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049 VSデストラクション・ゴーレム 後

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 リーベから剣の供給を受ける俺と、ガレルによる猛攻がデストラクション・ゴーレムを呑み込んでいく。
 戦闘開始から約5分が経過し、敵のHPもあと僅かかと思われた次の瞬間、は起こった

『ゴォォォオオオオオ!!!』

「――――ッ」

 咆哮と同時に、揺れ動く迷宮内。
 その声に呼応するように、デストラクション・ゴーレムの全身に刻まれた赤い紋様が拡大し始める。

「これは――」

 デストラクション・ゴーレムが持つ、もう一つの能力。
 HPが残り10%を切った時に発動する耐性の上昇。武器や魔法にかかわらず、全てのダメージを90%減少させる防御形態だ。
 この状態のコイツには俺の剣はもちろん、ガレルの攻撃すらまともには通じない。

 さらに――

「チッ、やっぱりそれも再現されてるのか……」

 ここまで与えてきた傷が再生していくのを見て、俺は小さく舌打ちする。

 『剣と魔法のシンフォニア』において、ランクの高い魔物の多くが自動再生の能力を有していた。
 デストラクション・ゴーレムの場合、残存HPが10%を切った時に自動再生が発動し、10分ほどかけて50%になるまで継続する。

 ここから倒し切るための有効策は二つある。
 だが、今の俺たちにはそのどちらも――

『ヴゥォォォオオオオオ!!!』

「ッ!?」

 こちらの思考を遮るように、デストラクション・ゴーレムが石柱のような両腕を、それぞれ俺とガレルに向かって振り下ろした。
 俺は横に跳び、紙一重のタイミングで回避に成功する。

 しかし、問題はその後。
 デストラクション・ゴーレムの剛腕によって床が勢いよく破壊された結果、巨大な岩塊が運悪く、猛烈な勢いでこちらに吹き飛んできた。

「くっ――がはっ!」

 咄嗟に二本の剣を間に翳すも、パリンッと音を立てて刃がはじけ飛ぶ。
 多少の勢いこそ殺せたものの、岩塊はそのまま俺の全身に叩きつけられた。

「――――ッ!」

 俺は全身に走る痛みに耐えながら、何とか空中で態勢を整え、片膝をつく形で着地する。
 岩塊の鋭い部分がこすれたのだろう、額から赤い血がダラダラと流れていた。

「ちょっと、大丈夫なの!?」

 するとリーベが、慌てた様子でこちらに駆け寄ってくる。
 俺は片手で彼女を制止しながら、ゆっくりと立ち上がった。

「平気だ、見た目ほど重いダメージじゃない」

 これは嘘ではない。
 回避が間に合わないと判断した俺は、咄嗟に浮遊を発動し後方に跳んだのだ。
 その結果、衝突時の力をかなり弱めることができた。

 そんなことよりも、問題は……

「あの怪物に、どうやってトドメを刺すかだな」

「そんなの、今までみたいに攻撃すれば……」

「いや、それじゃダメなんだ。今のアイツには、どんな攻撃でも本来の10%程度しかダメージを与えられない。再生が進む前に、大火力の一撃を叩きこむ必要があるんだが……」

 ここで俺は、思わずギリッと歯を噛み締めた。

(今の俺たちに、それだけの大ダメージを与える手段はない)

 ここまでは手数でカバーしていたが、この最終局面に限って必要なのは一発の最大火力。
 ゲームでも、手持ちの武器の中で最も攻撃力の高い物を最後まで残し、トドメに使用するというのが定番だった。

 それが難しい以上、次善策としては強引に持久戦へ持ち込むこと。
 防御形態と自動再生には、それぞれ大量のMPを消費する。
 そのためMPが尽きるまで戦闘を続けてやれば、勝利も掴めるだろうが――

 俺はリーベに視線を送る。

 ここまでこちらが優勢に戦えているのは、リーベが遷移魔力で大量の剣を用意してくれているから。
 だが、彼女の魔力も決して無限ではない。
 ここまで俺たちはダンジョンの攻略、トライデントテイル戦、そしてデストラクション・ゴーレム戦と立て続けに魔力を消費してきた。
 敵のMPよりも先に、こちらが魔力切れになる可能性が高いのだ。

(100本でも1000本でも付き合ってやるつもりはあるが、現実的に魔力が持つかどうかは分からない)

 もし魔力が切れれば攻め手が減り、やがて向こうに押し切られるだろう。
 となると、やはり最大火力の一撃で倒し切るのが最善策。
 だが――

(遷移魔力で生み出した剣の性能はたかが知れている。最終局面だ、ここは木剣を使うか? 限界まで魔力を注いだ魔填《マフィル》なら通用するかもしれないが……それでも確実とは言えない。何か、他に手は――)

 高速で思考を回転させ、挽回策を探っていく。
 時間がない。早く対応を決めなければ。

 そう考える俺の元に、解決策は意外な方向から飛び込んできた。

「アレス、これを使ってくれ」

「――――ッ!」

 飛んできた大剣を、バシッと右手で掴み取る。
 見るとそこには、傷だらけの体を起こして右腕を振り切ったゴルドの姿があった。

 彼は息を切らしながら、全力で大声を上げる。

「話は聞こえていた! その大剣なら、あのデカブツにもダメージが通るはずだ!」

 ゴルドの言葉を聞き、俺は改めて大剣の見た目と形を確かめる。
 そこでふと、これに見覚えがあることに気付いた。

(これはまさか……【破砕はさい大剣たいけん】か?)

 【破砕の大剣】
 それは『剣と魔法のシンフォニア』にて、とあるBランクダンジョンの攻略報酬として入手できる大剣。
 攻撃力が高いのはもちろん、付属効果として『クリティカル発生時、防御力強化分を完全無視して敵にダメージを与える』という能力を有していた。

 元々の防御力分は無視できないのと、基本スペックがそこまで高くないためゲームではあまり使用されていなかった武器。
 だが、特定の相手――それこそデストラクション・ゴーレムを含めた数体に対しては、絶大な効果を発揮するロマン武器だった。

 するとそこで、さらにゴルドの叫びが届く。

「その大剣はぶっ壊してくれていい! 頼む、仲間の分をやりかえしてくれ!」

「――ああ、任せろ」

 にっと笑みを浮かべ、俺は小さく頷いて返した。

 この大剣なら、確かに大ダメージを与えられる。
 そしてこの数瞬の間に、俺は決着への道筋を描き終えていた。

「ラブ、もう剣は作らなくていい! ガレルと協力して敵の隙を作ってくれ!」

「はあ、魔ぞ――人使いが荒いわね。ええ、分かったわ!」

 リーベは数十の鎖を生み出すと、それをデストラクション・ゴーレム目掛けて解き放つ。
 【武器破壊ウェポン・デストラクション】によって、そのほとんどが粉々に砕かれていくが――

「要するに、数さえあればいいんでしょう!?」

 ――破壊される以上の速度で鎖を生み出し続け、強引に作戦を成立させる。
 やがて数十にも及ぶ鎖が、デストラクション・ゴーレムを見事に拘束してみせた。

『ガァァァアアアアア!!!』

 とはいえ、さすがは破壊の化身。
 技能《アーツ》だけでなく本体のパワーも駆使し、その拘束から逃れようとする。

 するとそこに、畳み掛けるように動いたのはガレルだった。

「バウッ!」

 ガレルは風魔法をデストラクション・ゴーレムの顔面に目がけて発動する。
 ダメージが通らないのは百も承知。
 敵の意識を割くための妨害だ。

 そして最後に俺はというと、二人が必死に作ってくれた時間を使い、浮遊を活用することで

(これが、最初で最後のチャンスだ)

 降って湧いた好機。これを逃すわけにはいかない。
 一振りで武器が壊れる可能性がある以上、チャンスはたった一度しかないと考えた方がいいだろう。
 この一振りで全ての決着をつける。

 発動する技能《アーツ》は既に決めていた。
 その技能の発動条件は、両手で握った大剣を正しいフォームで上段から振り下ろすことと、地面を力強く踏み込むこと。
 その二つさえ守れるのであれば、

「――いくぞ」

 俺は天地が反転した視界のまま、大剣を高く構え、力強く地面を蹴り出した。
 その刹那、大剣が眩い光を放つ。

『グゥゥゥ!?』

 デストラクション・ゴーレムがようやく俺の存在に気付くも、もう遅い。

 これは破壊力だけに特化した、大剣用技能アーツ
 その名も――


「――――【岩山崩がんざんくずし】!」


 ――落下による重力加速をも利用した渾身の一撃が、デストラクション・ゴーレムの頭部に叩きこまれた。

 わずかに均衡したかと思われた次の瞬間、頭部にピシリとヒビが入る。
 あとはただ、全ての力を尽くしてこの剣を振り下ろすだけだった。

「これで、終わりだぁぁぁあああああ!」

 耳を劈《つんざく》くような炸裂音が、辺り一帯に木霊する。
 爆散する岩石の巨人、吹き荒れる旋風。
 そのまま地面に着地した俺の周囲には、先ほどまでモンスターだった岩の破片が次々と降ってきた。

『ァ、ァァァァァァァァァア』

 デストラクション・ゴーレムの断末魔の声が周囲に響き渡り、最後に残っていた胴体が地面に倒れ伏す。
 同時に、全身を包み込む不思議な感覚。
 レベルアップだ。そしてそれこそが、俺がデストラクション・ゴーレムを討伐した証明でもあった。

 広間中に舞う砂塵の中、俺は大剣を自分の目の前に掲げる。
 巨大な銀色の刃には、小さな欠けすら存在しない。

「武器破壊は発動しなかったみたいだな」

 そう呟いた俺は、今回の尽力者であるガレルとリーベ、そして呆然とした表情を浮かべるゴルドに視線を向ける。
 そして、笑みを浮かべて告げた。


「討伐完了だ」


 かくして俺たちは、デストラクション・ゴーレムとの死闘に勝利するのだった。
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