上 下
31 / 87

031 絶対的な差

しおりを挟む
 復讐の始まりを告げるシンと、その足元に横たわる上半身だけのセドリック。
 誰もが状況を呑み込めず、つかの間の静寂が訪れる。

 その静寂を破ったのは、1人の少女の悲鳴だった。

「――っ、きゃぁああああああああああ!」

 クリムにとって、それはあまりにも衝撃的な光景だった。
 2年間、共に旅をしてきた仲間が突如として殺されるなどという悲惨な経験は、彼女にとって初めてだったからだ。

 そんな彼女の悲鳴は、周囲の者たちにも強く響いた。

「っ! 貴様、よくもやってくれたな!?」

 遅れて我に返ったアルトは、剣先をシンに向けながら糾弾を試みる。
 しかし――


「黙れ。
「――――くっ!」


 睨み一つで、その気勢をがれることとなった。
 ただ雰囲気に圧されただけではない。
 もっと具体的に、青年の体から放たれた魔力の圧がアルトたちの体を抑え込んだのだ。

 全員がその場に膝をつく中で、アルトは困惑していた。

(なんだこれは!? 魔法やスキルでもなく、ただの魔力圧で俺たちが身動きもできないだと!? ありえない! こんなことはSランク冒険者でもできないはず……コイツはいったい何なんだ!?)

 いつ命を奪われてもおかしくない状況に、冷や汗を流すアルトたち。
 しかしシンはそんな彼らを一瞥した後、すぐにセドリックへ視線を戻した。

 すると、その直後。

「あり、えません……なぜ、私が横たわって……貴方はいったい、何をしたのですか……?」

 上半身だけになってなお、セドリックはゆっくりと言葉を紡いでいた。
 保有する魔力を総動員して、かろうじて延命しているのだ。

 シンは率直な感想を告げる。

「……想定通りとはいえ、さすがだな。体を半分にされても延命できるのは、この中で賢者のお前だけだろう」

 とはいえ、それは決して死の運命から逃れられるようなものではない。
 シンの無限再生とは違うのだ。
 それでも知的好奇心に満ちた賢者セドリックにとって、死ぬ前に残されたこの時間は価値あるものであり、最後に自分の疑問を解消しようと試みているのだ。 

 その様子を見たシンはわずかに目を細める。

「見ての通り――いや、見えなかったのか。ただこの剣でお前を斬っただけだよ」
「……分かり、ません。貴方は、何者……なのですか? これほどの実力者に恨まれる覚えなど、私には一切ありません……」

 ここに来てもなお、セドリックはシンの正体を疑っていた。
 恐らくそれはアルトたちも同様なのだろう。

「……仕方ないか」

 これでは復讐を進めることができない。
 そう考えたシンは小さくため息を吐いた後、その場にしゃがみ込み……セドリックに向けて
 そして、

「さっきの言葉は嘘じゃない。
「――――!」

 その笑顔には効果があったのか。
 セドリックは驚愕したように目を見開いていた。

「そん、な……本当に、あのシンだと言うのですか……? ですが、理解できません! それならどうやって、貴方はあの場所から生き延びて……そして何より、それだけの力を得たというのですか!?」

 死に際とは思えないほどの勢いで、セドリックは次々と言葉を紡いでいく。
 青年の正体がシンであると認めたことで、さらに幾つもの疑問が生まれてしまったからだろう。

「………………」

 そんなセドリックを見下ろしながら、シンは彼との思い出を遡っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

処理中です...