上 下
51 / 57

051 攻略報告と一つの噂

しおりを挟む
「あれ、ここは……?」

 ダンジョンの外に出たタイミングで、ゴルドが意識を取り戻す。
 彼は状況がまだ把握しきれていないのか、周囲をきょろきょろと見渡していた。
 その途中、俺に視線が向いたタイミングでピタリと止まる。

「アレス? 何でお前がここに……というか、俺たちはさっきまで怪物と戦ってたはずじゃ……っ!」

 痛そうに頭を抑えるゴルド。
 何はともあれ、リーベの洗脳は無事に成功しているようだ。
 俺は「こほん」と一つ咳払いした後、用意していた答えを返す。

「実はたまたま、モンスターと戦闘中に気絶しているゴルドたちを見つけたんだ。勝つのは難しそうだったから、何とか四人を抱えて逃げてきたんだよ」

「っ、そうだったのか……助かった。何とお礼を言えばいいものか……」

「いや、気にしないでくれ」

 もう既に、さっき感謝はされたし――という言葉は寸でのところで止める。
 とにかく、無事に生還できたことだけが伝わればいいだろう。

「ん、なんだ?」

「ここはいったい……」

「いたた……」

 するとゴルドに遅れて、残る三人も意識を取り戻した。
 彼らは俺が助けに来たタイミングで既に気絶していたし、特に記憶を操る必要はいらないだろう。

「……とりあえず、何とかなりそうだな」

「そうね」

 俺とリーベは一息つく。
 その後、ゴルドから説明を受けた三人は改めて俺に感謝を告げ、そのまま領都に帰還するのだった。



 ――――だが、俺たちにとって真の問題はその後に待ち構えていた。



 それは俺たちがギルドに帰還した直後のこと。

「違う……そうじゃない!」

 突如として、ゴルドが大声を上げたのだ。

 その声があまりにも大きく、ギルド中の注目がこちらに集まる。
 パーティーメンバーのうちの一人が、戸惑った様子でゴルドの肩に手を置いた。

「ど、どうしたんだ? 急に大声を上げて……」

「全部思い出したんだ! アレスは俺たちを連れてあの怪物から逃げたって言ってたが、違う! 本当はブッ倒したんだ!」

「「――――――ッ」」

 瞬間、俺とリーベの間に緊張が走る。
 まさかこのタイミングで記憶を取り戻すとは。
 だけど、まずい。この人数の前でテイムのことをバラされたら、リーベの遷移魔力であっても誤魔化し切れるか分からない。

「ゴルド、お前本気か? 俺たちがボロボロにやられたモンスター相手を、新人が倒しただって?」

「ああ、間違いない」

 仲間の問いに、力強く頷くゴルド。
 その瞳は確信の色に染まっていた。

(くそっ、何とかして発言を止めなければ! だが、こんな人前で暴力を振るう訳にもいかないし――)

 俺の焦燥感がマックスに達しようとした、次の瞬間。
 ゴルドはとうとう、を叫んだ。


「俺ははっきりと覚えている! アレスは素手であの怪物をぶっ飛ばしたかと思ったら、続けて大量の剣で切り刻んだんだ! まったく、いま思い出してもとんでもない光景だったぜ……!」

「…………え?」


 ゴルドの口から告げられたのは、まさかの内容だった。
 なぜか俺が素手でデストラクション・ゴーレムと渡り合ったことになっている。

(いや、待てよ……)

 リーベは言っていた。
 記憶を消せるのは、本人にとって重要ではないことだけだと。

 その点、恐らくゴルドにとっては、


 『俺がデストラクション・ゴーレムを倒した』>『俺が魔物ガレルを使役していた』


 という順番で衝撃的だったのだろう。
 その結果ガレルが存在したという記憶のみが消え、空白部分を補完するように俺がガレルの役割も果たしていたこととなった。
 こう考えると全ての辻褄がつく。

 ゴルドの説明を聞いた周囲は、一気にざわめき始める。

「おい、マジか? あの二人がBランク以上の力を持ってることになるぞ」

「ゴルドをよく見てみろ、アレが嘘をついている目に見えるか?」

「いや、見えないな。ということは本当に……」

 注目が俺とリーベに集まる。
 テイムがバレなかったのは不幸中の幸いだが、これはこれで面倒なことになる気配がビンビンする。

「え、えーっと、それじゃ俺たちはこの辺で」

 修羅場から逃げるように、俺とリーベはそそくさとギルドを後にする。
 その後しばらく、素手ステゴロでAランクモンスターを圧倒した新人冒険者がいるという噂が流れたのだが、それはまた別の話。


(身分証明書自体は手に入れられたわけだし、しばらくギルドに近寄るのは止めておこうっと……)


 いずれにせよこんな風にして、俺にとって初めてのダンジョン攻略が慌ただしく幕を閉じるのだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。-俺は何度でも救うとそう決めた-

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
 【HOTランキング第1位獲得作品】 ---    『才能』が無ければ魔法が使えない世界で類まれなる回復魔法の『才能』を持って生まれた少年アスフィ。 喜んだのも束の間、彼は″回復魔法以外が全く使えない″。 冒険者を目指し、両親からも応援されていたアスフィ。 何事も無く平和な日々が続くかと思われていたが事態は一変する。母親であるアリアが生涯眠り続けるという『呪い』にかかってしまう。アスフィは『呪い』を解呪する為、剣術に自信のある幼馴染みの少女レイラと共に旅に出る。 そして、彼は世界の真実を知る――  --------- 最後まで読んで頂けたら嬉しいです。   ♥や感想、応援頂けると大変励みになります。 完結しておりますが、続編の声があれば執筆するかもしれません……。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

闇属性は変態だった?〜転移した世界でのほほんと生きたい〜

伊藤ほほほ
ファンタジー
女神によって異世界へと送られた主人公は、世界を統一するという不可能に近い願いを押し付けられる。 分からないことばかりの新世界で、人々の温かさに触れながら、ゆっくりと成長していく。

外れスキル「ハキ」が覚醒したら世界最強になった件 ~パーティを追放されたけど今は楽しくやってます~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
「カイル、無能のお前を追放する!」 「なっ! ギゼル、考え直してくれ! リリサからも何か言ってくれ! 俺とお前は、同じ村で生まれ育って……。5歳の頃には結婚の約束だって……」 「……気持ち悪い男ね。いつまで昔のことを引きずっているつもりかしら? 『ハキ』スキルなんて、訳の分からない外れスキルを貰ってしまったあなたが悪いんじゃない」  カイルのスキルが覚醒するのは、これから少し後のことである。

処理中です...