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017 調査開始
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翌日早朝。
ガドに呼び出された俺は、気乗りしないながらも執務室へと向かっていた。
昨日の今日でいったい何の用なのか。
そう警戒する俺に対し、ガドの告げた言葉は予想外なものだった。
「レスト。お前には今日から、『アルストの森』の調査を命じる」
「……え?」
思わず素の声が出てしまうほど、それは衝撃的な内容だった。
『アルストの森』の調査なんて、俺にとっては願ってもない最高の申し出だ。
しかしあのガドがどうして、俺にそんな命令をしてくるのか。
疑問を抱いていると、ガドは続けて説明をしてきた。
先日、ガレウルフが森の浅い場所に出現したことから分かるように、現在『アルストの森』では何らかの異変が起きている。
本来ならば、アカデミーに通っていない者が立ち入ることは許されない場所だ。
だが今は非常事態。ガレウルフを単独で撃退した俺の実力を買って、この森の調査を任せたい――そうガドは力説した。
その言葉を聞きながら、俺の頭は素早く考えを巡らせていた。
『アルストの森』の本来の仕様を考えれば、ガレウルフの出現程度ではとても異変とは言えない。
この程度のこと、長年この地を治めてきたガドなら当然理解しているはずだ。
にもかかわらず、どうしてこんな提案をしてくるのか。
もしかして、森に入りたいという俺の心の内を読み取った上でサポートしようとしている?
まさか、そんなはずがない。
きっと俺が森で大怪我でもすれば御の字だと、そんな邪な考えでも抱いているのだろう。
だが皮肉なことに、この命令は俺にとって嬉しい誤算でもあった。
ガドの真意がどうあれ、当主直々に『アルストの森』への立ち入りを認められたのだから。
この千載一遇のチャンスを利用しない手はない!
俺は表面上は苦悩の表情を浮かべつつ、絞り出すような声で告げた。
「……それが、父上の命令であれば」
そんな俺の反応を見て、ガドは堪えきれないとばかりに笑みを零す。
「おお、引き受けてくれるか! それでこそ私の息子というものよ!」
あまりにもわざとらしい発言だ。
普段ならこの態度に怒りの感情が湧いてくるところだろう。
だが今の俺にとって、そんなことはどうでもいい些末な問題だった。
とにかく、一刻も早く『アルストの森』に向かいたい。俺の脳内はただそれだけに埋め尽くされていた。
その後、ガドから調査範囲についての簡単な説明を受けると、俺は神妙な面持ちで告げた。
「それではこれより準備を始め、すぐに出発いたします」
「うむ、頼んだぞ」
一礼して執務室を後にする。
扉が閉まるや否や、部屋の中からガドの嘲笑うような「はーはっはっは!」という大きな笑い声が聞こえてきた。
だが残念。
ガド以上に喜んでいるのがこの俺だ。
ガドの笑い声を背に受けながら、俺はルンルンスキップで『アルストの森』へと向かったのだった。
◇◆◇
『アルストの森』に到着した俺は、いつもの木剣を手に、まずは深呼吸で気持ちを落ち着けた。
そして辺りを見渡し、これからの探索計画を立て始める。
「さて、とりあえずここまでは来たが……どこから調べ始めるべきかな」
ここで一つ、前世のゲーム知識を振り返る。
『アルストの森』はゲームにおいて三つの区画に別れており、それぞれ浅層、中層、深層と呼ばれていた。
今回俺に任されたのは、その中でも一番難易度の低い浅層部分だけだ。
さすがにガドとしても、いきなり中層以降を調べさせるのは不自然だと考えたのだろう。
浅層に出現するのは、基本的にEランク下位からDランク中位までの比較的弱い魔物ばかり。
とはいえ先日のガレウルフのように、規格外の強力な個体が現れることもある。
決して油断は禁物だ。
「っと、そうだ。ガレウルフといえば……来い、ガレル!」
「バウッ!」
俺の呼びかけに応じて、異空間からガレルが姿を現した。
そのまま縮小化を解除すると、大きな体躯になったガレルが嬉しそうに俺の頬にすり寄ってくる。
「よーしよし。共闘するのは今日が初めてだけど、よろしくなガレル」
「クウゥ~ン」
心なしか、いつもよりもテンションの高そうなガレル。
そんな心強い相棒を伴って、俺は意気揚々と魔物討伐へと乗り出すのだった。
ゴブリン、ウルフ、コボルト……次々と現れる魔物たち。
だが俺とガレルにとっては、もはや物足りないくらいの相手だった。
「ハアッ!」
「ガルゥゥゥ!」
俺は木剣を、ガレルは鋭い牙や爪を振るい、容赦なく彼らを薙ぎ倒していく。
その最中、俺はある重要な事実に気がついていた。
重要な事実とは、ガレルの動きについてだ。
前回俺と戦った時よりも明らかに俊敏になっている。
これもまた、【テイム】のスキルがもたらす規格外の効果の一つ。
【テイム】は使役した本人《レスト》だけでなく、使役された魔物の能力を引き上げることもできるのだ。
「しかもその倍率は、俺の実力が上がるほど跳ね上がっていくときた……改めて考えても、とんでもないぶっ壊れスキルだよな……」
そんな感想を漏らしつつ、俺は黙々と戦いを続ける。
ちなみに、俺の武器が木剣なのには理由がある。
テイムを持つ俺にとって、魔物を殺さずに無力化するにはこれが最適なのだ。
もし切れ味が必要になっても、『纏装』を使えばいくらでも対応できるしな。
「ピィイイイイイイイ!」
「うおっと」
ふと殺気を感じ咄嗟にその場から飛びのくと、全身を炎に包まれた大きな鳥が通り過ぎていく。
鳥は俺に攻撃を躱されたことを理解すると、離脱するように上空に移動した。
「コイツは確か、ファイアバードだったか」
Dランク中位に位置する飛行型の魔物だ。
木剣しか持たない俺では、こいつにダメージを与えるのは難しい。
だが、ここで俺はにっと笑みを浮かべる。
「風魔法の練習には、ちょうどいい的だ」
纏装はあくまで近接戦闘での応用技。風魔法の本領は遠距離攻撃にある。
それを使いこなせないことには、ガレルから風魔法を受け継いだ意味がない。
俺は精神を集中させ、体内の魔力を限界まで高める。
そしてファイアバードに右手を向けながら、高らかに叫んだ。
「喰らえ、ウィンドショット!」
風属性の初級魔法、ウィンドショット。
手のひらに溜めた魔力が風の弾丸となり、一直線にファイアバードへと突き進む。
大気を押しのけながら飛んでいく砲弾は、そのまま見事にファイアーバードの胴体を貫いた。
「よし、狙い通りだ!」
ファイアバードの討伐を確認し、俺が歓喜の声を上げたその直後だった。
「ん? なんだ、これ……」
突如として不思議な感覚が全身を包み込んでくる。
まるで体が軽くなったような、心地よい感覚だ。
その正体はすぐに察しがついた。
「そうか、これがレベルアップってやつか」
先日ガレルと戦った時は、最後にテイムしたせいで経験値を得られなかった。
だが今日に関しては最後まできちんとトドメを刺したため、無事に魔物たちから経験値を獲得できたのだろう。
いずれにせよ、これでようやく深夜トレやテイム以外での強化手段を手に入れたことになる。
「ってか、本当ならレベルアップこそ一番基本の強化手段なはずなんだけど……まさかそれが一番最後になるとはな」
そう自嘲気味に呟きながらも、俺の口元は笑みを浮かべていた。
ついでに言っておくと、ガレルが倒した魔物の経験値も当然俺に入ってくる。
おかげで俺のレベルは、その後も留まることなくグングンと上がっていった。
それと同時に、屋敷では叶わなかった風魔法の修行も並行して進めていく。
こうして俺は、驚くべきスピードで成長を遂げていくのだった。
ガドに呼び出された俺は、気乗りしないながらも執務室へと向かっていた。
昨日の今日でいったい何の用なのか。
そう警戒する俺に対し、ガドの告げた言葉は予想外なものだった。
「レスト。お前には今日から、『アルストの森』の調査を命じる」
「……え?」
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しかしあのガドがどうして、俺にそんな命令をしてくるのか。
疑問を抱いていると、ガドは続けて説明をしてきた。
先日、ガレウルフが森の浅い場所に出現したことから分かるように、現在『アルストの森』では何らかの異変が起きている。
本来ならば、アカデミーに通っていない者が立ち入ることは許されない場所だ。
だが今は非常事態。ガレウルフを単独で撃退した俺の実力を買って、この森の調査を任せたい――そうガドは力説した。
その言葉を聞きながら、俺の頭は素早く考えを巡らせていた。
『アルストの森』の本来の仕様を考えれば、ガレウルフの出現程度ではとても異変とは言えない。
この程度のこと、長年この地を治めてきたガドなら当然理解しているはずだ。
にもかかわらず、どうしてこんな提案をしてくるのか。
もしかして、森に入りたいという俺の心の内を読み取った上でサポートしようとしている?
まさか、そんなはずがない。
きっと俺が森で大怪我でもすれば御の字だと、そんな邪な考えでも抱いているのだろう。
だが皮肉なことに、この命令は俺にとって嬉しい誤算でもあった。
ガドの真意がどうあれ、当主直々に『アルストの森』への立ち入りを認められたのだから。
この千載一遇のチャンスを利用しない手はない!
俺は表面上は苦悩の表情を浮かべつつ、絞り出すような声で告げた。
「……それが、父上の命令であれば」
そんな俺の反応を見て、ガドは堪えきれないとばかりに笑みを零す。
「おお、引き受けてくれるか! それでこそ私の息子というものよ!」
あまりにもわざとらしい発言だ。
普段ならこの態度に怒りの感情が湧いてくるところだろう。
だが今の俺にとって、そんなことはどうでもいい些末な問題だった。
とにかく、一刻も早く『アルストの森』に向かいたい。俺の脳内はただそれだけに埋め尽くされていた。
その後、ガドから調査範囲についての簡単な説明を受けると、俺は神妙な面持ちで告げた。
「それではこれより準備を始め、すぐに出発いたします」
「うむ、頼んだぞ」
一礼して執務室を後にする。
扉が閉まるや否や、部屋の中からガドの嘲笑うような「はーはっはっは!」という大きな笑い声が聞こえてきた。
だが残念。
ガド以上に喜んでいるのがこの俺だ。
ガドの笑い声を背に受けながら、俺はルンルンスキップで『アルストの森』へと向かったのだった。
◇◆◇
『アルストの森』に到着した俺は、いつもの木剣を手に、まずは深呼吸で気持ちを落ち着けた。
そして辺りを見渡し、これからの探索計画を立て始める。
「さて、とりあえずここまでは来たが……どこから調べ始めるべきかな」
ここで一つ、前世のゲーム知識を振り返る。
『アルストの森』はゲームにおいて三つの区画に別れており、それぞれ浅層、中層、深層と呼ばれていた。
今回俺に任されたのは、その中でも一番難易度の低い浅層部分だけだ。
さすがにガドとしても、いきなり中層以降を調べさせるのは不自然だと考えたのだろう。
浅層に出現するのは、基本的にEランク下位からDランク中位までの比較的弱い魔物ばかり。
とはいえ先日のガレウルフのように、規格外の強力な個体が現れることもある。
決して油断は禁物だ。
「っと、そうだ。ガレウルフといえば……来い、ガレル!」
「バウッ!」
俺の呼びかけに応じて、異空間からガレルが姿を現した。
そのまま縮小化を解除すると、大きな体躯になったガレルが嬉しそうに俺の頬にすり寄ってくる。
「よーしよし。共闘するのは今日が初めてだけど、よろしくなガレル」
「クウゥ~ン」
心なしか、いつもよりもテンションの高そうなガレル。
そんな心強い相棒を伴って、俺は意気揚々と魔物討伐へと乗り出すのだった。
ゴブリン、ウルフ、コボルト……次々と現れる魔物たち。
だが俺とガレルにとっては、もはや物足りないくらいの相手だった。
「ハアッ!」
「ガルゥゥゥ!」
俺は木剣を、ガレルは鋭い牙や爪を振るい、容赦なく彼らを薙ぎ倒していく。
その最中、俺はある重要な事実に気がついていた。
重要な事実とは、ガレルの動きについてだ。
前回俺と戦った時よりも明らかに俊敏になっている。
これもまた、【テイム】のスキルがもたらす規格外の効果の一つ。
【テイム】は使役した本人《レスト》だけでなく、使役された魔物の能力を引き上げることもできるのだ。
「しかもその倍率は、俺の実力が上がるほど跳ね上がっていくときた……改めて考えても、とんでもないぶっ壊れスキルだよな……」
そんな感想を漏らしつつ、俺は黙々と戦いを続ける。
ちなみに、俺の武器が木剣なのには理由がある。
テイムを持つ俺にとって、魔物を殺さずに無力化するにはこれが最適なのだ。
もし切れ味が必要になっても、『纏装』を使えばいくらでも対応できるしな。
「ピィイイイイイイイ!」
「うおっと」
ふと殺気を感じ咄嗟にその場から飛びのくと、全身を炎に包まれた大きな鳥が通り過ぎていく。
鳥は俺に攻撃を躱されたことを理解すると、離脱するように上空に移動した。
「コイツは確か、ファイアバードだったか」
Dランク中位に位置する飛行型の魔物だ。
木剣しか持たない俺では、こいつにダメージを与えるのは難しい。
だが、ここで俺はにっと笑みを浮かべる。
「風魔法の練習には、ちょうどいい的だ」
纏装はあくまで近接戦闘での応用技。風魔法の本領は遠距離攻撃にある。
それを使いこなせないことには、ガレルから風魔法を受け継いだ意味がない。
俺は精神を集中させ、体内の魔力を限界まで高める。
そしてファイアバードに右手を向けながら、高らかに叫んだ。
「喰らえ、ウィンドショット!」
風属性の初級魔法、ウィンドショット。
手のひらに溜めた魔力が風の弾丸となり、一直線にファイアバードへと突き進む。
大気を押しのけながら飛んでいく砲弾は、そのまま見事にファイアーバードの胴体を貫いた。
「よし、狙い通りだ!」
ファイアバードの討伐を確認し、俺が歓喜の声を上げたその直後だった。
「ん? なんだ、これ……」
突如として不思議な感覚が全身を包み込んでくる。
まるで体が軽くなったような、心地よい感覚だ。
その正体はすぐに察しがついた。
「そうか、これがレベルアップってやつか」
先日ガレルと戦った時は、最後にテイムしたせいで経験値を得られなかった。
だが今日に関しては最後まできちんとトドメを刺したため、無事に魔物たちから経験値を獲得できたのだろう。
いずれにせよ、これでようやく深夜トレやテイム以外での強化手段を手に入れたことになる。
「ってか、本当ならレベルアップこそ一番基本の強化手段なはずなんだけど……まさかそれが一番最後になるとはな」
そう自嘲気味に呟きながらも、俺の口元は笑みを浮かべていた。
ついでに言っておくと、ガレルが倒した魔物の経験値も当然俺に入ってくる。
おかげで俺のレベルは、その後も留まることなくグングンと上がっていった。
それと同時に、屋敷では叶わなかった風魔法の修行も並行して進めていく。
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