが、中には優秀なアイテムや強力な魔物がはびこっている。

 原作においては、主人公のレベルが100を超えることで初めて入れるようになるダンジョン。
 その領域まで俺がたどり着けているかを心配していたのだが、いらぬ心配だったようだ。

「ここはいったい……」

「隠しダンジョンだ」

 予想していなかったであろう光景にソフィアも驚いたようで、興味深く階下を覗き込もうとする。
 そんな彼女に俺は続けて言った。


「それじゃ、降りるぞ」

「えっ? 今からここをですか!?」

「ああ。それともあれだけタンカを切っておきながらダンジョンに潜るのが怖いのか? だったら無理にとは言わないが」

「なっ!」


 少し煽ってやると、予想通りソフィアは顔を真っ赤にする。
 そして自分の胸元に手を当てながら、威風堂々と告げた。


「馬鹿にしないでください! 私はソルスティア王国第一王女、ソフィア・フォン・ソルスティア! 隠しダンジョンごとき、一瞬で華麗に攻略してみせましょう!」


 ◇◇◇


「も、もう無理ですぅぅぅ! クラウスさん、なんとかしてくださいぃぃぃ!」


 10分後。
 俺の目の前には、魔物の群れに襲われながら必死に救いを求めるソフィアの姿があった。

 それもそのはず。
 ここは隠しダンジョンだけあって、ザコ魔物でも60レベル(Bランク)以上の敵が出現する。
 そんな中、物語開始前のソフィアはまだ15~20レベル程度。
 そもそも勝てる道理はなかった。

 救いの目を向けてくるソフィアに対し、俺は真剣な表情で告げる。


「大丈夫だ! 魔王軍幹部に勝てるだけのレベルならこの階層の魔物くらい楽勝のはず! ソフィア、お前ならできる! がんばれがんばれ!」

「も、申し訳ありませんでした! 認めます! 私が間違っていたと! 今の私ではとても魔王軍幹部には勝てません! ですから、お願いですから助けてくださいぃぃぃ!」

「……ふむ」


 さすがにこれ以上は限界だろう。
 そう判断した俺は幾つか魔術を使い、襲い掛かってくる魔物を殲滅する。

 ようやく脅威から逃れたソフィアは、その場にペタンとへたり込んだ。

 数分ほど待つとようやく立ち上がれるだけの元気が戻ってきたのか、震えた足で体を起こす。
 そして、疲れ切った目で俺を見つめてきた。


「申し訳ありませんでした、クラウスさん。確かに貴方の強さは私とは比べ物になりません」

「今の自分の実力が理解できたか?」

「……はい。これからは自分に過信することなく精進しょうじんしたいと思います。きっとクラウスさんもそのことを私に伝えたかったのでしょう」


 原作で主人公との決闘に負けた時のように、清々しい表情を浮かべるソフィア。
 それを見て、俺はわざわざ彼女を連れてきた甲斐があったなと確信した。

 そんなことを考えていると、ソフィアがその場できびすを返す。


「それでは、時間も遅いことですしそろそろ引き返しましょうか――」

「ソフィア」ガシッ

「ク、クラウスさん、どうして私の肩を掴んで……? 目的も達成できたことですし、後は帰るだけなんじゃ……」

「何を言っている?」


 不思議なことを告げるソフィアに対して、俺は迷うことなく告げた。


「せっかくの機会だ、このまま魔物を倒しまくって、お前にはここで強くなってもらう」

「……へ?」

「具体的には、今日一日で10以上のレベルアップが目標だな」

「一日? レベル? クラウスさん、貴方は何を言って――」

「よし、それじゃ行くぞ!」

「え、えええぇぇぇぇぇ!?!?!?」


 迷宮いっぱいにソフィアの悲鳴が響き渡る。
 その後、俺はソフィアのパワーレベリングに付き合うことになるのだった。


 ◇◇◇


 それから次々と襲い掛かる魔物とソフィアは戦い続けた。
 とはいえ、彼女が一人で戦える相手でないことは分かっている。
 そのため俺はサポートに回り、バフをかけたり魔術で援護したりしていた。

 おっとそうだ、レベルアップといえば――

 俺は懐から【反動強化はんどうきょうか指輪ゆびわ】と【鮮血せんけつ誘魔灯ゆうまとう】を取り出した。


「お~い、ソフィア~! つけたら全能力値が上がる代わりに体力が10%まで減少する指輪と、血塗れになることで魔物をおびき寄せられるアイテムがあるんだけど使うか~!?」

「使うわけないでしょうぅ!?」


 残念ながら断られてしまった。
 まあレベル差的にはリスクの方が高いからしかたないか。
 とりあえず反動強化はんどうきょうか指輪ゆびわだけ俺がつけておくとしよう。


 それからさらに一時間後。

 俺たちは見事、地下10Fにまでたどり着いていた。

「く、クラウスさん、もう足が一歩も動きません……」

「……ふむ」

 そこまでくると、さすがにソフィアは限界中の限界のようだった。
 しかし眼前には、10の倍数階層ということで80レベルのフロアボス・ミノタウロスが待ち構えている。
 本当ならコイツもソフィアに倒してもらいたかったんだが……仕方ないか。


「【地獄のインフェルノ業火・フレイム】」

「グギャァァァアアアアア!!!」


 ミノタウロスだけは俺が前に出て、剣と魔術で圧倒することで瞬殺した。
 するとフロアボス討伐報酬としてアイテムが出現する。
 それは指輪の形をしていた。

「これは確か……」

 その豪華そうな指輪の形を見て、俺は必死に前世の記憶からアイテム情報を引きずり出した。


――――――――――

王家一族の指輪ロイヤル・リング】:S級
・ソルスティア王家の血を継ぐ者が装備した時、全能力値が著しく上昇する。
(上昇量は、装備者のレベル%分)

――――――――――


 これはゲームにおいて最強クラスのアイテム。
 レベル50なら50%、レベル100なら100%能力値を上げてくれる、文字通りの壊れ装備だ。

 しかし残念ながら王家の人間しか装備できない仕様なため、俺が使っても意味がない。
 このまま無駄にするのももったいないと思った俺は、後ろにいる疲れ切ったソフィアに視線をやる。


「ソフィア、手を出せ」

「手、ですか?」

「ああ。ほら、受け取れ――」


 そう言って投げ渡そうとするも、よく見るとソフィアはまともに腕を上げることができないほど疲れ切っている様子だった。
 ……仕方ない。

 俺はソフィアの手を持ち上げ、そのまま指輪をめてやった。


「これがあれば、お前はもっと強くなれるはずだ」

「っ!?!?っっっへぁっっ!?!?!?!?!?!?!?!?」


 ここまでで十分レベルが上がったであろうことに加え、この装備でソフィアの恒常的な強化にも繋がる。
 その結果に満足した俺は立ち上がると、再び彼女に手を伸ばす。


「ほら、さっさと帰るぞ」

「く、クラウスさん……いいえ、クラウス様。これはそういう意味と受け取っても……?」

「? ああ、もちろん(その装備で俺に追いつけるくらい強くなってくれ)」

「……お、お時間を! お時間を頂戴したく!」

「ああ、分かっている(そりゃ一朝一夕じゃさすがに追いつけないだろうからな)」

「………………」


 その後、なぜか焦点が合わずぼーっとしている様子のソフィアを引き連れ、俺たちはダンジョンの外に帰還するのだった。
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