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040 媚びと命乞い

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 ガレンの死から数分後。
 魔力の痕跡を辿った結果、シンは小さな広間に辿りついた。

 広間内には魔物の死体が大量に並び、中心には魔物たちの水飲み場であろう小さな池が存在している。
 そして、その池の前には一人の少女――聖女シエラが座り込んでいた。

「……見つけた」

 ゆっくりと、歩を進め始めるシン。
 シエラは遅れてその存在に気付くと、青ざめた表情で叫んだ。

「待ってください、シン! 私は騙されていたんです!」

 ピタリ、と。
 シンの動きが止まる。

「本当は貴方を傷付けたくなんかありませんでした! だけどアルトたちに脅されて、そうするしかなかったんです! パーティーでたった一人の女性である私には抵抗しようもなく……本当なんです、信じてください!」

 信憑性の欠片もない、あからさまな嘘だった。
 シンは思わず、不快気な表情を浮かべた。


「……そんな分かり切った命乞いに、騙されるとでも思っているのか? 二年前のあの日、嘲笑うお前の姿は紛れもなく本物だった」
「いいえ違います! あの時、貴方は混乱の中にあったでしょう? きっとそれで記憶が歪んでしまったのです。確かにアルトたちを騙すため、ひどいことを言ってしまいましたが……その時の私は胸が張り裂けそうなほど辛かったのです」
「………………」


 これでは話にもならない。
 シンが歩みを再開しようとすると、シエラは慌てた様子で付け足す。

「ど、どうしてか分かりますか!? 私は貴方のことを大切な仲間だと思っていたのと同時に……お慕いしていたからです!」
「……何だと?」

 場にそぐわない想定外の発言を聞き、疑問を露わにするシン。 
 逆にシエラはここが好機だと思ったのか、媚びるような声で続ける。


「覚えてますか、シン? 貴方がパーティーに入った後、初めてトレードヘブンの町に戻ってきた時、街中を案内してあげましたよね? 見慣れぬものばかりの街並みを前にして、純粋に目を輝かせる貴方を見て私は惹かれたのです」
「………………」
「こんな経験は、私にとっても初めてのことでした。だからこそ接し方が分からず、貴方に勘違いさせてしまったこともあったかもしれません……けれどこの想いだけは確かなものなのです。どうか信じてください、シン」


 シエラは語り続ける。
 細めた目には涙が溜まり、縋るように震える声でシンへの想いを吐露する。
 その姿は、救いを求める聖女としてあまりに完成されたものだった。
 並の男性であれば、ここまでの経緯など一切関係なく信じてしまうほどに。

 そんなシエラの言葉に対し、シンは――

「……本気で言ってるのか?」

 ――確認するような口調で、そう尋ねた。
 それを聞いたシエラは思わず破顔するも、すぐに表情をもとに戻す。

「え、ええ! 本気です! 神に誓って、嘘をついたりはいたしません」
「……そうか」

 納得したようにそう呟いた後、シンは今度こそ歩みを再開させる。
 しかしその姿から、先ほどまでの敵意は感じなかった。

 そんなシンを見て、シエラは心の中で笑った。


(……あ、あはは! やはりシンはシンですね! このような嘘に呆気なく騙されてしまうなんて……! しかしそれも仕方ありません、それだけ私の美貌が魅力的だったということですから)

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