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035 新しい力
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「…………は?」
目の前に突如として現れたメッセージウィンドウを見て、俺は思わず間の抜けた声を上げていた。
あれだけかっこよく宣言しておきながら、実はリーベが内心で必死に命乞いをしていた――などというのはどうでもよくて。
問題は、その後に続く『リーベが使役可能になりました』という一文だ。
ゲームにおいて、レストがテイムしていたのは魔物だけ(裏技を使った例外的存在もいたが、少なくとも魔族ではなかった)。
だからこそ俺は、魔族のリーベはテイムの対象外だと思い込んでいたのだが……どうやら現実は違ったらしい。
確かに【魔王の魂片】の影響でスキルが変質したという経緯を考えれば、魔物だけじゃなく魔族を使役できることも、そこまでおかしくはないように思う。
ただ……
(少し気になるのは、レストに魔族をテイムできる力があるなんて話は、ゲーム中にも一切出てこなかったこと……いや、待てよ)
ここでふと、俺は根本的な事実を思い出す。
そもそもテイムを成立させるには、その対象と戦って勝利することが大前提だ。
だが周知の通り、魔族というのは非常に強力な存在。原作のレストの実力では、そもそも倒すこと自体が難しかったのかもしれない。
仮に打ち負かせたとしても、その後相手が自分に仕える意思を見せることがもう一つの条件となる。
その点を考えれば……
「な、何よ、急にアタシの顔をジロジロと見だして。や、やるならさっさと一思いにしてくれないかしら!?」
プライドの高い魔族の中で、リーベのように何が何でも生き残ろうとするタイプは稀だ。
原作でレストが魔族をテイムできなかったのは、その辺りが理由だったのかもしれない。
「これはちょっとした盲点だったな……」
ゲーム内で語られている情報だけが、この世界の全てではない。
つまるところ、そういうことだろう。
いずれにせよ、状況はおおよそ理解できた。
となると残された問題は、リーベをテイムするかどうかだ。
リーベの力が自分のものになる。その観点だけで考えた場合……
(案外、悪くない話なんだよな)
リーベの持つ【遷移魔力】の潜在能力は実に強力。
格上相手には還元の力が通じにくいなどの欠点もあるが、その応用力の高さには目を見張るものがある。
ガレル、ノワールときて今度はリーベと、魔力関連の能力を持つ対象が続くのは少し偏りすぎかなとも思うが……今後テイムしようと思っている魔物の特性を加味すれば、むしろバランスがいいかもしれない。
となると、あとは本人の意思だけが問題だ。
裏切る可能性が少しでもある存在を、俺は身近に置くつもりはない。
そう考えながら、俺は鋭い視線をリーベに向けた。
「リーベ、お前に一つ提案がある」
「て、提案……?」
「ああ。その返答次第では、お前の命を助けてやってもいい」
「っっっ!」
パァァっと、リーベの瞳に光が宿る。
まさに千載一遇のチャンスを逃すまいという、強い意志が感じられた。
そんな自分の反応に彼女自身も気付いたのか、リーベは慌てて冷静を装おうと表情を作り変える。
「と、突然何を言いだすのかしら? そもそも私が、敵対するアナタの提案に乗るとでも?」
「そうか。なら残念だが――」
「――け・れ・ど。私は度量が大きいから、まず話だけは聞いてあげるわ。ほら、言ってみなさい」
「………………」
今にも木剣で頭を叩き割りたい衝動に駆られるが、ぐっと堪えて話を続ける。
「なら、単刀直入に言う。俺に仕える気はあるか?」
「ど、どういう意味かしら?」
「俺のテイムは魔物だけじゃなく魔族も使役することができる。お前が望むのなら、配下に加えてやってもいい」
「っ!」
俺から告げられたその事実は、リーベにとっても初耳だったのだろう。驚きに目を見開いている。
しばし思案した後、彼女はおずおずと口を開いた。
「……た、確かにそれは、考えようによっては悪くはない提案ね。ただ肝心のアナタは私を信用できるのかしら? ここでは従うふりをして、後から裏切る可能性だってあると思うのだけれど」
……ふむ。
まさかここに来てもまだ首を縦に振らないとは。
心の声が見えているおかげで、リーベが今すぐにでも提案を受け入れて生き延びたがっていることは分かってるんだが……プライドが邪魔をして簡単には頷けないといったところか。
とはいえ、逆にいえばもう一押しのところまでは来ているということ。
彼女がテイムを受け入れるだけの動機を、あとほんの少しでも与えてやれば、尻尾を振ってすり寄ってくるはずだ。
(となると、これならどうだ……?)
そこでふと、リーベを納得させるための良案が頭に浮かび上がる。
少し卑劣な方法にはなるが、まあコイツ相手ならいいだろう。
俺はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、そのまま彼女に語りかけた。
「何を言っているんだ、お前は。自分が敗北した理由をもう忘れたのか? 俺はお前の心の内を見通す力を持っている。逆らおうとしても無駄だ」
「なっ!? そ、それはさすがにありえないわ! 本当に読めるっていうなら、今の私が何を考えてるか言ってみなさい!」
「いいのか? それじゃあ――ごほん」
咳払いをした俺は、目の前に浮かぶメッセージウィンドウをそのまま読み上げる。
「『いやぁぁぁぁ! 何でこの場面で格好つけちゃったのよ、私! ホントは死にたくない! どんな手を使ってでも生き残りたいのにぃぃぃ! ねえお願い、命だけは助けて! アナタの言うことは絶対――――』」
「ぎゃぁぁぁあああああ! やめてぇぇぇえええええ!」
金切り声を上げて制止するリーベ。
うんうん、いい反応だ。
実際のところ、俺自身が心を読んでいるわけではないが……そう信じ込ませるにはこれで十分だろう。
それに心が読めないとしても、俺とテイム対象の間には特別な経路が生まれる。
ノワールに助けを求めた時のように、ある程度の感情や意思を伝え合うことはもちろん、経路を通じて命令することで使役対象の行動を一部制限できたりもする。
信頼関係を結べているガレルやノワールには不要な能力だと思っていたが、まさかこんなところで使い道ができるとは。
リーベが裏切りを企んだ時は、その瞬間に察知して対処してやればいい。
腹を決めた俺は、頭を抱えて顔を真っ赤にするリーベに告げた。
「要するにそういうことだ。俺に嘘はつけないし、裏切ろうとすれば即座に処分する。それでも俺の申し出を受ける気があるか?」
沈黙の後、リーベは真っ赤な顔のまま、もうどうにでもなれと言わんばかりに絶叫した。
「……分かったわよ! 従えばいいんでしょ、従えば! いいわ、私を生かしてくれるなら、アナタのために何だってしてあげる!」
何やら語弊のある発言にも聞こえたが……まあいいか。
こうして俺は、リーベを使役することになった。
項垂れる彼女の頭に手を置き、静かに魔力を送り込む。
「リーベ……これからは心を入れ替えて俺に仕えろ」
「……分かったわ」
その瞬間、俺と彼女の間に経路《パス》が生まれるのを感じた。
ステータスが一気に上昇する。中でもやはり魔力だけが群を抜いていた。
そして、それに続いて現れた本命のメッセージたち。
『テイムに成功しました』
『テイム対象が持つ力の一部が、あなたに与えられます』
『技能【遷移魔力】を習得しました』
『テイム数が一定数値を突破しましたため、技能【擬態化】を習得しました』
『【擬態化】:魔力を消費することで使役対象、および使役者の姿を一部変えることができる』
「よし、成功だ」
リーベをテイムして得たのは予想通り【遷移魔力】。
そしてテイム三回目を達成したことで、新たに【擬態化】まで手に入れることができた。
ゲームでは、レストがこの力を使い使役魔物をアカデミーに潜り込ませていた記憶がある。
何より特筆すべきは、これまでの技能とは違い【擬態化】は使役者――つまり俺自身にも使えるということだ。
「これは、活用法が色々とありそうだな」
満足げに頷く俺の前では、リーベが両手で頭を抱えていた。
「まさか、こんなことになるなんて……」
どうやら未だ現状を飲み込めないでいる様子だが、そのうち慣れるだろう。
正直なところ、俺だって状況の理解に戸惑っている部分はある。
とまあ、そんなことはさておき――
「ガレル、ノワール」
俺は配下のことは一旦忘れ、二体の大切な仲間に視線を向ける。
「今日は本当に助かったよ。ガレルとノワールの働きがあったからこそ、勝利できたんだ。ありがとう」
「ガウッ!」『ルウゥ!』
二体は嬉しそうに吠え、応えてくれる。
特にノワールは力強く頷いた後、大きく翼を羽ばたかせ高々と舞い上がった。
自分の結界に戻るのだろう。
「またな、ノワール!」
『ルゥゥ!』
俺たちはそのままノワールを見送り、屋敷に引き上げることにしたのだった。
目の前に突如として現れたメッセージウィンドウを見て、俺は思わず間の抜けた声を上げていた。
あれだけかっこよく宣言しておきながら、実はリーベが内心で必死に命乞いをしていた――などというのはどうでもよくて。
問題は、その後に続く『リーベが使役可能になりました』という一文だ。
ゲームにおいて、レストがテイムしていたのは魔物だけ(裏技を使った例外的存在もいたが、少なくとも魔族ではなかった)。
だからこそ俺は、魔族のリーベはテイムの対象外だと思い込んでいたのだが……どうやら現実は違ったらしい。
確かに【魔王の魂片】の影響でスキルが変質したという経緯を考えれば、魔物だけじゃなく魔族を使役できることも、そこまでおかしくはないように思う。
ただ……
(少し気になるのは、レストに魔族をテイムできる力があるなんて話は、ゲーム中にも一切出てこなかったこと……いや、待てよ)
ここでふと、俺は根本的な事実を思い出す。
そもそもテイムを成立させるには、その対象と戦って勝利することが大前提だ。
だが周知の通り、魔族というのは非常に強力な存在。原作のレストの実力では、そもそも倒すこと自体が難しかったのかもしれない。
仮に打ち負かせたとしても、その後相手が自分に仕える意思を見せることがもう一つの条件となる。
その点を考えれば……
「な、何よ、急にアタシの顔をジロジロと見だして。や、やるならさっさと一思いにしてくれないかしら!?」
プライドの高い魔族の中で、リーベのように何が何でも生き残ろうとするタイプは稀だ。
原作でレストが魔族をテイムできなかったのは、その辺りが理由だったのかもしれない。
「これはちょっとした盲点だったな……」
ゲーム内で語られている情報だけが、この世界の全てではない。
つまるところ、そういうことだろう。
いずれにせよ、状況はおおよそ理解できた。
となると残された問題は、リーベをテイムするかどうかだ。
リーベの力が自分のものになる。その観点だけで考えた場合……
(案外、悪くない話なんだよな)
リーベの持つ【遷移魔力】の潜在能力は実に強力。
格上相手には還元の力が通じにくいなどの欠点もあるが、その応用力の高さには目を見張るものがある。
ガレル、ノワールときて今度はリーベと、魔力関連の能力を持つ対象が続くのは少し偏りすぎかなとも思うが……今後テイムしようと思っている魔物の特性を加味すれば、むしろバランスがいいかもしれない。
となると、あとは本人の意思だけが問題だ。
裏切る可能性が少しでもある存在を、俺は身近に置くつもりはない。
そう考えながら、俺は鋭い視線をリーベに向けた。
「リーベ、お前に一つ提案がある」
「て、提案……?」
「ああ。その返答次第では、お前の命を助けてやってもいい」
「っっっ!」
パァァっと、リーベの瞳に光が宿る。
まさに千載一遇のチャンスを逃すまいという、強い意志が感じられた。
そんな自分の反応に彼女自身も気付いたのか、リーベは慌てて冷静を装おうと表情を作り変える。
「と、突然何を言いだすのかしら? そもそも私が、敵対するアナタの提案に乗るとでも?」
「そうか。なら残念だが――」
「――け・れ・ど。私は度量が大きいから、まず話だけは聞いてあげるわ。ほら、言ってみなさい」
「………………」
今にも木剣で頭を叩き割りたい衝動に駆られるが、ぐっと堪えて話を続ける。
「なら、単刀直入に言う。俺に仕える気はあるか?」
「ど、どういう意味かしら?」
「俺のテイムは魔物だけじゃなく魔族も使役することができる。お前が望むのなら、配下に加えてやってもいい」
「っ!」
俺から告げられたその事実は、リーベにとっても初耳だったのだろう。驚きに目を見開いている。
しばし思案した後、彼女はおずおずと口を開いた。
「……た、確かにそれは、考えようによっては悪くはない提案ね。ただ肝心のアナタは私を信用できるのかしら? ここでは従うふりをして、後から裏切る可能性だってあると思うのだけれど」
……ふむ。
まさかここに来てもまだ首を縦に振らないとは。
心の声が見えているおかげで、リーベが今すぐにでも提案を受け入れて生き延びたがっていることは分かってるんだが……プライドが邪魔をして簡単には頷けないといったところか。
とはいえ、逆にいえばもう一押しのところまでは来ているということ。
彼女がテイムを受け入れるだけの動機を、あとほんの少しでも与えてやれば、尻尾を振ってすり寄ってくるはずだ。
(となると、これならどうだ……?)
そこでふと、リーベを納得させるための良案が頭に浮かび上がる。
少し卑劣な方法にはなるが、まあコイツ相手ならいいだろう。
俺はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、そのまま彼女に語りかけた。
「何を言っているんだ、お前は。自分が敗北した理由をもう忘れたのか? 俺はお前の心の内を見通す力を持っている。逆らおうとしても無駄だ」
「なっ!? そ、それはさすがにありえないわ! 本当に読めるっていうなら、今の私が何を考えてるか言ってみなさい!」
「いいのか? それじゃあ――ごほん」
咳払いをした俺は、目の前に浮かぶメッセージウィンドウをそのまま読み上げる。
「『いやぁぁぁぁ! 何でこの場面で格好つけちゃったのよ、私! ホントは死にたくない! どんな手を使ってでも生き残りたいのにぃぃぃ! ねえお願い、命だけは助けて! アナタの言うことは絶対――――』」
「ぎゃぁぁぁあああああ! やめてぇぇぇえええええ!」
金切り声を上げて制止するリーベ。
うんうん、いい反応だ。
実際のところ、俺自身が心を読んでいるわけではないが……そう信じ込ませるにはこれで十分だろう。
それに心が読めないとしても、俺とテイム対象の間には特別な経路が生まれる。
ノワールに助けを求めた時のように、ある程度の感情や意思を伝え合うことはもちろん、経路を通じて命令することで使役対象の行動を一部制限できたりもする。
信頼関係を結べているガレルやノワールには不要な能力だと思っていたが、まさかこんなところで使い道ができるとは。
リーベが裏切りを企んだ時は、その瞬間に察知して対処してやればいい。
腹を決めた俺は、頭を抱えて顔を真っ赤にするリーベに告げた。
「要するにそういうことだ。俺に嘘はつけないし、裏切ろうとすれば即座に処分する。それでも俺の申し出を受ける気があるか?」
沈黙の後、リーベは真っ赤な顔のまま、もうどうにでもなれと言わんばかりに絶叫した。
「……分かったわよ! 従えばいいんでしょ、従えば! いいわ、私を生かしてくれるなら、アナタのために何だってしてあげる!」
何やら語弊のある発言にも聞こえたが……まあいいか。
こうして俺は、リーベを使役することになった。
項垂れる彼女の頭に手を置き、静かに魔力を送り込む。
「リーベ……これからは心を入れ替えて俺に仕えろ」
「……分かったわ」
その瞬間、俺と彼女の間に経路《パス》が生まれるのを感じた。
ステータスが一気に上昇する。中でもやはり魔力だけが群を抜いていた。
そして、それに続いて現れた本命のメッセージたち。
『テイムに成功しました』
『テイム対象が持つ力の一部が、あなたに与えられます』
『技能【遷移魔力】を習得しました』
『テイム数が一定数値を突破しましたため、技能【擬態化】を習得しました』
『【擬態化】:魔力を消費することで使役対象、および使役者の姿を一部変えることができる』
「よし、成功だ」
リーベをテイムして得たのは予想通り【遷移魔力】。
そしてテイム三回目を達成したことで、新たに【擬態化】まで手に入れることができた。
ゲームでは、レストがこの力を使い使役魔物をアカデミーに潜り込ませていた記憶がある。
何より特筆すべきは、これまでの技能とは違い【擬態化】は使役者――つまり俺自身にも使えるということだ。
「これは、活用法が色々とありそうだな」
満足げに頷く俺の前では、リーベが両手で頭を抱えていた。
「まさか、こんなことになるなんて……」
どうやら未だ現状を飲み込めないでいる様子だが、そのうち慣れるだろう。
正直なところ、俺だって状況の理解に戸惑っている部分はある。
とまあ、そんなことはさておき――
「ガレル、ノワール」
俺は配下のことは一旦忘れ、二体の大切な仲間に視線を向ける。
「今日は本当に助かったよ。ガレルとノワールの働きがあったからこそ、勝利できたんだ。ありがとう」
「ガウッ!」『ルウゥ!』
二体は嬉しそうに吠え、応えてくれる。
特にノワールは力強く頷いた後、大きく翼を羽ばたかせ高々と舞い上がった。
自分の結界に戻るのだろう。
「またな、ノワール!」
『ルゥゥ!』
俺たちはそのままノワールを見送り、屋敷に引き上げることにしたのだった。
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