ゲーム世界のモブ悪役に転生したのでラスボスを目指してみた 〜なぜか歴代最高の名君と崇められているんですが、誰か理由を教えてください!〜

八又ナガト

文字の大きさ
上 下
13 / 58
第一章 モブ悪役転生編

第13話 いっそのこと、この手で町を破壊しよう!

しおりを挟む


「だ、誰かー! 助けてくれー! 突然町の中心にSランク魔物イージス・バードが現れた! イージス・バードは特殊な魔力で体が覆われていて通常の攻撃を一切通さない! コイツの魔力を突破できるとしたら、角に特殊な魔力を纏うギガホーン・ボアの覚醒進化個体しかいないが、そんなのが都合よく現れてくれるはずがない! それは分かっているが、とにかく誰か助けてくれー!」


 その叫び声を聞いた瞬間、俺の脳裏に数刻前の光景がよぎった。

 先ほどは聞き流したが、確かレインは捕らえたギガホーン・ボアを見て覚醒進化なんたらと言っていたはず。
 今までの経験上、このままでは流れが悪い。

 俺はその場で反転すると、そのまま町を離れようとする。
 しかしそんな俺を止めようとするように、ギガホーン・ボアを担いだレインが立ちふさがった。


「なるほど! なぜ領主様が自ら討伐に参加されたのか疑問に思っておりましたが、初めから全て読んでいたのですね! ギガホーン・ボアの群れの中に覚醒進化個体がいることから、イージス・バードが町を襲いにくることまで! 全ては領主様の手のひらの上だったということ……このレイン、あまりの衝撃に心から震えております!」


 そう告げながら、レインはギガホーン・ボアの巨体を全力で放り投げた。
 ギガホーン・ボアは城壁を飛び越え、町の中心に落下していく。
 直後、ドカーン! という落下音が町いっぱいに響いた。

 俺は全てを諦め、門の上に移動し町を見下ろす。
 すると町の中心では、ギガホーン・ボアとイージス・バードによる激闘が繰り広げられていた。


「なんだ!? 突然空から何かが降ってきたかと思えば、まさかギガホーン・ボアの覚醒進化個体か!?」

「おい見ろ! 2体の魔物が互角に渡り合っているぞ!」

「いや、もう決着がつく! 相打ち! 相打ちだ!」

「こんな救いがあるだなんて……奇跡としか考えられないわ!」


 相打ちにより2体が同時に崩れ落ちるのを見て、命が救われたことに歓喜する領民たち。
 そんな彼らに水を差す存在がいた。

「否! これは決して奇跡ではありません!」

 レインは何を考えたのか、俺の横に立ち大声でそう叫ぶ。
 コイツ、まさか……!

「そのギガホーン・ボアは、イージス・バードの襲撃を予測し領主様が自ら捕らえここに運んでこられました! 私たちの命が今も健在なのは、全て領主様のおかげなのです!」

 予想通り、レインはとんでもないことを言ってのけた。
 くそっ、こんな展開になるならやっぱり逃げておけばよかった!

 後悔に苛まれる俺に対し、領民の声が次々と届く。


「「「領主様、本当にありがとうございます!」」」


 ……くそっ、またこうなるのか!

 最初こそ運命を呪う俺だったが、彼らの言葉を聞くにつれ、徐々に怒りが沸き上がってきた。

 ――そうだ、俺は最初から選択肢を間違えていた。
 魔物に町を破壊させたうえで、黒幕として現れようという回りくどい手段こそが全ての原因だったのだ。

 こうなった以上、この手で直接町を破壊するしかない!

 そんな決意のもと、俺は右手を高く掲げ魔力を集う。
 それを見て領民たちは、自分たちの感謝の言葉に俺が応えてくれていると勘違いし盛り上がっていた。

 ふふふ、今に見ていろ。
 その歓声を、すぐ阿鼻叫喚に変えて見せようではないか。

 そんな俺の異変に気付いたのは、隣に立つレインだけだった。

「領主様、それだけの魔力を集め、いったい何をなさるおつもりで……」

 俺の手の上に集う禍々しい魔力を見て狼狽えるレインに、俺は微笑みを向ける。

「なに、まだ火葬が済んでいないと思ってな」

「火葬? まさか……!」

 レインはようやく俺の狙いを見抜いたのか、驚愕に目を見開くが、もう遅い。


「【地獄のインフェルノ業火・フレイム】」


 俺は漆黒の炎を、2体の死体が転がる町の中心目掛けて放った。

 が、その直後――

『ピィィィイイイイイ!』

「――は?」

 あろうことか死んでいたはずのイージス・バードが起き上がり、空高く飛翔する。
 刹那、黒炎はイージス・バードに直撃し、その身を燃やし尽くしてしまった。
 空中で接触したことで、残念ながら町には被害が及ばず終わる。

「………………」

 呆然とする俺の横で、レインが沸く。

「やはりそうか! 領主様だけが、まだイージス・バードに息があることを見抜いていたのですね! さらに弱っていたとはいえ、あの魔力の鎧を貫いてしまうとは……先見の明だけでなく、魔術の才まで突出されている!」

 レインの言葉を聞いて何を勘違いしたのか、領民たちの歓声がより一層強くなる。
 そんな喝采ムードの中、俺だけが一人、絶望感のただなかにいた。

 なぜ、なぜ、なぜなんだ!

 ちょっと魔物を町にけしかけて破壊しようとしたり、それが無理なら俺の手で自ら魔術を放とうとしただけなのに!

 何で、こんなに不幸な目に合ってしまうんだ!

 俺は今回の敗北を察し、きびすを返す。
 そしてどうしても我慢できず、いずれ復讐を成し遂げてみせるという強い決意と共にこう叫んだ。

「貴様ら! 今回のことは絶対に覚えておけ! 忘れることは決して許さんぞ!」

 まるで負け犬の遠吠えのようになってしまった俺のセリフに対し――


「「「はい! この御恩、一生忘れません!」」」


 ――領民たちは満面の笑みでそう返してきた。

 俺は領民たちの感謝の言葉を背に、颯爽とその場から去る。

 くそっ、くそっ、くそっ!


「何でこうなったぁぁぁあああ!!!」

しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双

さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。 ある者は聖騎士の剣と盾、 ある者は聖女のローブ、 それぞれのスマホからアイテムが出現する。 そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。 ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか… if分岐の続編として、 「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...