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第二章 王都編
第21話 王都を散策してみよう!
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レンフォード領を出てから一週間後。
俺たちは無事、ソルスティア王国の王都セレスティアーリにたどり着いた。
王都にふさわしい活気に溢れた町となっており、中小領地のレンフォード領とは比べるべくもない。
しかしここでやることが国王への謁見だと思い出し、少し気分が下がった。
そんなことを考えていると、サーディスとローラが口を開く。
「それでは、私は先に帰還を報告しに王城へ戻ります。レンフォード子爵は予定通り、明日の約束した時間にいらしてください」
「私たちもフレクトの入った棺を届けなくてはならないため、ここで一旦別れさせてもらいます。それでは」
そう言い残し、彼らは王城に向かって去っていく。
残されたのは俺とマリーだけになった。
……さて。
「予定より一日早く着いたのはよかったが、時間を潰す必要ができたな」
「は、はい。そうですね、ご主人様……」
そう答えながらも、マリーはどこか落ち着きなくキョロキョロと周囲を見渡していた。
何か気になるものでもあるのだろうか?
少し気になって彼女の視線の先を見てみると、薬屋や武具店、そして服飾店が道路沿いに並んでいた。
そこで俺は、ようやくマリーの狙いに気付く。
(そうか! 王都では冒険者や迷宮攻略者が多くいる関係上、毒や暗器の取り扱いも最先端をいく。実際に店で見てみたいものの、暗殺対象者である俺に狙いを悟られまいとしているのか)
しかしそういうことなら、助け舟を出してやろう。
俺は胸元からいくらかの金銭を取り出し、マリーに手渡した。
「受け取れ、マリー」
「ご主人様? これはいったい……」
「少し用ができた、ここからは別行動だ。適当にその辺りを回って、欲しいものがあればそれで買え」
「っ! ご主人様……!」
わずかに目を見開いた後、嬉しそうに微笑むマリー。
まさか俺の方から、自分にとって都合のいい提案をしてくれるとは思ってもいなかったのだろう。
まあ、その辺りは何でもいい。
俺は集合時間と場所を伝えた後、マリーに背を向けて歩き出す。
すると、そんな俺の背後では……
「ありがとうございます、ご主人様。周囲の者たちが私の髪を見ているのが気になり、フード付きの服が欲しくなって服飾店を見ていたことを気付いてくださるとは。さらに私が責任を感じないよう、ご自身から別行動の提案をしてくださるそのお優しさ……改めてこのマリー、ご主人様の素晴らしさを知ることができました」
マリーが何かをぶつぶつと呟いていたが、俺の耳には届かないのだった。
◇◇◇
マリーから十分離れた後、俺は改めて王都の街並みを観察する。
先ほどの提案にはもう一つ、俺が一人になりたいという動機も含まれていた。
その理由は当然、
「改めて感動だな。まさかゲーム画面で何度も見た場所を、こうして歩くことができるなんて……!」
そう、『アルテナ・ファンタジア』はここ王都セレスティアーリにある王立学園を舞台としている。
まさに文字通りの【聖地】であると言えるだろう。
「この感動はゲームに登場しなかったレンフォード領じゃ味わえなかったものだからな。この機会にせいぜい堪能してやる!」
さらに喜ばしい点として、ここではレンフォード領とは違い、俺の顔を見ても正体に気付く者はいない。
自分から名前を明かさない限り、クラウスだと気付かれることはないだろう。
それはつまり、どれだけ羽目を外しても問題ないということ!
「今だけは、悪のカリスマについても考えるのを止めよう!」
そう決めた俺は、改めて王都の街並みを堪能した。
ゲームで登場した道具屋や武具店にも行き、テンションが上がった影響で全く意味がないものを買ったりもしてみた。
まるで修学旅行にでも来たみたいだ。
俺は色々と買った荷物を背負いながら、一本の剣を取り出して握りしめた。
見るからに切れ味の悪そうなこの剣は、ゲームにも登場した【錆《さ》びついた剣】。
武具店で実際にこれを見つけた時は、思わず吹き出しそうになった。
「ゲームでは最序盤に購入できる最弱武器として置かれてたから特に違和感なかったけど、現実で売るようなものじゃないからな。本当にこんな剣、買う奴がいるのか?」
まあ、俺は買ったんだけど。
あれだ、修学旅行でつい木刀を買っちゃう的なやつだ。
「後悔はしていない! まあ、ゲームで出てきた店主が不在だったのだけは少しだけ残念だったけどな……おっと、もうこんな時間か」
そんなことを考えていると、マリーに伝えた集合時間が近づいてきている。
そろそろ集合場所に向かおうとした、その時だった。
「離してください!」
甲高い女性の叫び声とともに、パシンッ! と何かを叩くような音が辺り一帯に響いた。
俺を含めたこの場にいる全員が、一斉に音のした方向に視線を向ける。
するとまず、二人の男女が視界に入った。
一人は豪奢な格好に身を包んだ恰幅な男。
姿だけなら貴族のようにも見える。
そしてもう一人。
亜麻色の長髪と優そうな目が特徴的な、可愛さと綺麗さを兼ね備えたかのような少女。
どうやら彼女が、男に腕を掴まれたのを払ったみたいだ。
いや、待て。
そんなことより、まさか彼女は――
「……誰だ?」
――残念ながら、特に知らない人物だった。
う~ん、どこかで見たことある気がしたんだけどね。
不思議なこともあるもんだ。
――――――――――――――――――――
今回から『第二章 王都編』の開幕となります!
王都でもますます加速する、クラウスの勘違いによる名君への道をぜひお楽しみください!
俺たちは無事、ソルスティア王国の王都セレスティアーリにたどり着いた。
王都にふさわしい活気に溢れた町となっており、中小領地のレンフォード領とは比べるべくもない。
しかしここでやることが国王への謁見だと思い出し、少し気分が下がった。
そんなことを考えていると、サーディスとローラが口を開く。
「それでは、私は先に帰還を報告しに王城へ戻ります。レンフォード子爵は予定通り、明日の約束した時間にいらしてください」
「私たちもフレクトの入った棺を届けなくてはならないため、ここで一旦別れさせてもらいます。それでは」
そう言い残し、彼らは王城に向かって去っていく。
残されたのは俺とマリーだけになった。
……さて。
「予定より一日早く着いたのはよかったが、時間を潰す必要ができたな」
「は、はい。そうですね、ご主人様……」
そう答えながらも、マリーはどこか落ち着きなくキョロキョロと周囲を見渡していた。
何か気になるものでもあるのだろうか?
少し気になって彼女の視線の先を見てみると、薬屋や武具店、そして服飾店が道路沿いに並んでいた。
そこで俺は、ようやくマリーの狙いに気付く。
(そうか! 王都では冒険者や迷宮攻略者が多くいる関係上、毒や暗器の取り扱いも最先端をいく。実際に店で見てみたいものの、暗殺対象者である俺に狙いを悟られまいとしているのか)
しかしそういうことなら、助け舟を出してやろう。
俺は胸元からいくらかの金銭を取り出し、マリーに手渡した。
「受け取れ、マリー」
「ご主人様? これはいったい……」
「少し用ができた、ここからは別行動だ。適当にその辺りを回って、欲しいものがあればそれで買え」
「っ! ご主人様……!」
わずかに目を見開いた後、嬉しそうに微笑むマリー。
まさか俺の方から、自分にとって都合のいい提案をしてくれるとは思ってもいなかったのだろう。
まあ、その辺りは何でもいい。
俺は集合時間と場所を伝えた後、マリーに背を向けて歩き出す。
すると、そんな俺の背後では……
「ありがとうございます、ご主人様。周囲の者たちが私の髪を見ているのが気になり、フード付きの服が欲しくなって服飾店を見ていたことを気付いてくださるとは。さらに私が責任を感じないよう、ご自身から別行動の提案をしてくださるそのお優しさ……改めてこのマリー、ご主人様の素晴らしさを知ることができました」
マリーが何かをぶつぶつと呟いていたが、俺の耳には届かないのだった。
◇◇◇
マリーから十分離れた後、俺は改めて王都の街並みを観察する。
先ほどの提案にはもう一つ、俺が一人になりたいという動機も含まれていた。
その理由は当然、
「改めて感動だな。まさかゲーム画面で何度も見た場所を、こうして歩くことができるなんて……!」
そう、『アルテナ・ファンタジア』はここ王都セレスティアーリにある王立学園を舞台としている。
まさに文字通りの【聖地】であると言えるだろう。
「この感動はゲームに登場しなかったレンフォード領じゃ味わえなかったものだからな。この機会にせいぜい堪能してやる!」
さらに喜ばしい点として、ここではレンフォード領とは違い、俺の顔を見ても正体に気付く者はいない。
自分から名前を明かさない限り、クラウスだと気付かれることはないだろう。
それはつまり、どれだけ羽目を外しても問題ないということ!
「今だけは、悪のカリスマについても考えるのを止めよう!」
そう決めた俺は、改めて王都の街並みを堪能した。
ゲームで登場した道具屋や武具店にも行き、テンションが上がった影響で全く意味がないものを買ったりもしてみた。
まるで修学旅行にでも来たみたいだ。
俺は色々と買った荷物を背負いながら、一本の剣を取り出して握りしめた。
見るからに切れ味の悪そうなこの剣は、ゲームにも登場した【錆《さ》びついた剣】。
武具店で実際にこれを見つけた時は、思わず吹き出しそうになった。
「ゲームでは最序盤に購入できる最弱武器として置かれてたから特に違和感なかったけど、現実で売るようなものじゃないからな。本当にこんな剣、買う奴がいるのか?」
まあ、俺は買ったんだけど。
あれだ、修学旅行でつい木刀を買っちゃう的なやつだ。
「後悔はしていない! まあ、ゲームで出てきた店主が不在だったのだけは少しだけ残念だったけどな……おっと、もうこんな時間か」
そんなことを考えていると、マリーに伝えた集合時間が近づいてきている。
そろそろ集合場所に向かおうとした、その時だった。
「離してください!」
甲高い女性の叫び声とともに、パシンッ! と何かを叩くような音が辺り一帯に響いた。
俺を含めたこの場にいる全員が、一斉に音のした方向に視線を向ける。
するとまず、二人の男女が視界に入った。
一人は豪奢な格好に身を包んだ恰幅な男。
姿だけなら貴族のようにも見える。
そしてもう一人。
亜麻色の長髪と優そうな目が特徴的な、可愛さと綺麗さを兼ね備えたかのような少女。
どうやら彼女が、男に腕を掴まれたのを払ったみたいだ。
いや、待て。
そんなことより、まさか彼女は――
「……誰だ?」
――残念ながら、特に知らない人物だった。
う~ん、どこかで見たことある気がしたんだけどね。
不思議なこともあるもんだ。
――――――――――――――――――――
今回から『第二章 王都編』の開幕となります!
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