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054 面倒な輩
しおりを挟む「おいおい、それはよくねえなぁ兄ちゃん! そんなゴミみたいなレベルでこのギルドに登録するだと? うちの評判を落とすつもりか!?」
「…………」
ギルド内にいた一人の冒険者が、そんな大声を張り上げた。
年齢は30代半ばだろうか。背は高く、筋肉質な肉体が特徴的な男だ。
漂う気配からしてアルト以上、ネクロ・デモン(1000レベル個体)以下といったところだろう。
男は俺がギルドに所属するのが気に食わなかったのか、それともまた別の目的があるのか、意地の悪い笑みを浮かべながら近づいてくる。
そしてそのまま、俺の右肩にポンッと手を置いた。
「仕方ねぇ。現実が見えてねぇテメェみたいなクソガキには、この俺様が直々に指導してやるよ」
続く言葉からは、明確に俺を傷付けてやろうという敵意を感じた。
だからこそ俺は、
「おい」
「あん? なんだ、その口の利き方は――」
その男に、敵意をそっくりそのままお返しする。
何倍にも、それを膨れ上がらせて。
「手を、離せ」
「――――ッ!?」
それだけで十分だった。
俺の敵意を真正面から受けた男は、目を見開いた後、震える足で無意識に後ずさる。
当然、その拍子に手も俺の肩から離れた。
「大変お待たせしました! こちらがシモンさんの冒険者カードに……あれ? 何かありましたか?」
「いや、何でもない。ありがとう」
タイミングよく戻ってきた受付嬢から冒険者カードを受け取ると、俺は踵を返し出口に向かう。
受けられる依頼もない以上、このギルドに留まる理由もない。
さっさとダンジョンの攻略にでも向かう方が、よっぽど効率的だろう。
「テ、メェ……」
背中に向けられた弱々しい敵意と呼びかけを無視し、俺はそのままギルドを後にするのだった。
◇◆◇
シンがギルドから出ていった後。
男は必死に、体の震えを止めようとしていた。
脳裏には、先ほどシンから向けられた鋭い視線が過る。
(何だ、今のは? レベルからして、アイツはただの雑魚なはず。なのにこの俺様が気配に圧されただと……?)
意味が分からず困惑する男のもとに、数人の冒険者――取り巻きが近づく。
「珍しいですね、フールさんが生意気な新入りにお灸をすえないなんて」
「何か思うところがあったんですか?」
その問いにどう答えるべきか、男は考えた。
まさかあんな低レベル相手に恐怖を抱いたなど、とてもじゃないが説明できない。
「あ、ああ。さすがにアレだけ弱けりゃ、軽く手を出しただけで殺しちまうかもと思ってよ」
「なるほど! さすがフールさんです!」
適当な言い訳をすると、取り巻きは納得して頷く。
彼らの反応を見るに、シンの得体の知れなさは自分以外感じ取れなかったようだ。
いやいや、と。
男は首を横に振った。
恐らく正しいのは取り巻きたちで、間違っているのは自分だ。
なにせ、あんな低レベル相手に自分がビビるなどありえないことなのだから。
(そうだ、そうに決まっている。それにあれだけレベルが低けりゃ、俺様が手を出すまでもなくダンジョンであっさり死ぬはず……そうに決まってる!)
抱いた恐怖心を無理やり振り払うように、男は――
フール・ブラスフェミーは、そう自分を納得させるのだった。
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