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036 逆襲の一手
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Cランクダンジョン【蜥蜴の巣穴】の広間にて。
そこにはただ、野太い悲鳴だけが響いていた。
「ぐわぁぁぁああああああああ!」
言葉にならないほどの痛みが、絶え間なくガレンの体を蝕む。
今にも意識を失いそうな苦痛の中、ガレンが視線を向けた先には、顔色一つ変えずに自傷を繰り返すシンの姿があった。
(どうなって、やがる……! 痛みを共有するスキルじゃなかったのか!? なのに何故、シンの野郎はあんなに平然な顔でいやがるんだ……!)
自分でも耐えられない程の痛みに、シンが耐えられるとはとても思えない。
そう考えたガレンは、すぐにシンが嘘をついているという発想に至った。
問題は嘘の中身だ。
本当は痛みを共有するのではなく、譲渡するスキルなのではないか――ガレンはそう推測した。
そうでもなければ、とても納得できる状況じゃなかったからだ。
間違った解答に辿り着いたガレンは思考を続ける。
(シンの野郎、ふざけやがって……何が我慢比べだ! 一方的に痛みで俺を殺すつもりなんだろう……だが、ツメが甘かったな!)
絶望的な状況の中で、しかしガレンは小さな笑みを零した。
(まだ、ここから挽回するための手はある! あの野郎の前で見せたのはほんの数回だから忘れているんだろう……それが命取りだ!)
痛みに耐えながらも、ガレンはこの危機的状況を覆す手段として2つのスキルを思い描いていた。
1つは狂乱化。
これは1分間だけ防御力を大きく減少させる代わりに、攻撃力を大きく上昇させるスキルだ。
さらにスキル発動中、一時的に痛みを感じなくなるという付随効果も存在する。
今のガレンにとっては、そちらの方がより大きな意味を持っていた。
そしてもう1つ、こちらが本命。
戦士職であるガレンにとって最大の切り札ともいうべきスキルがあった。
名を【防御透過撃】
狂乱化中、および5分以内にクリティカル攻撃を命中させた相手に対してのみ使用可。
そして同じ相手に攻撃を命中させた際、相手の防御力分だけ攻撃力が上昇するという、規格外の性能を誇るスキルだ。
そして幸いなことに今、これらの条件は全て満たされていた。
先ほどガレンが放った斧による一撃――シンにダメージを与えることこそできなかったものの、無防備な首元に当てたことで見事に《クリティカル判定》が発生していた。
シンの防御力がどれだけ高かろうと問題ない。
その分だけ、ガレンの攻撃力も増すのだから。
防御透過撃を当てることさえ叶えば、シンの防御力を完全に無視した上で、元々のガレンが持つ攻撃力分だけダメージを与えることができる。
(テメェが1000レベル超えの実力だろうが関係ねえ。この一撃なら、十分通用する――いや、場合によっちゃ一撃で殺れるはずだ)
重要なのはタイミング。
相手の油断をつき、的確に命中させる必要がある。
(我慢比べなんてふざけたモンに付き合ってやる義理はねえ。テメェだけは絶対に、この手で殺してやる!)
今なお襲い続ける痛みを殺意で塗り替え――
ガレンはとうとう、その瞬間を見つけた。
「狂乱化!」
「――――ッ!」
まずは狂乱化を発動。
痛みから解放されると同時に、防御透過撃の発動条件を満たす。
これはシンにとっても予想外だったのだろう。
彼はわずかに目を見開いたまま、身動き一つ取ろうとはしなかった。
そんな隙だらけのシン目掛け、ガレンは自分の全てを賭した一撃を放つ。
「今度こそ死にやがれ――――防御透過撃!!!」
格段に攻撃力を増し、莫大な破壊力を孕んだ斧がシンに迫る。
斧はそのまま、シンの頭部へと勢いよく吸い込まれていき――――
パシン、と。
受け止められた。
左手で、片手一つで。
いとも容易く、まるで子供のチャンバラを相手にするかのように。
「――――は?」
思考が、完全に停止する。
意味が。意味が分からない。
なぜ受け止められた?
スキルはきちんと発動している。
シンの防御力分だけ攻撃力は上がっている。
一撃で殺しきれないだけなら分かる。
しかしこれではまるで、ダメージが全く入っていないかのよう――
「おい」
困惑するガレンの鼓膜を、シンの冷徹な声が震わせた。
「近いぞ」
「…………へ?」
ザァン! と、剣閃が一つ。
瞬いたかと思った次の瞬間にはもう、ガレンの右腕は宙を舞っていた。
「あ、あぁぁぁああああああああ!」
狂乱化はまだ続いているため、痛み自体はない。
それでも自分の四肢が欠損する光景を直に見せられたガレンは、恐怖心からこれまでで一番の叫び声を上げた。
なぜ自分の攻撃を受け止められたか分からないまま、右腕を失った事実に恐怖するガレンを見て、シンは――
「……惨めだな、お前」
――思わず、そんな言葉を零すのだった。
そこにはただ、野太い悲鳴だけが響いていた。
「ぐわぁぁぁああああああああ!」
言葉にならないほどの痛みが、絶え間なくガレンの体を蝕む。
今にも意識を失いそうな苦痛の中、ガレンが視線を向けた先には、顔色一つ変えずに自傷を繰り返すシンの姿があった。
(どうなって、やがる……! 痛みを共有するスキルじゃなかったのか!? なのに何故、シンの野郎はあんなに平然な顔でいやがるんだ……!)
自分でも耐えられない程の痛みに、シンが耐えられるとはとても思えない。
そう考えたガレンは、すぐにシンが嘘をついているという発想に至った。
問題は嘘の中身だ。
本当は痛みを共有するのではなく、譲渡するスキルなのではないか――ガレンはそう推測した。
そうでもなければ、とても納得できる状況じゃなかったからだ。
間違った解答に辿り着いたガレンは思考を続ける。
(シンの野郎、ふざけやがって……何が我慢比べだ! 一方的に痛みで俺を殺すつもりなんだろう……だが、ツメが甘かったな!)
絶望的な状況の中で、しかしガレンは小さな笑みを零した。
(まだ、ここから挽回するための手はある! あの野郎の前で見せたのはほんの数回だから忘れているんだろう……それが命取りだ!)
痛みに耐えながらも、ガレンはこの危機的状況を覆す手段として2つのスキルを思い描いていた。
1つは狂乱化。
これは1分間だけ防御力を大きく減少させる代わりに、攻撃力を大きく上昇させるスキルだ。
さらにスキル発動中、一時的に痛みを感じなくなるという付随効果も存在する。
今のガレンにとっては、そちらの方がより大きな意味を持っていた。
そしてもう1つ、こちらが本命。
戦士職であるガレンにとって最大の切り札ともいうべきスキルがあった。
名を【防御透過撃】
狂乱化中、および5分以内にクリティカル攻撃を命中させた相手に対してのみ使用可。
そして同じ相手に攻撃を命中させた際、相手の防御力分だけ攻撃力が上昇するという、規格外の性能を誇るスキルだ。
そして幸いなことに今、これらの条件は全て満たされていた。
先ほどガレンが放った斧による一撃――シンにダメージを与えることこそできなかったものの、無防備な首元に当てたことで見事に《クリティカル判定》が発生していた。
シンの防御力がどれだけ高かろうと問題ない。
その分だけ、ガレンの攻撃力も増すのだから。
防御透過撃を当てることさえ叶えば、シンの防御力を完全に無視した上で、元々のガレンが持つ攻撃力分だけダメージを与えることができる。
(テメェが1000レベル超えの実力だろうが関係ねえ。この一撃なら、十分通用する――いや、場合によっちゃ一撃で殺れるはずだ)
重要なのはタイミング。
相手の油断をつき、的確に命中させる必要がある。
(我慢比べなんてふざけたモンに付き合ってやる義理はねえ。テメェだけは絶対に、この手で殺してやる!)
今なお襲い続ける痛みを殺意で塗り替え――
ガレンはとうとう、その瞬間を見つけた。
「狂乱化!」
「――――ッ!」
まずは狂乱化を発動。
痛みから解放されると同時に、防御透過撃の発動条件を満たす。
これはシンにとっても予想外だったのだろう。
彼はわずかに目を見開いたまま、身動き一つ取ろうとはしなかった。
そんな隙だらけのシン目掛け、ガレンは自分の全てを賭した一撃を放つ。
「今度こそ死にやがれ――――防御透過撃!!!」
格段に攻撃力を増し、莫大な破壊力を孕んだ斧がシンに迫る。
斧はそのまま、シンの頭部へと勢いよく吸い込まれていき――――
パシン、と。
受け止められた。
左手で、片手一つで。
いとも容易く、まるで子供のチャンバラを相手にするかのように。
「――――は?」
思考が、完全に停止する。
意味が。意味が分からない。
なぜ受け止められた?
スキルはきちんと発動している。
シンの防御力分だけ攻撃力は上がっている。
一撃で殺しきれないだけなら分かる。
しかしこれではまるで、ダメージが全く入っていないかのよう――
「おい」
困惑するガレンの鼓膜を、シンの冷徹な声が震わせた。
「近いぞ」
「…………へ?」
ザァン! と、剣閃が一つ。
瞬いたかと思った次の瞬間にはもう、ガレンの右腕は宙を舞っていた。
「あ、あぁぁぁああああああああ!」
狂乱化はまだ続いているため、痛み自体はない。
それでも自分の四肢が欠損する光景を直に見せられたガレンは、恐怖心からこれまでで一番の叫び声を上げた。
なぜ自分の攻撃を受け止められたか分からないまま、右腕を失った事実に恐怖するガレンを見て、シンは――
「……惨めだな、お前」
――思わず、そんな言葉を零すのだった。
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