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第一章 モブ悪役転生編
第1話 悪のカリスマになろう!
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恋愛アクションRPG『アルテナ・ファンタジア』。
ソルスティア王国の王立学園を舞台とし、魔王討伐を目指す主人公とヒロインたちを中心に繰り広げられる王道物語である。
練り込まれた世界設定に、魅力的なキャラクターの数々。
さらに恋愛ゲームでありながら徹底的に作りこまれた戦闘システムによって、かなりの評価を得た名作だ。
ただし一つだけ、多くのプレイヤーが不満を抱いた点がある。
それはずばり、ラスボスの魅力が欠けていることである。
かねてからの目標であった魔王を討伐した後、真の黒幕として公爵ルシエル・フォン・セントラルが現れるのだが、これが問題だった。
ルシエルは作中にほとんど姿を現さず、彼がラスボスだという伏線もほとんどない。
プレイヤーにとっては最後に突然現れて一瞬で倒されてしまう、単なるやられ役にしか見えないのだ。
その残念さと言ったら、魔王討伐までの盛り上がりや、各ルートの感動シーンで流した涙が引っこんでしまう者も出てくるほどである。
何でも後々発売された公式ファンブックによると、ルシエル周りの設定はかなり用意していたが、容量の関係上泣く泣く省略したとあったが……
『いや、そこは一番省いちゃダメだろ!』
『というかそうするくらいならいっそのこと、ルシエルの存在自体を排除して魔王をラスボスにした方がよかったのに!』
そんな感想がネット上に溢れかえったくらいだ。
と、ここまで色々と語ってしまったが、そうしたのにはもちろん理由がある。
というのも、なんと俺は『アルテナ・ファンタジア』におけるラスボス、ルシエル・フォン・セントラル――
――の配下であり、エピローグの一文で『ルシエルの配下は全員処刑されました』とだけ説明されるモブ悪役、クラウス・レンフォードに転生してしまったからだ。
……えっ? そこは普通、ルシエルか魔王、もしくは主人公に転生するもんなんじゃないかって?
そんなの俺が一番思ったよ! 実際、ルシエルの名前を聞いてから存在を思い出すまでに数日かかったくらいだし!
とはいえ、今さらどうしようもないことに思考を割いていられるほどの余裕はない。
重要なのは、このままだと俺に待っているのは処刑という末路のみだということ。
さて、ここから俺はどう動いたものか――
◇◆◇
「さて、どうしたものか……」
執務室で俺がそう呟くと、近くに控える執事のオリヴァーが反応する。
「クラウス様、いかがなされましたか?」
「いや、何でもない。少し一人で考えたいから席を外してくれ」
「かしこまりました」
ゲーム世界のモブ悪役に転生してしまったから、これからどう行動しようか悩んでいる。
なんて正直に口に出そうものなら、頭のおかしい奴だと思われるに違いない。
よって俺は執事を追い出した後、一人でうんうんと唸りながら悩んでいた。
こういった場合、多くのWeb小説なんかでは処刑の運命を逃れるために行動するというのがよくある展開だろう。
しかし俺個人としては、この転生は人生終了後に与えられたボーナスステージのように感じており、物語の展開で死を迎えるのならそれはそれで仕方がないという思いの方が強かった。
とはいえ、死に方にはこだわりたいところ。
前世の社畜時代のように、重労働によって過労死するなどといった意味のない死だけは避けたい。
「けど死に方にこだわるって、いったいどうすればいいんだ?」
そこでふと、俺は近くにあった置き鏡に視線をやる。
そこには灰色の髪が特徴的な、整った顔立ちの少年が映っていた。
(これがクラウス・レンフォードか……ゲームに登場していたら絶対に人気が出てたであろう美形なのに、勿体ないなあ)
思わずそんな感想を抱いてしまう。
(しかもどこか影のある雰囲気といい、これならルシエル以上にラスボスとして相応しい見た目な気が――ッ!)
「そうだ! その手があったぞ!」
そこで俺は天才的な発想にたどり着き、咄嗟に立ち上がる。
「ラスボスの魅力不足こそ『アルテナ・ファンタジア』唯一の不満点だが――俺がラスボスの座をルシエルから奪えば、その問題を解決できるかもしれない!」
もしこの野望が現実になれば、俺が心から見たかった最高のクライマックスを迎えられるはずだ!
「よし、そうと決まればさっそく、ラスボスにふさわしい存在――そう、悪のカリスマを目指さなければ!」
ありがたいことに、今の俺は貴族であり権力を行使する側。
悪行を為すための条件もバッチリ揃っている! 最高の状況だ!
俺は拳を天井に突き上げ、力強く叫ぶ。
「ラスボスへの道もまず一歩から! 悪行を積み重ね、俺は悪のカリスマになってみせる!」
ソルスティア王国の王立学園を舞台とし、魔王討伐を目指す主人公とヒロインたちを中心に繰り広げられる王道物語である。
練り込まれた世界設定に、魅力的なキャラクターの数々。
さらに恋愛ゲームでありながら徹底的に作りこまれた戦闘システムによって、かなりの評価を得た名作だ。
ただし一つだけ、多くのプレイヤーが不満を抱いた点がある。
それはずばり、ラスボスの魅力が欠けていることである。
かねてからの目標であった魔王を討伐した後、真の黒幕として公爵ルシエル・フォン・セントラルが現れるのだが、これが問題だった。
ルシエルは作中にほとんど姿を現さず、彼がラスボスだという伏線もほとんどない。
プレイヤーにとっては最後に突然現れて一瞬で倒されてしまう、単なるやられ役にしか見えないのだ。
その残念さと言ったら、魔王討伐までの盛り上がりや、各ルートの感動シーンで流した涙が引っこんでしまう者も出てくるほどである。
何でも後々発売された公式ファンブックによると、ルシエル周りの設定はかなり用意していたが、容量の関係上泣く泣く省略したとあったが……
『いや、そこは一番省いちゃダメだろ!』
『というかそうするくらいならいっそのこと、ルシエルの存在自体を排除して魔王をラスボスにした方がよかったのに!』
そんな感想がネット上に溢れかえったくらいだ。
と、ここまで色々と語ってしまったが、そうしたのにはもちろん理由がある。
というのも、なんと俺は『アルテナ・ファンタジア』におけるラスボス、ルシエル・フォン・セントラル――
――の配下であり、エピローグの一文で『ルシエルの配下は全員処刑されました』とだけ説明されるモブ悪役、クラウス・レンフォードに転生してしまったからだ。
……えっ? そこは普通、ルシエルか魔王、もしくは主人公に転生するもんなんじゃないかって?
そんなの俺が一番思ったよ! 実際、ルシエルの名前を聞いてから存在を思い出すまでに数日かかったくらいだし!
とはいえ、今さらどうしようもないことに思考を割いていられるほどの余裕はない。
重要なのは、このままだと俺に待っているのは処刑という末路のみだということ。
さて、ここから俺はどう動いたものか――
◇◆◇
「さて、どうしたものか……」
執務室で俺がそう呟くと、近くに控える執事のオリヴァーが反応する。
「クラウス様、いかがなされましたか?」
「いや、何でもない。少し一人で考えたいから席を外してくれ」
「かしこまりました」
ゲーム世界のモブ悪役に転生してしまったから、これからどう行動しようか悩んでいる。
なんて正直に口に出そうものなら、頭のおかしい奴だと思われるに違いない。
よって俺は執事を追い出した後、一人でうんうんと唸りながら悩んでいた。
こういった場合、多くのWeb小説なんかでは処刑の運命を逃れるために行動するというのがよくある展開だろう。
しかし俺個人としては、この転生は人生終了後に与えられたボーナスステージのように感じており、物語の展開で死を迎えるのならそれはそれで仕方がないという思いの方が強かった。
とはいえ、死に方にはこだわりたいところ。
前世の社畜時代のように、重労働によって過労死するなどといった意味のない死だけは避けたい。
「けど死に方にこだわるって、いったいどうすればいいんだ?」
そこでふと、俺は近くにあった置き鏡に視線をやる。
そこには灰色の髪が特徴的な、整った顔立ちの少年が映っていた。
(これがクラウス・レンフォードか……ゲームに登場していたら絶対に人気が出てたであろう美形なのに、勿体ないなあ)
思わずそんな感想を抱いてしまう。
(しかもどこか影のある雰囲気といい、これならルシエル以上にラスボスとして相応しい見た目な気が――ッ!)
「そうだ! その手があったぞ!」
そこで俺は天才的な発想にたどり着き、咄嗟に立ち上がる。
「ラスボスの魅力不足こそ『アルテナ・ファンタジア』唯一の不満点だが――俺がラスボスの座をルシエルから奪えば、その問題を解決できるかもしれない!」
もしこの野望が現実になれば、俺が心から見たかった最高のクライマックスを迎えられるはずだ!
「よし、そうと決まればさっそく、ラスボスにふさわしい存在――そう、悪のカリスマを目指さなければ!」
ありがたいことに、今の俺は貴族であり権力を行使する側。
悪行を為すための条件もバッチリ揃っている! 最高の状況だ!
俺は拳を天井に突き上げ、力強く叫ぶ。
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