ゲーム世界のモブ悪役に転生したのでラスボスを目指してみた 〜なぜか歴代最高の名君と崇められているんですが、誰か理由を教えてください!〜

八又ナガト

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第二章 王都編

第28話 圧倒的な傑物【アルデン視点】

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 ソルスティア王国の国王、アルデン・フォン・ソルスティア。
 ゲームに登場する登場人物であると同時に、とあるメインヒロインの父親でもある彼は、目の前にいる少年に興味を持っていた。

 少年の名はクラウス・レンフォード。
 若くしてレンフォード家の当主となった彼は、なんと既に幾つもの著しい成果を上げていた。

 そのうちの一つが、ウィンダム主催のパーティーにおける『幻影げんえい』襲撃の予知。
 クラウスはどこからかその情報を入手すると共に、暗号にしてウィンダムに伝えるという手段を取った。
 その結果、見事に襲撃による被害を抑えることに成功したのだ。

 もしこのことが周囲にバレれば、クラウスは主犯から恨みを買う恐れがある。
 にもかかわらずその行動を選択したことに、アルデンは心から尊敬の念を抱いていた。

 だからこそ、まずはこの話題から切り出すことにした。


「そうだな。まずは例の件について話すとするか……レンフォードよ、あの招待状を送るという判断には、さぞ勇気が必要だったことだろう」


 しかし、その称賛に対するクラウスの返答は意外なものだった。

「いいえ、決してそのようなことは。あの程度、私にとっては赤子の手をひねるがごとき容易な対応でございます」

「なんとっ!」

 クラウスの返答を聞き、アルデンは驚愕に目を見開いた。

 もちろん、立場的にもクラウスが謙遜した答えを返してくるだろうとは予測していた。
 だが、今の発言に限っては一切の嘘偽りが感じられない。
 クラウスは心の底から、あれだけの行動が容易だったと思っているのだ。

「……そうか。汝の考えは分かった。我は少々、汝を侮っていたようだ」

 クラウスという存在に底知れなさを感じながらも、アルデンは話を進める。
 次は本題となる、魔王軍幹部捕獲の一件についてだ。


「魔王、およびその配下である幹部は我々にとっての宿敵。しかしその強大さのあまり、これまで各地で敗戦を重ねてきた。そんな中で訪れた朗報。汝には貴族・平民問わず王都にいる多くの者が感謝しておる」


 魔王軍幹部の確保など、王国騎士団が総出でかかったとしても、そう簡単に成し遂げられることではない。
 それをこれだけの若さで成し遂げたクラウスはまさに稀代の名将といえるだろう。

 これだけの逸材を自分のもとから手放すわけにはいかない。
 彼が求めるなら、金品であれ爵位であれ、できる限りの希望を叶えるつもりだった。

 しかし直後、クラウスが発した言葉はアルデンの予想を大いに裏切るものだった。


「私は、この国で最も広大な領土を求めます」

「「なっ!?!?!?」」


 アルデン、そして隣に控えるウィンダムは驚愕に目を見開くと共に、体を大きく震わせた。
 それほどまでに、今のクラウスの発言は衝撃的なものだったからだ。

 ソルスティア王国における最も広大な領土。
 それはすなわち、人間界と魔界を隔たる【冥府めいふ大樹海だいじゅりん】そのものだった。


 というのも、始まりは数百年前までさかのぼる。
 かつて冥府めいふ大樹海だいじゅりんは【恵みの大地】と呼ばれていた。
 土地全体に満ちた潤沢な魔力により動植物の恵みが多かったほか、強力な魔術師などが多く育つ素晴らしい環境だったからだ。
 ソルスティアの中で最も豊かな領土であると同時に、魔界に対する最前線の防衛地として栄えていた。

 しかしある日を境に、土地に満ちる魔力の量が激増した。
 それによって植物は異常成長し、大樹林を形成するに至る。
 さらには大量の魔力によってモンスターも著しく強化され、人が住める環境ではなくなってしまった。

 当然、当時の国王はその事態を重く見て再び開拓を試みた。
 が、なんど森を切り倒そうが瞬く間に元通りになってしまう。
 やがて国王は開拓を諦め、現在のマルコヴァール領まで後退することになった。

 その後、何人もの貴族が開拓を申し出たが、結果は決まって失敗のみ。
 すぐに誰もそんなことを申し出なくなった。


 とはいえ、だ。
 そんな過去があるものの、冥府めいふ大樹海だいじゅりんがソルスティア王国に属する最大の領土であることは今も変わらない。
 当然、そのことを知らないクラウスではないだろう。
 もし知らなかったらただのバカである。

(まさか私の世代となって、あの魔境を引き受けようとする者が現れるとは……)

 普段なら「馬鹿を言うな」と一蹴するところだが、目の前の少年の才覚は計り知れない。
 彼なら本当に成し遂げてしまうのではないかと思えてしまった。
 念のため、確認だけはしておく必要があるだろう。


「……レンフォードよ、それは心の底からの言葉か?」

「ええ、もちろんでございます」

「……そうか」


 クラウスはアルデンの目をまっすぐに見つめ、真剣な表情でそう答えた。
 過去数百年、誰も成し遂げられなかった偉業に挑むというのに、その顔に恐れの色はない。
 その勇敢さに、アルデンは尊敬を超えた畏怖の念を抱いた。

 とはいえ、こればかりはこの場で簡単に許可を出せるものではない。
 ゆえに、


「……その要望に対する可否はすぐに答えられん。もう数日、考える時間をくれ」


 クラウスにはそう告げ、この場はいったん退室してもらうことになった。
 謁見の間に残されたアルデンとウィンダムは、クラウスがいなくなると同時に自然と顔を見合わせる。

「……まさか我が国に、あれほどの傑物が眠っておったとはな」

「ええ、やはりレンフォード子爵は偉大なお方ですね」

 例の件以来、クラウスをこれ以上なく評価するウィンダムを見て疑うこともあったが、今ならそうしたくなる気持ちも十分に理解できた。
 
 そんなことを考えるアルデンに対し、ウィンダムが「ところで」と切り出す。

「レンフォード子爵が【冥府の大樹林】を開拓するためには、マルコヴァール辺境伯の許可を取る必要がありそうですね」

「……そうだな」

 マルコヴァール辺境伯は以前、ウィンダム侯爵に攻撃を仕掛けた主犯と思われる貴族だ。
 そして100年以上もの間、冥府の大樹林に接する大領地を治めている一家でもある。

 大樹林の開拓を行うには、その準備を整えるための仮拠点が付近に必要となる。
 その仮拠点を築くためには、マルコヴァール領の一部を借り受けなければならない。
 当然、辺境伯からは反対されるだろうが……

(先日の一件における罰として、強制的に協力させることはできるだろう。しかし……)

 辺境伯には既に罰として、しばらくの間議会での発言権を没収している。
 さらなる罰を与えるのは、周囲の貴族を含めて反感を買う恐れがある。

 クラウスが本当に開拓できるか分からない中で、それだけのリスクを負うべきか悩むアルデン。
 そんなアルデンの前で、ウィンダムはポツリと呟く

「……もしかしたら、レンフォード子爵の本当の狙いは大樹林ではないかもしれません」

「どういうことだ?」

 尋ねると、ウィンダムはアルデンに真剣な表情を向ける。
 

「ご存じの通り、マルコヴァール領とレンフォード領は一部が接しています。それゆえ、前回の襲撃に関する情報もいち早く入手できたのでしょうが、これで完全に辺境伯の狙いを無力化できたわけではありません」

「マルコヴァールは、今後も襲撃を企んでいると?」

「ええ、その可能性は高いかと。そしてここからが重大な点ですが、先日の実行犯は『幻影の手』。彼らは人と魔族が手を組んで生まれた組織です。では、その主犯と思われる辺境伯はどこで魔族と繋がったのでしょう?」

「それは……まさか、冥府の大樹林か!?」


 ウィンダムの発言の意図を理解すると同時に、アルデンはバッとその場で立ち上がった。
 大樹林は人間が突破できる環境ではないとされているが、魔族の上位個体ならそれも可能だろう。

 驚愕に言葉を失う国王に対し、ウィンダムは続ける。


「恐らくは。そしてそれは当然レンフォード子爵も知っていることでしょう。そこで子爵は開拓を表向きの理由とし、マルコヴァール領の一部を拠点とすることで監視の目を強める意図があるのではないでしょうか?」

「なっ! それは本来、国王の我が行わなくてはならない役目だぞ。わざわざ褒美を捨ててまで、そのような面倒ごとを背負う領主がいるというのか?」

「ええ、なにせ子爵はあの密告を“容易”と答えられるほどの、知恵と勇気に満ちたお方ですから」

「っ!」


 ウィンダムの予想を聞いた今、アルデンはそれが正解としか思えなくなっていた。
 常人離れした卓越した頭脳を持ちながら、それを惜しみなく国のために使おうとする献身性。
 まさしく、過去に類を見ないほど圧倒的な傑物だ。

 アルデンはクラウスに対し、尊敬や畏怖を超えた感情を抱き始めていた。


「……なんということか。彼のような存在がいる限り、我が国の未来は安泰だな!」

「ええ、間違いないでしょう。もっともレンフォード子爵であれば、本当に開拓まで成功させてしまうかもしれませんが」

「そればかりはさすがに厳しかろうが……あれだけの傑物ならあるいは、と思ってしまうな。よし、それでは成功するかどうか賭けでもしようではないか。我は開拓成功に賭けさせてもらおう」

「おや、その二択でしたら私も当然、成功に賭けますが」

「おっと、これでは賭けにならんではないか」

「「ははははは」」


 二人はしばらく笑ったのち、クラウスに対する称賛の言葉を次々と口にしていく。
 その賛美は部下がアルデンを呼びに来るまで続いた。


 かくして、またしてもクラウスの知らないところで、国王たちからの信頼度が爆上がりしてしまうのだった。
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