ゲーム世界のモブ悪役に転生したのでラスボスを目指してみた 〜なぜか歴代最高の名君と崇められているんですが、誰か理由を教えてください!〜

八又ナガト

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第一章 モブ悪役転生編

第16話 つかの間のデート……?

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 ~それは、騎士団に休暇命令を出した一か月間の出来事~


 レンフォード騎士団長のローラに休暇命令を出した数十分後。
 俺は自室にて、今後すべきことについて考えていた。

「騎士団に休むよう命じたのはいいが、その間に魔物が襲撃してきたら全てがおじゃんになるからな。その対策も考えておかなければ」

 パッと思いつくのは警備兵に任せることだが、残念ながら警備兵の実力は騎士団より数段低い。
 強力な魔物が襲撃してきた際には対応できず、必然的に騎士団が出てくることになるだろう。

 こうなってしまったからには仕方ない。

「事前に俺みずから、周辺の魔物を掃討しておくべきか」

 いささか面倒だが、他にも利点がないわけではない。
 以前に幾つかのダンジョンを攻略して以降、なかなかまとめてレベルアップする時間が取れなかった。
 が、今回の機会に強力な魔物を中心に討伐していけば、ある程度はレベルも上がるはずだ。

「よし、そうと決まれば――」

「失礼します」

 立ち上がり館を出ようとする俺だったが、タイミング悪くマリーがやってくる。
 マリーは立った状態の俺を見て小首を傾げた。

「ご主人様? どうなさったのですか?」

「……ふむ」

 さて、どう誤魔化したものか。
 1日や2日なら適当な理由で何とかなるが、今回の計画は一か月にも及ぶ。
 ずっと同じ言い訳で押し通すわけにはいかないだろう。

 ……いや、待てよ。

 俺はある考えが浮かび、マリーに視線をやった。

 俺がマリーを専属メイドに迎え入れた理由は、いずれやってくるであろう暗殺者に備えて対応力を身に着けるため。
 しかし最近は状態異常耐性も熱耐性もカンストした感があったため、特訓にならなかった。
 この状況を改善するにはマリー自体を鍛えるしかない。

 というわけで、俺はマリーに手を差し伸べる。

「よし、マリー。貴様も来い」

「え、ええぇ!?」

 俺は困惑するマリーの手を掴むと窓から飛び出し、風魔術でそのまま近くの森に向かうのだった。


 ◇◇◇


 森についてからもマリーは混乱しているようだった。


「ご、ご主人様、ここはいったい?」

「知らないか? 領都近くの森だ。少しこの辺りにいる魔物を倒そうと思ってな」

「そ、それは分かりましたが、なぜ私まで連れてこられたのでしょうか? ご主人様のそばにいられることは嬉しいですが、私ではとてもその真意を測ることができず……」


 ふむ。
 まあ、疑問に思うのも無理はないか。


「簡単なことだ。魔物は俺だけじゃなく、マリーにも魔術で倒してもらおうと思ってな」

「なるほど、私も……って、ええぇ!? む、無理です! 私はこれまで魔術なんて使ったことはありません!」

「問題ない。マリー、貴様には魔術の才能があるはずだからな」

「……え?」


 そう教えてやると、マリーはきょとんとした表情を浮かべる。
 なぜ俺がそんなことを知っているのか不思議に思っているのだろう。

 しかし、これにはちゃんとした根拠が存在する。
 その根拠とはずばり、マリーの黒髪だ。


 ここで改めて、ソルスティア王国における黒髪の扱いについて振り返ろう。
 黒髪持ちが魔族の血を引いていると言われる理由だが、それには見た目以外にもう一つ大きな理由があった。

 というのも、基本的に人間の髪色は魔力の性質によって決まることが多い。
 そんな中、髪を黒く染める魔力の波長と、魔族の持つ魔力の波長は非常によく似ているのだ。
 そのため黒髪持ちと魔族は同じ系譜けいふを持っていると勘違いされてきた。

 そしてここから重要な点。
 彼らの魔力は通称『黒の魔力』と呼ばれているが、『黒の魔力』の持ち手は固有魔術に目覚めることが多いとされている。
 だからこそ魔族には特殊な力を持っている個体がかなり多いのだが、それはマリーにも同じことが言える。
 しっかりと鍛え上げれば、かなりの実力者になる可能性が高い。


「詳しい説明はまた今度だ。とりあえず、その辺りにいる魔物から倒していくぞ」

「ご主人様の命令ならば従いますが、どのようにすればいいか……」

「問題ない、俺が魔術の使い方をその身に叩きこんでやる」

「そ、それはつまり……手取り足取り教えていただけるということでしょうか?」

「? まあそうだな」

「分かりました! 頑張ってみます!」


 なぜかは分からないが、突然やる気を見せるマリー。
 まあ前向きになってくれるなら俺としても好都合だ。

 それから俺はマリーに魔術の使い方を教え、実際に魔物と戦わせるのだった。


 ◇◇◇


「はあ、はあっ……ファイアボール!」

 しかし数時間後。
 まだ掃討は始まったばかりだというのに、既にマリーは疲れ切っている様子だった。
 とはいえ魔術を覚えた初日とは思えないほど順調に成長しているのは事実。
 マリーに才能があるという俺の予想は正しかったようだ。

 ひとまず休憩を与えてやると、マリーは疲れ切った目をこちらに向けてくる。


「も、申し訳ありません。ご主人様の手で教えていただいているというのに、このような姿をお見せしてしまって」

「気にするな、今のところは順調だ」

「……しかし、なぜここまでして私を鍛えてくださるのでしょう? 力のある部下を求めるなら、既に騎士団の皆様がいらっしゃいます。私が努力したところでお役に立てるとはとても思えないのですが……」


 ふむ。
 どうやらマリーは、俺が彼女を鍛えている理由が分かっていないらしい。
 まあ、魔術を覚えることで暗殺に活かしてほしいと俺が思っているなど、普通は想像もできないか。

 しかし、それで自信をなくしてしまっては困る。
 ラスボスが暗殺でやられてしまうラストシーンなど、興ざめもいいところだからだな。
 そうならずに済むよう、マリーにはしっかりと俺の特訓相手にふさわしい実力を身に着けてもらわなくては。

「何を言っている、マリー」

「え?」

 だからこそ俺は、まっすぐにマリーの目を見つめて告げた。

 
「お前には(俺の暗殺対応力を鍛えるため)これからもずっと俺のそばにいてもらう。そのためには、しっかりと(暗殺)魔術を身に着けてもらわければな」

「ふえっ!? そ、それって……!」


 俺の発言に対し、マリーはなぜか顔を真っ赤にして下を向く。
 いったいどうしたのだろうか?

(いや、待てよ……そういうことか!)

 一瞬だけ疑問に思うも、俺の天才的頭脳はすぐさま正解を導き出す。
 マリーは俺の暗殺を目標にしているというのに、俺は『これからもずっと俺のそばにいてもらう』と告げた。
 これは彼女からしたら『お前ごときの技術では俺を一生殺すことはできない』と言われたのと同意。
 そのため、怒りのあまり顔が熱を持ってしまったのだろう。

 だが、これはこれで悪くない結果だ。
 俺に対する怒りが増せば、それだけ努力にも身が入るはずだからな。

 その証拠に――


「わ、分かりました! ふつつか者ですが……このマリー、全身全霊で努力しご主人様の隣に立つにふさわしい存在となってみせます!」


 ――今の言葉によって、マリーの目にはやる気の炎がみなぎっていた。
 その熱量は俺をも圧倒させるほどだ。
 なんならちょっと怖いまである。

「まあ分かればいい。では、そろそろ休憩を終えて次に行くぞ」
「はい!」

 その後、俺が先行して再び魔物を探し始める。
 なお、そんな俺の背後では……


「ま、まさかご主人様からこれほど熱く求めていただけるとは……いえ、本当は分かっています。私とご主人様は身分も何もかも違います、この想いが成就することはないでしょう。求められたのはきっとメイドとしての役割……だとしても求められた以上、全力で応えて見せましょう。一生ご主人様のそばに仕え、ご主人様をお守りできるように! そしてあわよくば……」


 ……マリーがぶつぶつと何かを呟いているようだったが、小声のため聞き取ることはできなかった。


 何はともあれ、これから一か月間、俺とマリーは様々な場所に出かけて魔物を討伐し続けるのだった。
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