上 下
50 / 57

050 破壊者の腕輪

しおりを挟む
「た、倒せたのか? 本当に……?」

 討伐後、ゴルドが重たい体を持ち上げ、こちらにゆっくりと歩いてくる。
 その顔にはまだ、驚愕の色が浮かんでいた。
 俺はそんな彼に、手に持つ大剣を渡す。

「助かったよ、ゴルド。この大剣のおかげで無事にトドメを刺せた」

「感謝してるのはこっちの方だ! ありがとう、アレス! お前のおかげで、仲間たちが助かった……!」

 ゴルドが深々と頭を下げる。
 その姿からは、彼の直情的な在り方を感じ取ることができた。

 数秒後、ゴルドは頭を上げると、やれやれと言った様子で自分の後頭部をかく。

「それにしても散々な目に遭ったぜ。まさか最深部までたどり着く前に、こんな化物とエンカウントするとはな」

 その発言を聞き、俺はかねてより気になっていた疑問を尋ねることにした。

「そうだ、ゴルド。そもそもお前たちはどうやってここまでやってきたんだ? ギルドで事前に調べた内容では、途中までの攻略記録しかなかったはずだが……」

「ん? それがな、何とそれ以降のトラップがことごとく解除されてたんだよ! 先に入った誰かが引っかかったんだろうな。いやー、にしてもあれだけ全部引っかかるなんて、間抜けな奴もいたもんだ」

「………………」

 それを聞き無言になる俺。
 少し離れたところでは、リーベが鬼の形相で耳をピクリとしていた。

「まっ、それを言うなら間抜けなのは俺たちもだけどな。いくらトラップが発動済みだからって、自分たちの実力以上の成果は望むもんじゃない。今回の一件でそれが身に染みたぜ」

 ……まあ、あれだ、うん。
 結果的に誰も犠牲者は出ていないし、本人たちの警戒心を上げることに繋がったのならいいだろう。
 冒険者として生きていく以上、一番大切なのは引き際の判断だからな。

「……ん?」

 そう自分で自分を納得させている直後だった。
 他のダンジョン産モンスターと同じく、デストラクション・ゴーレムの死体がスーッと消滅する。

 残されたその場所には、一組の腕輪が落ちていた。

「これは……!」

 俺はその腕輪を拾い上げ、歓喜の声を零した。

 これはデストラクション・ゴーレムから中確率で入手できるドロップ・アイテム【破壊者はかいしゃ腕輪うでわ】。
 武器の装備時、威力が30%上昇するという優秀なアクセサリーだ。
 【三叉槍の首飾り】が20%×3パラメータも上昇するのに、こっちは30%だけなのか? と思う者もいるだろうが、これがまた規格外の効果だったりする。

 このアクセサリーのとんでもない部分は、本人のステータスだけでなく、武器の性能まで30%追加されるという点。
 今後、強力な武器を入手すれば、それがそのまま俺自身の強化にも繋がるわけだ。
 まさに怪物的な性能。このダンジョンがゴミギミックでありながら、プレイヤー全員が攻略を余儀なくされた所以だ。

(このアクセサリーは、ゲームでも最後まで使用していたくらいに優秀な報酬! これをこのタイミングで入手できたのは運がよかった……あっ)

 ここでふと、俺は大切なことに気付く。
 結果的には俺たちが討伐した形とはいえ、元々デストラクション・ゴーレムと戦っていたのはゴルドたち。
 攻略報酬は、先行組に優先権があるというのが一般的だ。

「な、なあゴルド、このドロップアイテムについてなんだが……」

 なんとか譲ってもらえないか恐る恐る切り出そうとすると、ゴルドは「ハッ!」と活気のある笑い声を上げた。

「なに遠慮してやがる! それは当然お前のもんだ! 俺にとっちゃ仲間を救ってくれたことと、皆で頑張って獲得したこの武器が無事なだけでお釣りが来るくらいなんだからな」

「……そうか。それじゃ、遠慮なく貰っていくぞ」

「おう!」

 俺は腕輪を両腕に装着する。
 抜群な装着感。ガレルが首飾りを付けた時もそうだが、この世界のアクセサリーは装着者に合わせてサイズが縮小する。
 そのため、誰が付けてもピッタリな着け心地となるわけだ。

「うん、これなら違和感なく、これまで通り剣を振れそうだな」

 満足感とともにそう呟く。
 するとそのタイミングで、ゴルドがどこか遠慮がちに口を開いた。

「そ、それでなんだが……これも聞いていいか? そこにいる魔物は一体何なんだ? さっきの戦いを見ていた限り、お前さんの仲間みたいだが……」

「………………」

 やはりそこを突っ込まれるか。
 覚悟した上でガレルを呼び出したとはいえ、これは少々面倒なことになった。

 正直に全てを話す? ここまでのやり取りで分かった性格的に、ゴルドなら理解してくれる可能性はある。
 だが、それを隠し通せるかは話が別。
 ……少々抜けている性格みたいだし、どこかでボロの出る可能性は高いだろう。

(……仕方ないか)

 色々と考えた末、俺はリーベに軽く目配せする。
 彼女はコクリと頷いた後、ゴルドのもとに近づいた。

「ちょっと失礼するわね」

「ん? どうした……っ」

 リーベの遷移魔力によって、ゴルドの記憶を書き換える。
 それなりに衝撃があったのか、ゴルドはそのまま意識を失った。

 リーベはちらりとこちらに視線を向ける。

「これでよかったのよね?」

「ああ。俺のテイムを周囲にバラしたくないのはもちろんだが、その情報を持っている奴がいると魔族が知った場合、ゴルドの身にも危険が迫る可能性がある。正直、あまり進んでやりたくはなかったんだが……これが最善のはずだ」

「そうね。私なら絶対に周囲から情報を抜き取るもの」

「………………」

 確かにコイツは領都に魔物を放ったり、わざわざガドを洗脳してまで、俺に近づき秘密を探ろうとしてきた。
 ここまで徹底的に回りくどい手段を取る魔族は少ないかもしれないが、用心するに越したことはないだろう。

 そんなことを考えていると、リーベが「ただ、一つだけ」と付け足す。

「前にも少し説明したけれど、私が記憶を操れるのは直近で起きた事象と、本人にとって重要ではないことだけ。感覚的には成功したと思うけれど……万が一のことは想定しておいた方がいいわ」

「……そうだな」

 ゴルドからガレルの情報が消えない可能性も残されている。
 リーベはそう言っているのだろう。

 俺は「ふぅ」と息を吐いたのち、そばにいるガレルの頭を優しく撫でる。

「まあ、その時はその時だ。なあ、ガレル?」

「バウッ!」

 力強く答えてくれるガレル。
 その後、いつまでもこの場に留まるわけにはいかないということで、俺たちは気絶したゴルドたちを(リーベの鎖で)連れて【欺瞞の神殿】を後にするのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゲーム世界の1000年後に転生した俺は、最強ギフト【無の紋章】と原作知識で無双する

八又ナガト
ファンタジー
大人気VRMMORPG『クレスト・オンライン』。 通称『クレオン』は、キャラクリエイト時に選択した紋章を武器とし、様々な強敵と戦っていくアクションゲームだ。 そんなクレオンで世界ランク1位だった俺は、ある日突然、ゲーム世界の1000年後に転生してしまう。 シルフィード侯爵家の次男ゼロスとして生まれ変わった俺に与えられたのは、誰もが「無能」と蔑む外れギフト【無の紋章】だった。 家族からの失望、兄からの嘲笑。 そんな中、前世の記憶と知識を持つ俺だけが知っていた。 この【無の紋章】こそ、全てのスキルを習得できる“最強の才能”だということを。 「決まりだな。俺はこの世界でもう一度、世界最強を目指す!」 ゲーム知識と【無の紋章】を駆使し、俺は驚く程の速度で力を身に着けていく。 やがて前世の自分すら超える最強の力を手にした俺は、この世界でひたすらに無双するのだった――

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ゲーム世界のモブ悪役に転生したのでラスボスを目指してみた 〜なぜか歴代最高の名君と崇められているんですが、誰か理由を教えてください!〜

八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『アルテナ・ファンタジア』 俺はそのラスボスであるルシエル公爵――の配下であり、エピローグの一文で『ルシエルの配下は全員処刑されました』とだけ説明されるモブ悪役貴族、クラウス・レンフォードに転生してしまった。 「この際だ。モブキャラに転生したのも、最後に殺されてしまうのも構わない……ただ、原作のようなつまらない最期を迎えるのだけは勘弁だ!」 そこで俺は、ラスボスとして主人公やヒロインたちに倒される最期なら、満足いく大往生を迎えられるのではないかと考えた。 そうと決まれば、やることは一つしかない! 「ルシエル以上のラスボスになるため、悪行を積み重ねて悪のカリスマになってみせる!」 それから俺は貴族という立場を利用し、様々な悪事を行っていくことになる。 しかし、この時の俺は知る由もなかった。 悪行の全てが裏目に出て人々から勘違いされた結果、俺が歴代最高の名君だと崇められるようになってしまうということを――

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勇者に大切な人達を寝取られた結果、邪神が目覚めて人類が滅亡しました。

レオナール D
ファンタジー
大切な姉と妹、幼なじみが勇者の従者に選ばれた。その時から悪い予感はしていたのだ。 田舎の村に生まれ育った主人公には大切な女性達がいた。いつまでも一緒に暮らしていくのだと思っていた彼女らは、神託によって勇者の従者に選ばれて魔王討伐のために旅立っていった。 旅立っていった彼女達の無事を祈り続ける主人公だったが……魔王を倒して帰ってきた彼女達はすっかり変わっており、勇者に抱きついて媚びた笑みを浮かべていた。 青年が大切な人を勇者に奪われたとき、世界の破滅が幕を開く。 恐怖と狂気の怪物は絶望の底から生まれ落ちたのだった……!? ※カクヨムにも投稿しています。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー?~

Red
ファンタジー
綿貫真司、16歳。養護施設出身という事を覗けば、何処にでもいるごく普通の高校生だ。 ある日、いつもと変わらない日常を送っていたはずの真司だが、目覚めたら異世界にいた。 一般的な高校生の真司としては、ラノベなどで良くある、異世界に転移されたという事を理解するが、異世界転移ものにありがちな「チートスキル」らしきものがない事に項垂れる。  しかし、ない物ねだりをしても仕方がないという事で、前向きに生きていこうと思った矢先、|金銀虹彩《ヘテロクロミア》を持つ少女、エルに出会い、望んでもいないのにトラブルに巻き込まれていく。 その後、自分が1000万人に1人いるかいないか、といわれる全属性持ちだという事を知るが、この世界では、属性が多ければ良いという事ではないらしいと告げられる。 その言葉を裏付けるかのように、実際に真司が使えたのは各種初級魔法程度だった。 折角チートっぽい能力が……と項垂れる真司に追い打ちをかけるかの様に、目覚めたチート能力が空間魔法。 人族で使えたのは伝説の大魔導師のみと言うこの魔法。 期待に胸を躍らせる真司だが、魔力消費量が半端ないくせに、転移は1M程度、斬り裂く力は10㎝程度の傷をつけるだけ……何とか実用に耐えそうなのは収納のみと言うショボさ。 平和ボケした日本で育った一介の高校生が国家規模の陰謀に巻き込まれる。  このしょぼい空間魔法で乗り越えることが出来るのか?

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

処理中です...